『ろまんちっくろーど 金木義男の優雅な人生』(’14)、そして10/26(土)、シアターセブンにて公開となる『調査屋マオさんの恋文』。今井いおり監督が撮ったドキュメンタリー映画を観ると、不思議なことにフランスの傑作アニメーション『ベルヴィル・ランデブー』(シルヴァン・ショメ監督/日本公開’04)を思い出す。孫を誘拐されたおばあちゃんが、陽気な三つ子のおばあちゃんたちと一緒に孫を救おうとする物語。一見非力な彼女たちが、彼女たちに出来る手段で冒険を始めるのが痛快だ。

一方、『ろまんちっくろーど 金木義男の優雅な人生』の金木さんは、戦争や食糧危機など人間が起こすあらゆる問題「人間問題の解決」を哲学に求め、夢を追い続ける。『調査屋マオさんの恋文』の佐藤眞生(マオ)さんは、自給自足の生活の中、特別養護老人ホーム入所している認知症の妻・縫子(ヌイコ)さんの世話をしながら妻の変化を記録し続ける。彼らの姿を見ていると老後や介護について、今更ながらありきたりなイメージしかないことに気付かされる。悲喜こもごもの中、自分に出来る手段で今のステージを切り開いていく人生の先輩の姿が頼もしい。
音楽を担当したのは前回に引き続き『よしこストンペア』。縫子さんの心の動きに呼応したような音楽も出色だ。
『調査屋マオさんの恋文』の公開を間近にひかえた今井監督にお話を伺った。

 

マオさんと今井監督の出会い

今井監督がマオさんと出会ったのはamazonだったと言う。普段映像の仕事をしている今井監督。当然ながら、面白い仕事もあれば嫌な仕事もある。面白い仕事だけをやって少しお金を稼ぎ、食べる分だけ自給自足をしようと調べていたところ、Kindleで無料(prime会員)で読めるマオさんの著作を見つけた。読んでみると共感でき、自給自足について学ぼうと連絡を取ったことから撮影が始まる。農作業を撮らせてもらいながら、畑でどれくらいの作物が取れるのかといったことや、「半農半X」という京都の塩見直紀さんが提唱しているライフスタイルを教えてもらったという。

今井:農作業を撮っていると、事あるごとに縫子さんの話をされるわけですよ。「嫁さんとここで野草天ぷら食べた」とか「ビールを作ってたら一緒に手伝ってくれた」とか。マオさんの言いたいことって、縄文時代とか自給自足じゃなくて、縫子さんのことかなと。それで介護施設で撮らせてくださいってお願いして、二人の姿を見たんですけど、マオさんが縫子さんに優しく接してる姿に感動しまして。

――それがきっかけで介護について撮ろうと。

今井:僕が認知症になったら嫁さんは世話してくれるだろうかとか、嫁さんが認知症になったら僕にできるだろうか。まずそういった個人的な興味からですね。付き合っていくうちに『縫子生』を見せてくれたんです。淡々と日々あったことが綴られている記録なんですけど、結構感動したんですよ。調査屋という仕事をしてきて、今は縫子さんを調査してるんだなって、迷いながらですけど撮影して行った、そういう感じです。

――撮影にあたっては、どういうところに気をつけて撮っていきましたか?

今井:否定はしないようにしましたね。

 

最後に家族にできることは

映画では、農作業の傍ら縄文直感塾を主宰するマオさんの姿や、調査屋の仕事に明け暮れ家庭を顧みなかった若かりし頃や、妻の縫子さんにつらい思いをさせた過去を織り交ぜながら、時にはユーモラスに現在の生活が描かれていく。

――3年付き合ってマオさんの印象変わりましたか?

今井:最初はマオさんの博学なところや考え方に心酔してたんですけど、人間くさいところも見えてきて、そこは撮れたかなと思っています。縫子さんの認知症の進行を少しでも防ごうとか、1日でも笑ってもらおうとする姿は、ちょっと切なくも感動を覚えました。3年間付き合ってくれたのは本当にありがたいです。マオさんは最後の最後で、縫子さんの前では素直になった方なのかなと思いますね。縫子さんが亡くなる2ヶ月前に、映画が完成した報告にDVDを持って施設に行ったんですよ。マオさんもずっと覚悟されているし、縫子さんの顔を見て、亡くなるんだなって思った時に、最後に良いご夫婦になられたなって思いました。夕方で、ご夫婦の姿が逆光で黄金色でね。その姿が本当に美しかったんですよ。

――二人の関係をどう思われましたか。

今井:施設に毎日通っているご家族って本当に少なくて、100人に1人くらいらしいんです。最後に家族に何ができるかというと、その人の尊厳を守ることじゃないかなと。そう思って見てましたね。最後の最後にギリギリセーフみたいな。

 

 

人間を撮りたかった!

――最後の方で「調査屋の仕事って失敗してくれてるんですね」って今井監督が言いますが、あの言葉が出たのは何故でしょうか。

今井:途中から贖罪の映画でもあると思ったんですね。縫子さんを献身的に見ることで自分の罪を償っていると。僕としては、後悔の念が聞きたかったんですよ。実はあの答えが出るまで何度も撮影してたんですが上手く行かなくて。調査屋という質問の仕事をしてきた人に対して、質問ではダメなんだなと思って。

――その言葉が出るまでの過程はどんな感じだったんですか?

今井:悶々としてましたね。どうしたら傷つけずに本音を引き出せるかっていうので。調査屋の仕事って何だろうってずっと僕が考えてきた上での質問なんですね。調査屋が失敗してくれてるっていうのは、ある仮定に対して何度もアプローチして、企業さんにスムーズなルート教えてあげる。マニュアルを作るために失敗したこと全部省いていくということです。
結果的によかったと言うか、相手に敬意があるし。でもマオさんは縫子さんにも言いたかったのかなっていうのもたまに思います。

――言えるタイミングを待ってたかもしれないですね。

今井:人間って口に出すと楽になるんですよね。

――介護破産のメールを見た時に、これは撮影をやめないとあかんのでは、と思いませんでしたか?

今井:あのときは「お前これで終わるのか」って試された感があったのと、金木さんを撮って思ったのは、撮ってもらうって嬉しいんだなって。金木さんは最後の方は「今こんなんやんねん」って、どんどん自分で企画してきまして撮影を終わらせてくれなかったんですから。

――マオさんも前向きな方ですよね。つらい顔は全然見せない。

今井:強がっているのかなとも心配するときもあったんですけど。

――それも含めてマオさんという方なのかなと。

今井:過去に縫子さんを悲しませたことは十分反省していて。そこは夫婦で解決したことなのかもしれないし。
夫婦の本当のところは分からないですから。過去のことは撮れないので、生々しいのってお金なくなってからですかね。

――足漕ぎ車いすCOGYをめぐるエピソードが一番驚きました(笑)。

今井:そこが一番キモかなと思って。そこで人間というものが撮れたなと思ったんですよ。ありがとうございます。僕は人間を撮りたかったんだと思います!(笑)

――一作目二作目と高齢の方々を撮りましたが、今井監督が惹かれる人物像として何か共通点はありますか?

今井:共通しているのは、マオさんは縄文時代とか調べていて(縄文時代は1万2千年以上平和が続いた)世界平和を望んでる人なんですよ。金木さんも世界平和を望んでる(笑)。よく友人に老人三部作を撮るしかないって言われますけど、三作目は池田大作先生しかないなと思ってます(笑)。撮らせてくれるかなぁ~。(遠い目)
真面目に言うと、ご縁があって、個性的で他でやってないことやっている人っていうのがテーマですかね。

 

 

自分の分を超えたテーマに出会えるドキュメンタリー

――今井監督は元々コメディ映画を撮っていましたが、何故ドキュメンタリー映画を撮るようになったんでしょうか。

今井:今回のテーマは人間の尊厳だと思ってるんですけど、僕は元々そんなものを語れる人間じゃないんですよ。コメディ映画で笑いの計算ばっかり考えてきたんで。ドキュメンタリー映画で3年ぐらい撮り続けると、自分の分を飛び越えたテーマに出会えて、こういったテーマを扱えたっていう喜びがあるんですよ。僕がそれを表現できているかは別にしてね。

――今後撮りたいものはありますか?

今井:次は馬鹿馬鹿しいコメディを撮りたいですね。ドキュメンタリーを撮ったことで、興味を持てる方にお会いしてその方の日常にちゃんと見ていけばテーマは拾えると確信したんで、それを元に脚本を書きたいですね。脚本って脚の本って書くじゃないですか。色々な場所にずっと足を運んでいるんですけど、背景になるようなちょっと感動したことをいっぱい集めて、それを脚本にしてコメディが撮りたいですね。

――最後に観客にメッセージを。

今井:認知症という命のはざまを撮影して、
佐藤夫婦には自分らしく生きる事、なぜ人は生きるのかを深く考えさせられました。
なかなか若い人が見てくれない映画だと思うんですけど、「生きる」事への強いメッセージも込めて作りましたので
是非見てください!

 

『調査屋マオさんの恋文』は、10/26(土)よりシアターセブンにて公開。
新宿K’s cinemaで開催の『東京ドキュメンタリー映画祭』では、12/5(木)10:00より上映予定となっている。

 

〈10/29追記〉関西上映館、続々決定!

●神戸元町映画館
12/21(土)〜12/27(金) 10:30より
※一週間限定上映

●京都みなみ会館
12/20(金)〜終了未定
※上映時間未定

執筆者

デューイ松田