世間からはみ出した人々へのメッセージ!映画『RUN -3films-』 土屋哲彦監督、津田寛治さんインタビュー
1/17(金)より京都みなみ会館、1/18(土)よりシアターセブン、元町映画館にて公開されるRUN! -3films-。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIP シティ国際D シネマ映画祭、山形国際ムービーフェスティバル、しがショートムービーフェスなど数々の映画祭に招待され、グランプリなどの受賞をはたしてきた『ACTOR』、『VANISH』、『追憶ダンス』の3 本の短編を観ることができる。
俳優陣は、篠田諒(『人狼ゲームプリズンブレイク』)、木ノ本嶺浩(『仮面ライダーW』)、松林慎司(『残穢【ざんえ】-住んではいけない部屋-』)、黒岩司(『忍びの国』)、須賀貴匡(『RIDER TIME 仮面ライダー龍騎』)、津田寛治(『名前』『天然☆生活』)など個性派が結集。
監督を務めたのは、『闇金ドックス』シリーズの土屋哲彦(『追憶ダンス』『ACTOR』)と、映画やドラマなどの映像作品に助監督などで参加してきた畑井雄介(『VANISH』)の2 人だ。
今回は、土屋哲彦監督と津田寛治さんに『ACTOR』、『VANISH』、『追憶ダンス』の熱い現場について語って頂いた。
地方映画が紡いだ絆
土屋監督と津田さんの交流は、石井克人監督の助監督を務めていた土屋監督が、『ハロー!純一』(’14)の打ち上げで飲んでいた津田さんに話しかけた事から始まった。当時故郷の福井で短編映画を監督する予定をしていた津田さんに、土屋監督がアピールしたという。
津田:「俺、地方映画がめっちゃ得意なんですよ!」って(笑)。「よかったら協力しますよ!」って言ってくださったんで、監督補をやって頂いたんです。すごく器用だし、福井のみんなにも好かれて。(※『カタラズのまちで』’12)
――地方映画が得意というのは?
津田:実は彼はここに至るまでに名作をたくさん撮ってるんですよ。『豪速球』(’12)とか。
土屋:『豪速球』は都内の河川敷です(笑)。
津田:『またいつか夏に。』(’12)
土屋:筑西、昔の下館市ですね。
津田:あとみかんの映画も。
土屋:梨ですね。(一同爆笑)鳥取です。あと錦織良成さんの助監督で島根の『RAILWAYS 49歳で電車の運転手になった男の物語』(’10)の後、隠岐島で撮った『渾身』(’13)とか、監督でも助監督でも地方で仕事をすることが多かったんですね。という自信満々の「俺、得意ですよ」だったと思います(笑)。
津田:そのときに作品集を見せて頂いて。やはりどれも凄く面白くて才能ある監督だなぁと思いました。
――どういったところが土屋監督の作品の特徴だと思われましたか?
津田:体育会系なんですよ(高校まで野球、大学ではアメフトの経験者)。体育会系の人の持っているちょっとしたクスッと笑えるギャグとか、まっすぐなところとそれプラス CMで磨かれたセンスですね。これって相反してるものなんだけど、それがうまく融合してる感じがありましたね。
――信頼関係があった上での『ACTOR』や『追憶ダンス』の撮影だったんですね。
津田:そうですね。僕と土屋さんは繋がりも絆もあったんですけども、主演の彼らにとっては挑戦だったと思います。
『ACTOR』/理想の自分を求めて走る
――『ACTOR』はどのようにして始まったんでしょうか?
土屋:黒岩司君を主演で映画を撮ることになって、津田さんの発案でエチュードをやって彼がどんな俳優か見極めてからストーリーを考えようと、ワークショップを半年間続けたんですね。津田さんも参加してくださって、プロデューサーの星さんが見つけてきたこれから絶対伸びるだろうなっていう俳優たちもいて、その中でついていけなくて空回りしている彼を見て、先輩たちにも怒られながら、自分の理想の演技がここにあるはずだってもがいている姿っていうのがすごく素敵だなと思ったし、僕自身にも当てはめられることだったんです。
――『ACTOR』のテーマをお聞かせください。
土屋:「本当の演技とは」というところですね。映画の現場でカメラの横にいて、本当にすごい演技を見た時に、そっちが現実でカメラのこっち側が現実でないように思える瞬間が何回かあって。結果的にストーリーも売れない俳優が最高の演技をする瞬間にたどり着くための40分となりました。
――『ACTOR』の中では現実を反映した部分もあるんでしょうか。
土屋:黒岩君のドキュメンタリーの部分もあったので、カメラマンに相談してカットがかかってもずっと彼を撮ろうと。映画の中で走るシーンで彼が転びます。転んだ後に監督役が「大丈夫か」って声を掛けてカメラが彼に近付くんですが、あれは僕の手なんですよ。受け答えがおかしくなってるところも撮っていて、そのまま病院に連れて行ったんですけど。彼のドキュメントそのものではなく、彼のドキュメント性を生かせばより一層テーマに近づけると考えました。ハプニングも生かして、それが熱量を産んでるようなところもあります。
津田:あのシーンが一番この映画を象徴しているんじゃないでしょうか。だからこそ『RUN』いうタイトルがしっくり来るなって。
『VANISH』における欲望に向かった走り。『追憶ダンス』における友情を感じる一瞬。津田さんが語ったシーンについてはぜひ劇場で確かめて欲しい。
『ACTOR』/現場の熱量
『ACTOR』で津田さんは、俳優・津田沼寛次郎、津田沼寛次郎が映画で演じたヤクザ役、革命家役の3役を演じた。当初、『ACTOR』の脚本にあった俳優「津田沼寛次郎」という役名に、芸能人的なパロディになるのでは?と危惧したという。
津田:土屋さんにそれを言うと、「これは現実とドラマがごちゃまぜになっていて、主人公の山田も現実なのか自分の幻なのか分からない中で、観ているお客さんにもドキュメントかドラマかで彷徨ってもらいたくてあえてこの名前にした」と聞いて。
土屋:現実に黒岩君が津田さんに憧れているので、津田さんの役名が津田沼寛次郎か、全く違う名前かで彼の芝居も変わるんじゃないかと。
津田:その構想を聞いた時に物語の核心を教えてもらった気がしたんですね。物凄く面白いと思ったし、是非とも参加したいなと思ったんです。
土屋:ヤクザ役の博多弁は津田さんのアイディアです。黒岩が九州出身で彼が憧れているとしたら同じ地元のヒーローの方がいいんじゃないかって。撮影のテストで「ばかちんが!」と聞いて、何を言ってるんだろうと思ったんです(笑)。インパクトがあったのでそれでいいやと思って。
津田:台本を読んで『仁義なき戦い』のイメージがあって、方言でやったんですけど、すごく楽しかったですね。
津田沼寛次郎と革命家、僕やカメラマンの辻健司さん、みんなのアイデアが重なってできたような役柄ですね。
津田沼寛次郎のエキセントリックな所作が楽しい屋上のシーンの冒頭は、全部アドリブだったという。
津田:あれは似た俳優さんがいたんだよね。脚本をパンって投げて、お付きの人が速攻拾って(笑)。
土屋:あれ俺超好きなんですよね。映画のスタッフ役は全てワークショップに来てくれた役者の中から厳選しました。
津田:『ACTOR』のすごいところって、スタッフ役の俳優さんがスタッフワークをものすごく体に染み込ませたんですよ。
『ACTOR』では助監督を務めた畑井雄介監督(『VANISH』監督)がスタッフワークに関するしおりを作り、その冊子を元にリハーサルが行われたという。
津田:あれがあったおかげで『ACTOR』の空気感が作られたと思います。車椅子があって、「これちょっと動き悪いよな」ってやってるシーンとか。スタッフワークのシーンが無くなったら、単なるお遊びシーンで山田の幻想にしからならないもんね。カメラマン役の笠原紳司君も現場で見てきたカメラマンの記憶を全部ぶち込んで、助手のお尻を蹴ったりとか、フレームの隅っこでやってるんですよね。それが道に入ってて、このカメラマンのスピンオフが見たい、みたいな(笑)。感動しましたね。
『ACTOR』/黒岩司VSジョーカー
――スタッフ役の俳優さんたちがリアルに動いたところに、黒岩さんと津田さんが入ったんですね。
津田:笠原君は黒岩君の事務所の先輩で、セリフもないカメラマン役であそこまでやってくれてるのに、主役の俺がもっと行かないでどうするんだって、火が付いたと思うんですね。みんなのパワーが黒岩司っていう俳優を主役に持って行ったのかもしれないですね。
――それで最優秀主演俳優賞も取られたんですね。
津田:彼は自分でエントリーシートを書いて【杉並ヒーロー映画祭2017】に出したんですけど、自分のことヒーローって思ってたのかって(笑)。
――部屋の中でトラヴィス(『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロの役名)みたいなしぐさをしたり、後こちらの映画が先なんですけどちょっと『ジョーカー』っぽい感じもしましたし。
土屋:後で『タクシードライバー』オマージュなんでしょ、っていろんなとこで言われるんですけど、単純に俳優さんって鏡見て役作りをする人もいるじゃないですか。それをやりたかったのと、「現実」対「幻想」ということで、鏡とこっち側を撮りたかったんです。
津田:素晴らしい(笑)。今俺が笑ったのは、黒岩君と【京都映画祭】で久々に会った時に、「寛治さん、『ジョーカー』見ました?」「見てないんだよ」「あれね、パクられてます!」(笑)。何を言ってんだこいつだと思ったんですけど、ハリウッドで『ACTOR』のDVDを配りまくったらしくて。
土屋:ホントにいろんな人に言われますよ(笑)。そのシーンだけですけど。
――黒岩さんが細くて、その感じが似てるんですよね。
津田、まあどっちにしても空回りみたいな(笑)。
土屋:賞を取ったり一応全部形になってますからね。すごいやつ(笑)。
『ACTOR』/はみ出すつもりはないのに、はみ出す人々
――『ACTOR』『追憶ダンス』ではそれぞれのキャラクターが、本当の自分はこんなんじゃない、という悩みを抱えたタイプとして共通してると思うんですけど、そういった人に対して思い入れがおありなんでしょうか?
土屋:ありますね。オリジナルで作ってるものは全部、気づいたらそうなっています。はみ出し者というよりも、はみ出すつもりはないのに、はみ出しちゃった人が、それでも輝ける一瞬があるって事を描きたいといつも思っていて。
津田:土屋さん自身は自分がはみ出してると思ってるんですか?
土屋:子供の頃はすごいありましたね。集団行動ができない子だったんです。あと転校が多くて、どの学校行っても最初いじめられっ子から始まるんで。
――それは意外でした。
津田:100%いじめてる方だと(笑)。
土屋:僕はものすごく細い色白のハンサムな可愛い子だったんです(笑)。転校する行く先々でいじめられましたよ、最初は。そういうのも少しあると思いますね。
――ご自分を投影されている部分も?
土屋:あると思いますね。集団行動はね、でも今も苦手です。
――映画を撮るって集団行動だと思うんですが、その辺はいかがですか。
津田:多分ね、従うんじゃなくて、自分がトップに立つ立場だから、土屋さんができないことがあっても、できないことを無理やりやるんじゃなくて、ほかで認めてもらえるようになったってことだと思うんです。悩んでる人たちにもそうなって欲しいっていう思い、そういう自分を否定しないで、そのままで勝っていこうぜっていうメッセージを感じますよね。優しい目線があるんで監督には。そのままでいいから、いつか認められるようになるよって。
土屋:そうですねそれは凄くありますね。『ACTOR』で言うと、ずっと認められなかったとしても、自分で演技ができたって思えた瞬間が一つでもあれば、その後の人生も変わるだろうし。
津田:俺もね、子どもの頃は本当に集団行動ができなくて、親が「本当にこのままだったら特殊学級ですよ」って先生に言われるぐらいで。結局そこの部分はあまり変わらず、人と同じことができるようには決してなってないんだけども、幸いこういう道もあったっていう。若い人を励ましたいですよね。今の自分を卑下する必要はないから。人と一緒の事は出来なくても、そのままでも待っている人生の道っていうのがあるからっていう気がしますよね。
『VANISH』/相容れないはずの二人の男達の絆
『ACTOR』の第二弾として、畑井雄介監督の長編の企画を元に始まったのが『VANISH』だったという。パイロット版としてではなく、短編として成立するものを目指したという。生きるために人間を喰う謎の親子と死体処理を生業とするヤクザ(津田寛治)を描いたSFファンタジー。
――この作品は長編の序章といった趣で、その後の展開が気になります。
津田:制作時もみんな熱意を持って取り組んだんですが、特に主演の松林慎司が今、監督を凄い焚きつけてます。「長編はいつ撮るんですか?」って。そういう役者の入れ込み方もあるんだなって思いました。
――この作品では「共存」というテーマがありますね。
津田:そこが一番面白いなと思いましたね。人間を吸うとか殺すというありがちな話を、死体処理をやってる男がが仕事に不満があっていつも悶々としながら切れている。それがある日死体を吸っている男と出会って、お互いが殺されるかもという一発触発の中でふとした瞬間にお互い求めているものが合致してしまう。仕事でうまくいくと男同士の友情の絆が深まっていく。その描きかたの流れていうのがものすごく上手いなぁと。最後に僕が彼にかける言葉は完璧に親友に話しかける言葉になってるんですよ。その後の展開はお客さんも想像するだろうし、上手いこと作ったなと思います。
『追憶ダンス』/嘘のようなホントのエピソードを元に
――『追憶ダンス』は【ゆうばり国際ファンタスティック映画祭】で拝見しましたが、観客の反応も良かったですね。二人の俳優さんについてお聞かせください。
土屋:篠田諒君と木ノ本嶺浩君の二人主演で映画を撮ろうということになって。篠田君は俺のワークショップに10代の時に来ていてすごくて尖っている俳優だったんです。木ノ本君は当時、「俺かっこいい系の枠だし」みたいな(笑)。仮面ライダーアクセルだし、『JUNON』ボーイだし。それから時間がたって一皮むけて。一人芝居を見た時にすごい良くなっていて。一緒に飯食ったりしていても彼はイケメンなのにそこはかとなく気持ち悪い面があるんです(笑)。そこもすごく好きで、普段かっこいい役ばかりやっているから、気持ち悪い変なやつを演じてもらいたい。変なふたりの話をやりたいなという構想がありました。
ストーリーは土屋監督が『闇金ドッグス』で組んだ池谷雅夫さんと考えたという。お互いの嘘のようなホントのエピソードを元に作り上げたという。
――警官役の津田さんはいかがでしたか?
津田:台本読んだ時点でぶっ飛んでるなと思ってるんですけど……(略)。
せっかくなのでこの後は本編で、津田さんの演技を楽しんで頂きたい。
――津田さんは篠田さんと木ノ本さんをどう思われましたか
津田:素敵だなと思いましたね。役作りの時点から二人の間には戦友みたいな空気感がすごくあったんですね。
待ち時間にはずっとセリフをお互い投げ合って、二人はロケハンにまでついて行ってるんですよ。すごく息が合ってる感じですね。あの二人に愛おしさを感じるのは、あの自転車に乗って逃げているとこだけは嘘がないっていう。説得力があったと思うんですね。それは彼らが普段から培った友情が、あのシーンが生きてきたのかなぁという気がしますね。
映画は生き物、成長していく
様々な映画祭で入賞を果たした3本の作品。これらを気に入った【Beppuブルーバード映画祭】主宰の森田真帆さん。3本を並べて1本の作品として映画祭で上映することを提案したのがきっかけで、様々な人々のアドバイスや力を借りて公開に至ったという。
土屋:実際に並べてみると見え方も変わってきましたね。
津田:やっぱり映画って生き物で成長していくんだなって。この3本を合わせることで起きた化学反応が、確実にあるっていう気がするんですよね。
はみ出し者達が疾走する!
――津田さんは3本の若い方の現場に参加されて、今後の映画作りに対する希望のようなものは何か感じられましたでしょうか?
津田:映画の魔力を感じましたね。皆初主演で売れてるわけじゃなくて、この映画を足がかりにするんだって思ってやっているから芝居ではなくなってるんです。お芝居っていうのはカメレオンみたいにいろんな役になりきるからいい芝居ってわけじゃないんだなって。中の人間がどの位エレクトしているのかがすごく大事なんだなと。人が頭の中で考えるキャラクターとか組み立てられた芝居というのは限界があるし、そこを乗り越えるためには、身体全体で何か限界を乗り越えるぐらいの覚悟は必要なんだなっていうのは、俳優たちを通して感じましたね。
――最後にお二方から観客のみなさんに一言お願いします。
土屋:3本ともはみ出し者達が疾走する熱い作品です。きっと俳優たちに限らず僕も同じです。今観直すと勇気が湧いてくる作品になっていますし、単純にどれも楽しめる作品であること間違いありませんので、ぜひ劇場へお越しください!
津田:この映画は、社会の中でなかなか幸せになれず、それでももがきながら幸せをつかもうと頑張っている人々の物語です。奇しくも演じている俳優たちもまだまだ発展途上の段階で、もっともっと自分の理想に向かって走らなきゃいけない。『RUN』というタイトル通り走っている映画なんです。ぜひ劇場に足を運んで、彼らのエネルギーをご覧になって頂きたいと思います。
【上映情報】
1/17(金)~京都みなみ会館、
1/18(土)~シアターセブン、元町映画館
※土屋哲彦監督、津田寛治さん他、監督とキャストによる舞台挨拶予定。詳しくは各劇場のHPでご確認ください。
執筆者
デューイ松田