映画『れいこいるか』インタビュー(4)武田暁さん「伊智子は強い女性」
現在公開中のいまおかしんじ監督の新作映画『れいこいるか』。阪神・淡路大震災で一人娘を亡くした夫婦の23年間を描き好評を博している。
妻・伊智子を演じたのが関西の演劇界で活躍中の武田暁さん。何があっても慌てず、揺るがず笑顔で受け入れる女性を体現した。直接お話を伺ってみるとささやくような優しいトーンでお話をされる。笑顔を絶やさず、誠実に言葉を紡ぐ姿が印象的だった。
――武田さんはずっと舞台に立って来られて、映画の現場は初めてとのことですが、実際出演されて、舞台と違った面白さは何か感じられましたでしょうか。
武田:やはり一番は、撮っている時に実感がないっていうことでしょうか。出来上がった作品を観るまで、演技のどこを切り取られたのかがわからないんです。
当時の戸惑いがどうすれば伝わるか、言葉を探している様子が伺える。
武田:舞台だとおおよそお客さんが観ているところがわかるんですけど。
撮影中にとても悩んで、映像慣れした俳優の友達に相談してみたんです。そうしたら「映画は監督のものだから、監督が OKって言ったら OK。それ以上は何もできないよ」って言われました。やっぱりそこがやっぱり一番違いますかね。
――それを聞いた時にすぐ腑に落ちましたか?それともモヤモヤする感じでしたか。
武田:そうか…。って、最初は自分で何ともできないことを実感しましたね。今日のような舞台挨拶もそうですけど、すごくドキドキして、後からああ言えばよかったと思っても、何も変えることができませんよね。
ずっと舞台に立ってきた方から「ドキドキする」といった言葉が出てきたのが少し意外に感じる。言葉の上を慎重に歩くような、その感触を楽しむような口調で続ける武田さん。
武田:舞台は毎日公演があるので、昨日ダメだったから今日はこうしてみようと、新たな気持ちで取り組めるんです。それが映画とは違っているところですね。最初はそうやって納得したと言うか。でも監督は全然細かい指示をされないので、映画の演技としての手順を踏めたという感覚がなくて。ただ、出来上がってきた時の面白さというのが、舞台の何百倍もあるんだなって驚きました。
――ご自分が予想してないところで、面白さが見えたんでしょうか。
武田:そうですね。舞台だと演出家がいるので、舞台装置を組んで照明や美術が入ると、こう見せたいのだなって、演出家の意図がわかっていくんですけど、映画の場合は、上映初日までわからなかったですね。撮影の間は、ドラマティックな事はほぼないくらい淡々と進んでいったんです。でも上映を観ると音楽が入って、少しドラマティックに感じましたし。“伊智子さんという人は、この方向になってはいけないと思っていたけど、こちらにしてOKの人だったんだ”と理解できたり。後からの気付きが多い分、面白く感じましたね。
――今回、上映をご覧になって予想外に面白かったシーンや、印象に残っていることはありますか。
武田:私が出演していないシーンで、私の浮気相手が後々登場して、太助さんとやり取りするシーンで吹き出しましたね。結構シリアスなシーンなのに。脚本ではその雰囲気はわからなかったんですよ。
――現場でも脚本に書かれた台詞のままだったんでしょうか。
武田:そうですね。もちろんアドリブもあるんですけどね。その他にもいろいろとありました。太助さんのエピソードと、私のエピソードをつなげて、音を全部なくしたシーンは驚きました。撮影では声ありで撮ったんです。完成したものを観ると、なんて効果的なシーンになったんだろうって。
映画だから可能な表現となったこのシーン。武田さんの驚きと予想もしなかったシーンに出会えた喜びが伝わってくる。ぜひ劇場でその衝撃を体感して頂ければと思う。
――舞台挨拶では、伊智子さんはご自身と正反対と仰っていましたが、伊智子さんという女性は演じられて、どのような女性だと思われましたか。
武田:伊智子は強い人だと思いました。哀しみを表に出さないこと。誰かにすがったり訴えかけないこと。何か事が起こっても、自分がやってきたことと天秤にかけて、どこかで納得しようとする強さもある人なのだなと。ちゃらんぽらんですけどね。やっていることは(笑)。
――でも、どうにも憎めないと言うか。愛おしいなと思って見ていました。
武田:他人を責めないですからね。それはすごいことですよね。
――そうですね。最後に観客の方に向けて、こういったところ見てほしいというポイントがありましたらお聞かせください。
武田:いまおかさんの作品世界は、今回であれば最初に“震災ものですよ”って宣言して始まっても、観る人の想像から外れたところに、それも何でもない日常のシーンに、くすっと笑えるようなちょっとした仕掛けがたくさんあります。それが独特の今岡さんの世界観を作り上げていると思うので、ぜひそこ見ていただけたらなと思います。
上映の最新情報については公式サイトをご確認の上、ぜひ劇場に足をお運びください。
執筆者
デューイ松田
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