©TADASHI NAGAYAMA

親戚の古民家で叔父の介護をしながら暮らすタカシ(川瀬陽太)。唯一の友人は幼馴染のショウ(鶴忠博)。叔父が亡くなり、その息子のミツアキ(谷川昭一朗)がUターンしてきたことで、さえないながらに第二の青春を謳歌する3人組。そんな中、古民家カフェの経営を夢見る一家(津田寛治、三枝奈都紀、秋枝一愛)が都会から移転してくる。次第にタカシの生活を侵食し始める明るい一家……。

2017年に『トータスの旅』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭・オフシアターコンペティション部門グランプリを受賞した永山監督。翌年の映画祭をお披露目の場とする次回作の制作のため構想を練っていたところ、ある地方の学校で、教師が東日本大震災によって福島から避難した学生に常識を欠いた発言をしたことが問題になったことを知った。これが『天然☆生活』のアイディアの発端となったという。

永山:それがきっかけの1つではあるんですけど、一番やりたかったことは別にあって。目標や夢を追いかけたり仕事を成功させて家族を養ったり、という幸せがある一方で、一人でお金も住む場所も最低限でよくて、将来の夢も目標も持たない人たちがいる。そんな生産性がないって言われてしまいそうな人でも、その人なりの幸せがある。そういったことを可愛く描きたかったんです。

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――そういった思いを持ったきっかけは何だったんでしょうか。

永山:子供ができたことでしょうか。例えばそれまでならたまに昼間から夫婦で酒を飲んだり、レイトショーを観に行ったりそういう生活ができていたんですが、子供が出来てからそっちが中心になって。社会的にもまともでいなければならない。仕事もちゃんとやって家族を養ってという。ゆうばり国際ファンタのお披露目の時になるべく客観的に観ようと思ったんですけど、自分達の中でやりたいことやらなきゃいけないこと、もしくはやってはいけないこと、その葛藤が凄く出ているなと思いました。

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――一方的にどちらかを批判したいということではないんですね。

永山:自分たちがやっていることは、どちらかと言うとマクロビ一家に近いんです。愛する家族を養いながら夢を追っている、他人から見たらちょっと美しく見えるような要素もあって。でもそれは美しいなんてものじゃなくて、映画を作るには家族にも他人にも迷惑をかけるし、人を傷つけてしまうことだってある。そういう意味でも近いことをしている。一方で、一人に戻っておじさん達みたいに気ままに暮らしたい、時にはそんなことを思う日もある。

――最初はおじさん達が可愛いなって思って観ていたんですが、自分たちが正しいと思って信じていることを押し付けるのが人にとって恐怖になるんだなっていう。そういった描写が非常に面白かったです。

永山:マクロビっていう思想自体を批判するつもりは一切ないし、マクロビが駄目でカップラーメンが素晴らしいっていう映画では決してないんですけども、自分の中での正義を絶対的に信じて人に押し付けることには批判的です。

――懐メロが出てきたり、昭和初期の映画のような雰囲気もありましたが、前よりもさらに人に届き易くすることに対して意識はされましたか?

永山:まずは娯楽なんで、観て楽しんでもらえるのが一番です。自分が楽しむのはもちろんなんですけど、自分が楽しめるなら人も楽しめるだろうと。結局同じことだと思うんですね。飽きずに楽しめて、面白いところは面白く。でもちょっと引っかかって、なんかひきずって劇場を出てくれたらなって。まずはエンターテイメントとして自分が楽しめるものにしたいというのはありました。

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――特殊造形についてはいかがでしたか。

永山:百武朋さんにやってもらったんですけど、仕上がりを見て「さすが!百武さんに頼んで良かったなー」って。海外の上映では毎回お客さん、大騒ぎです(笑)。

――川瀬さんは、『トータスの旅』の破天荒なキャラクターとは全く別人のようでしたね。

永山:川瀬さんは今回主演だったんで、付きっ切りといった感じでしたね。順撮りだったんですけど、順撮りで撮ったことによって後ろのシーンに影響があったりとか、日々出てくるんですよ。川瀬さんの提案もあるし、僕もその提案を受けてアイディアを返したり、本当に川瀬さんと一緒に作っているような感じだったんです。それがすごく楽しくて。毎日朝の撮影が始まる前、シナリオを前にして川瀬さんとタバコを吸いながらこのシーンこうしたらどうかなって話す時間があってそれがすごい幸せで。

――『トータスの旅』の作り方と違いががあったんでしょうか?

永山:前回まではカット割りとかお芝居の感じとか、僕の方で決めて、イメージに当てはめるような撮り方をしたんです。それがうまくいかないことが多かった。だから今回は本当にまっさらな状態で行こうと思って。最初は皆さんにお芝居を自由にやっていただいて、そこからどう撮るかカット割を決めていったんで、本当に一緒に作っていくって感じでしたね。僕ひとりが監督という感じではなくて、みんなの提案でどんどん変わっていく。イメージ通りではないけど、時にイメージ以上のものになる。それが凄く面白かったですね。

――そういう変化が良い結果として映画に表れていたんですね。ありがとうございました。

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最後に、『天然☆生活』のキャストのみなさんからコメントをいただきました!

川瀬陽太さん
田舎に暮らそうって言葉があるけど元から田舎に住んでるひと。
自然に還ろうとかって言葉があるけど自然に飽きてるひと。
色んなひとの想いのズレが引き起こす黒い喜劇です。楽しんで貰えたら嬉しいです!

津田寛治さん
『トータスの旅』を観て永山監督に惚れ込み、ラブコールを送り続けて出演できた映画です。この『天然☆生活』には変わった生き物が沢山出てくるのですが、その中の一匹になれて本当に幸せでした。僕達の天然ぶりをぜひ観てください。

鶴忠博さん
駄目おっさん三人組のほのぼの感と、現代社会への反逆性!

三枝奈都紀さん
天然てなんでしょう。ほんとうの、ほんものの天然てなんでしょう。天然に生活できる資格があるのは一体どういう人間なんでしょう。生き生きと暮らしたい人間の皆さんに、是非観てほしい作品です。
どうぞ、最後まで。

©TADASHI NAGAYAMA

上映情報
2/8(土)20:30~
鶴忠博さん&永山正史監督の上映後舞台挨拶あり!
入場者特典としてステッカー(初日のみ)、川瀬陽太さんのブロマイドのプレゼントも!


インタビュー後記
『天然☆生活』のサイトにアクセスすると、ポスターが2つ表示される。1つはボンゴを叩く川瀬陽太さんの穏やかな表情がメインビジュアル。光の中に古民家が静かに佇んでおり、なんだかほのぼのした作品を予感させるもの。
もう1つはおどろおどろしいカップラーメンのビジュアル。『サスペリア』調の惹句にちりばめられたキャラクターの扱いは80年代のホラーテイストである。件の古民家も横溝正史の小説の表紙に出てきそうな夜に沈んだ怪奇の館だ。どちらも間違いなく『天然☆生活』のポスターと言えるのが面白い。
永山監督は、糞ダサく正義の大ナタを振り回すより、足元で二つに分かれた自分の影を観察する。「映え」も「かわいい」も「毒」もてんこ盛り。葛藤の中から生まれたエンターテイメントを存分に味わおう!

執筆者

デューイ松田