阪神・淡路大震災で一人娘を亡くした夫婦の23年間。言葉にしない哀しみを、ユーモア溢れる筆致で綴った いまおかしんじ監督の新作『れいこいるか』。

『たまもの』(04)、『かえるのうた』(06)『UNDERWATER LOVE おんなの河童』(11)、『つぐない 新宿ゴールデン街の女』(14)、『あなたを待っています』(16)など、いまおか監督の数々の作品群に、また1つ愛すべき作品が加わった。

――最初に脚本を書かれた時に、時代性や事件、ニュースといったものを取り入れようとされたと仰っていたんですけども、それから20数年経ってご自身の中で題材との向き合い方で変わった点はありましたでしょうか。

いまおか:そうですね。95年の時は、震災で娘が亡くなった後、その夫婦はどういう風に関係を持つのか、という震災一年後ぐらいの話だったんです。その企画が駄目になってずっと寝かせている間に、幾人もの知り合いが亡くなったり、自殺したりということがあったので。20数年というものを描くときに、自分のデビューからの20年とダブらせている、みたいな。そういう感じで、最初に思っていたものとは随分変わって来たなという感じはあります。

――最初に脚本を一人で書かれていて、お二人になられたことで大きく変わったのはどういったところだったんでしょうか。

いまおか:直感的に自分だけでは直せないなっていうのがあって、ちょっと思い入れもあるしどうしたらいいものかって。佐藤稔とは何本かやっていたので、俺と感性や考え方が全然違うし、もっと残酷に俺の持っている思い入れを壊してくれるんじゃねぇかと思って。結果、壊すというよりはもう少し寄り添った感じになったと思うんですけど、やっぱり全然違うと言うか。最初の僕のシナリオから、キャラクターや名前は残っているんですけど、ストーリー自体は全部新しい脚本みたいな感じになって。現場はなるべくそれを尊重して、自分が最初に書いたものは捨てて、新しいシナリオに寄り添う形で考えて撮ったのを覚えています。

――伊智子さんというキャラクターは、佐藤さんの脚本によって生まれたキャラクターだったんですね。

いまおか:そうですね。最初はもっとエキセントリックと言うか、ちょっと狂ったような(笑)、激しい女の人だったんですけど、もう少し地べたに足がついているような。そういうところは少し違いましたね。

――実際に伊智子さんが動いてみて、いかがでしたでしょうか。

いまおか:やっぱり自分が思っていることと、生身の俳優さんが演じると必ず違うんですよ。
自分の思うように行かないところが面白い。どういう風に変わって行くんだろうみたいな。武田さんとも初めてだったし。最初はこれでいいのかなと思った部分も正直あったんですけど、春・夏・秋と越えて行くと、だんだん役とその人のキャラクターがうまく馴染んでいくと言うか。何をやっても OK が出ちゃうみたいな(笑)。最後の冬のところは、特に。言ってできるもんじゃないなと。

――それは時間経過とともに、何かがあったんでしょうか。それとも演出で引き出せたのでしょうか。

いまおか:いやぁ(笑)。俺は何にもしてないと思うんだけど。時間をかける意味って、季節が撮れるとか色々あると思うんですけど、本人が一年かけて掴むものもあるのかなぁ。単純にカットバックの表情一つとっても全然違うんですよ。

――太助さんと伊智子さん夫婦の関係は、監督から見てどのような関係だと思われますか。

いまおか:幸せな形ではないと思うんですけど、両方が何かを失って、傷ついていて。腐れ縁って言うとおかしいんですけど、どこかでお互いを必要としている。つかず離れずでずっといて。本心をさらけ出せずにずっといる。でもなにかのタイミングでお互いを出し合う。それが「ああ、良かったな」と思えると言うか。子供がいて仲良い家庭があって、ということだけが幸せではないし、どういう形であれ、人は生きていかなければならないので。歪んだ形でも、こういう関係があるのは救いになると思いますね。


【映画『れいこいるか』関西上映情報】

元町映画館 8/28(金)まで。
[舞台挨拶]
8/21(金)17:20回上映後 田辺泰信さん、上野伸弥さん

シネ・ヌーヴォ 8/28(金)まで。※8/15(土)からシネ・ヌーヴォXにて上映

京都みなみ会館 8/14(土)~8/27(木)まで。

執筆者

デューイ松田

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