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シネ・ヌーヴォにて2/8(土)~2/21(金)まで上映予定の映画『天然☆生活』。

2017年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアターコンペティション部門で『トータスの旅』にてグランプリを獲得した永山正史監督が、受賞後の支援作品として完成させた。

ぱっとしないながらに、それなりに楽しい田舎生活を送っているニートのタカシ(川瀬陽太)、よろずやのショウ(鶴忠博)、離婚してUターンしてきたミツアキ(谷川昭一朗)の中年3人組。
東京から越してきた自然派生活にこだわる栗原一家(津田寛治、三枝奈都紀、秋枝一愛)が、タカシが間借りしているミツアキの実家である茅葺きの古民家に目を付ける。次第に侵食されていくタカシの穏やかな生活……。

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栗原一家の要であり、目的のためには手段を選ばない。そしてどこかエロティックでもある。そんな強烈な妻・サトミを演じた三枝さんにお話を伺った。

 

サトミは表には出さないくせに承認欲求が強いタイプ

――川瀬陽太さん、津田寛治さんとの共演はいかがでしたか?

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三枝:川瀬さんは、撮影現場で監督やスタッフさんたちに「こうしたら面白いんじゃないか」と、具体的にどんどん提案して映画作りのパワーで引っ張ってくださる感じ。
津田さんはご自身のお芝居でどーんとインパクトが来るので、それでみんな引っ張られるような。お二人とも全然違う感じで引っ張ってくださいました。すごく面白かったです」

――それは対照的で面白いですね。夫婦役だった津田さんとの相性もぴったりでしたね。

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三枝:私がサトミに見えたとしたら、津田さんがそう見えるよう計算してくださったんです。超嬉しかったですね。いろいろな細かい提案も頂いて。毎日毎日超楽しくて。この二人と一緒にお芝居してる!でも自分が思っていた役のイメージを微塵も出せずに終わることが多くて、帰りの電車ではへこんで(笑)。どんどんカウントダウンが始まっていくんですが、ガチでお芝居できる日にちが、あと2日しかない1日しかないって毎日へこみながら。

――プレッシャーと戦いながら?

三枝:プレッシャーと言うか、悔しいのと嬉しいのと楽しいのが全部入り混じっている、そういう独特な現場でしたね。超面白かったです。

――演じてみてサトミという人間をどのように感じましたか?

三枝:表には出さないくせに承認欲求が強い人ですね。こういう人っているなって。インスタとかに縛られて生きていそうな。でも自分のやっていることは全然間違っていないと信じている。知り合いに似ている人がいて、すごくいい人なんですけど、猪突猛進を絵にかいたような。その時々に影響されている人によって人格も変わっちゃうみたいな。影響された人がちょっときつい人だとすると物腰もきつくなる。その人が最初にぱっと浮かんで。結構その人をイメージして演じていましたね。


母と娘の不思議な関係

――現場で印象に残ったことは?

三枝:津田さんも私も左利きだったんですよ。食卓の シーンでは2人とも左で、それも気持ち悪さが増していて。

――それは気付きませんでした!

三枝:多分揃ってるから気付かなかったんだと思うんですけど、左利きは左利きの人に敏感なんですよ(笑)。

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――親子関係についてはどうでしたか?

三枝:妻が夫を完全に掌握しているじゃないですか。娘は母を完全に掌握しているんだなと思っていました。例えばどんなに怒られていても、母が体にいいと思っている「葛湯を作って」って言うと母が一気に優しくなる。それを全部分かっている子なんだなって。母は娘のことをきっと大好きなんですけど、やっぱり信じてるものは譲れないんじゃないか。仲がいいのにどこかうまくいっていない。あれぐらいの溝っていうのは思春期にあると思うんです。操って操られてみたいな不思議な関係。

――その辺の繊細な関係がとても見応えがありましたね。永山さんの演出はいかがでしたか?

三枝:基本あまり何も言わないで好きなようにやらせて、それを見て楽しんでるというイメージですね。いつもふわっといらっしゃるんですけど、結構明確に決まっているんですよ。例えば津田さんが提案しても、意図と違うときには「いやそれはこっちでやって頂きたいです」って、きちんと答える。何か質問しても明確に答えが返ってきますし。よく迷いながらだったり、答えをわざと出さない方もいらっしゃるんですけど、もちろんそういうところもあるんだけども、意志が決まっている。それをお芝居でずらすのは多分許してくれるけど、そこからはみ出すズレはダメなんだなって思って見ていました。

映像作品のフィクション感の魅力

三枝さんは長野県出身。京都の大学に通いながらサークルの劇団に所属。劇団が東京に拠点を移したことで、大阪でモデルとしても活動を始めた。大阪と東京を行き来しながら、大学の4年間と合わせてトータル7年ほど関西で暮らしたという。その後東京に拠点を移し、俳優とモデル両方のフィールドで活躍している。

三枝:元々は舞台しか知らなくて、承認欲求じゃないですけど、売れたいというよりお芝居してることで、言い方がちょっと気持ち悪いですけど「生きてる感」が出せてたんですね。芝居してるとリア充みたいな感じで。
たまにオーディションで映像の仕事をいただくと全く未知の世界で。未だに慣れないですね。舞台の方が圧倒的にフィクションなのに映像の方がフィクションぽい。

――それは完成したものを見てからですか?

三枝:撮影してる時からですね。その違和感が結構今でもありますね。

――その違和感は三枝さんにとっては楽しい違和感ですか?

三枝:楽しいですね。本来は舞台も映像も一緒のはずだから一緒にしていかなきゃいけないと思うんです。


悪気はないのに、価値観が歪んだ方向に行く面白さ

――三枝さんから見た『天然☆生活』の魅力を教えてください。

三枝:私常々、サトミみたいな人のことを面白くないと思っていて、でも反面自分にもそういうとこあるなって。例えばイケてる景色があればスマホで撮ろうと思う自分がいて。

――それは私もありますね(笑)。

三枝:私の場合ずっとそういうのがダサいなとか、恥ずかしいなとか、ちょっとした嫌悪感みたいなものずっとあるんですけど、そういうのが一切ない人たち。

――多分タカシ(川瀬陽太)に対して自分たちが悪いことをしているとは全然思ってないですもんね。

三枝:オーディションで台本を読んだ時に「待ってました!」って思って。

――こういう作品出てみたかった、という感じですか?

三枝:そうです。「こういう脚本を書く監督さんと出会えた!イエーイ!」みたいな感じでしたね。作品の魅力とかとはまた違うんですかもしれないんですけども。

――でも、その出会えたという喜びはやっぱり作品の魅力につながるものだと思うんです。一番どこに魅力を感じましたか?

三枝:監督自身も仰ってましたけども、オーガニックとかマクロビが悪いなんて全く思ってないんです。ただ、そういうものを使ってちょっと歪んじゃう人たち、みたいな。いいと思ってやっているのにうまく行かない。そういうところを素敵に描いていないところが本当に好きでしたね。ちょっと清々しくもあって、それも含めて待ってましたと。

――なんでも一つの方向に行き過ぎちゃう怖さがありましたね。

三枝:本当にそうだと思います。旦那さんも家族を守るんだって頑張ってこれですもんね(笑)。

――『トータスの旅』で永山監督にお話を伺った時に、普通に生活していて納得できないことが色々あるということを仰っていて。理不尽なことに対してね。やはりそういうところからも、今回のアイディアが出てきたのかなと思いました。

三枝:そうですね。ひたすら理不尽に巻き込まれている人たちですもんね。
『天然☆生活』は、あのエンディングの割に後味が悪くないんです。川瀬さんの姿も垢抜けていると言うか。

素敵だなと思ったのは『トータスの旅』に出てた人達が、最後にいっぱい出てくるじゃないですか。娘役の一愛ちゃんと、「永山監督が次回作を撮ったら、最後の方に出してくださいね」ってお願いしてたんです。

――それも楽しみですね!
シネヌーヴォで、あと一週間上映が続きますので、関西の皆さんに一言お願いします。

三枝:監督も仰っていましたが、とてもファンタスティックな映画です。ぜひご覧ください。

執筆者

デューイ松田

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