2008年の『片腕マシンガール』(井口昇監督)以来、70年代ピンキーバイオレンス女優をと異名をとり、ジャンルムービーの世界で山口雄大、中平一史、友松直之、城定秀夫、西村喜廣、光武蔵人ら異色監督たちとタッグを組み、血なまぐさくも美しい姿をスクリーンに焼き付けてきた亜紗美。世界のファンタスティック映画祭をでも多くの熱狂的なファンを生んできた。

そんな亜紗美が、映画『ツングースカ・バタフライ―サキとマリの物語―』を最後に引退するという。

12/14(土)、渋谷・ユーロスペースの公開初日。舞台挨拶の前にインタビューを行った。


数年前から引退を考えていたという亜紗美さん。フリーランスで活動してきたため周り相談できる人がおらず、引退の仕方がわからなかったが、最後に何かやりたいという気持ちはあった。マメゾウピクチャーズの岡崎プロデューサーとプライベートで食事をした際に、「最後にこういう役をやりたい」と打ち明けたところ、「ぜひ一緒に」と快諾されたのが2017年の初頭のこと。亜紗美さん最後の映画、『ツングースカ・バタフライ―サキとマリの物語―』の撮影がその年の晩秋に行われた。



30代、人としてのスキルは?

――そもそも、なぜ引退しようと思われたんでしょうか。やはり、残念なんですけども。

亜紗美:そういって聞いて頂けるのは大変ありがたいんですけども、今まで凄いディープな“ジャンルムービー”界隈で、濃い方々と濃い仕事をたくさんさせて頂いてきたんですけど、30代になって「人間」っていう尺度で見たときに、役者しかやったことがなくて、「果たして人としてのスキルはどんなもんなんだ?」っていう疑問がふと湧き上がってしまいまして。役者をやっていく上で、他のことも見ていて損はないだろうっていう気持ちも昔からあったんですけどね。もちろん戻ってくる可能性もなきしもあらずですけど、とりあえず一回身を引いて、自分を人としてスキルアップさせたいと。もちろん色々ありますよ。今の映画業界、このままじゃ食っていけねーよ、とか(笑)。いっぱいあるんですけど、一番はスキルアップのためにって言うと言葉がでかいですかね(笑)。

 

――いえいえ。やってみたい仕事とか、その時は具体的にあったんでしょうか。

亜紗美:今もうすでに働いていて。別に隠してるわけではないんですけど、もともと仏具や花祭壇とか見るのが結構好きで、納棺師さんにもなんとなく興味があったんです。次の職場を考えた時に、人との別れに重きを置いた業界で、人生というものが近くで見れことができる職が葬儀屋だと思って。今葬儀屋で働いてるんです。

 

――働いてどれぐらいになるんですか?

亜紗美:正社員になって1年ですね。社保です、社保(笑)!

 

――そうだったんですね! 驚きました。

亜紗美:楽しいですよ。ただその楽しいって思えるのは、もしかしたら『ツングースカ』の公開がまだで、舞台挨拶はこれからで、まだ亜紗美として活動する時間があるから楽しいと思えているのかもしれないです。今日初日を迎えて、「お疲れ様ですカウントダウン」が始まって、亜紗美でいられる時間が過ぎていく中で、心情が勝る可能性もありますけどね。女に二言はないので今の職を全うしますが、ちょっとセンチメンタルになる可能性もなくはないと(笑)。

 

 女版『アジョシ』を目指して

――『ツングースカ・バタフライ』の企画に関して、亜紗美さんからストーリー的なものも含めてご提案はされたんでしょうか。

亜紗美:自分が言ったのは女版『アジョシ』をやりたいって希望を伝えて。後は脚本家の方にイメージを伝えることはさせては頂いたんですけど、あとは大人たちが組み立ててくださって。

※『アジョシ』2010年韓国公開。ウォンビンが韓国アカデミー賞〈大鐘賞〉主演男優賞を受賞。孤独な中でただ一人心を通わせた少女ソミ(キム・セロン)を犯罪組織から救うため、命がけで立ち向かうテシク(ウォンビン)の物語。

 

――この作品で挑戦したことは?

亜紗美:挑戦と言うとおこがましいですけど、これはさっきの質問とも噛み合ってくるんですけども、『アジョシ』をやるからには、子役を出して欲しいってお願いして。いわゆる子役さんて言われる方々とガッツリ組んで仕事をしたことがほぼないので、どこまで自分が子役さんを引っ張れるか、もしくは自分がどれだけ引っ張ってもらえるかっていう。応援してくださってる方も亜紗美=子供っていうイメージは湧かないだろうし、亜紗美と純真無垢な子供がタッグを組んだらどうなるんだろうって。それを楽しみに臨みました。

 

――『アジョシ』に惹かれたのはどういったところだったんでしょうか。

亜紗美:韓国映画って私凄く好きで、カメラの前で役者さんが芝居をしている時点で、それは嘘の世界ですが、血生臭さを画面から感じるじゃないですか。初めて『アジョシ』を観た時に、アクションシーンは多分そんなに難しいことはやってないんですよ。でもそれってリアルだよね、逆に、って。彼の臭いが伝わってくるんですよ。色気ではなくて臭いが。今この人汗臭いなとか、今この人は汗と血が混じったすごい臭いがするんだろうなって惹かれて。今はアクションも凄くトリッキーな動きやアクロバットができる女優さんって今ごまんといるし、凄い美形の動ける女優さんもいっぱいいる中で、自分には何が出せるってなった時に、唯一自信を持ってやって来たのが、パンチ一発の重さだったり、やられる時のリアルさとか、痛みとか人間の中の汚さを出すことだったんです。私も頑張れば血生臭さや汗臭さを皆さんに伝えることができるんじゃないかって、おこがましくも思ってしまって。「『アジョシ』やる、『アジョシ』がいい!って(笑)。もちろん足元にも及ばないですけど、その臭いを伝えるっていうことに関してはうまくいったんじゃないのかなーって思いますね。

 

――拝見して、最後のアクションシーンでずっと泣きながら見てました。多分今おっしゃったようなことが迫って来たんだと思います。

亜紗美:良かった!そう言っていただけてほっとしました。アクション監督の田淵さんは『女体銃』からお付き合いさせて頂いて、とにかく熱い男で。亜紗美っていう人間を理解して、さらには役者よりも脚本を読んでくださって、サキっていう人物を理解して亜紗美とサキを合体させるということをやってくれたアクション監督です。今回田淵さんにお願いしたいとなった時に、丁度大きい作品に入っていて、合間を縫って低予算で時間もない中で引き受けてくれるのかっていう不安はちょっとあったんですけど、「亜紗美が引退する?なんだと!行くに決まってんだろ!」って言ってくださって。その時に始まる前から泣いちゃって。田淵さんは知らないんですけどね。本当にありがとう、と思って。

 

――それは本当に嬉しいですよね…….。

亜紗美:田淵さんいてくれたからですよ。あの血なまぐささを出せたのは。

 

サキの背中が語るもの

――ファーストシーンのサキの姿がすごく骨太な感じがしたんですけど、撮影にあたって体型を変えたりされましたか?

亜紗美:「ツングースカ」に入る前は辞めるって思っていたんで、何もしなくなって急激に太ったんですよ。制作が動き出して、おおっと?(笑)ってなって。絞るにしても華奢になるんじゃなく、とりあえずゴツくなりたいなって思って。脂肪をあまり落とさずに筋肉を大きくしようということはやりましたね。背中メインで。背中で伝えるかっこよさってあるじゃないですか。ウォンビンじゃないですけど(笑)。

 

――あの背中でなんとなくサキの背景が見える感じがしましたね。

亜紗美:オープニングの着替えているところは結構好きで、我ながら「いかつい、いかつい!(笑)」って。そういうふうに見えるように作ったつもりです。

 

小学生のマリとの関係は対等

――亜紗美さんから見てサキはどういう女性ととらえましたか?

亜紗美:不器用だなーって思います。そこは私と似てるんですけど、決定的に違うのがサキはポーカーフェイスなんで、自分の気持ちを全力で隠せるんですよ。私すぐ顔に出ちゃうんでそこはそこはさっきを見習いたいんですけど、マリに対して素直になれよって演じながら思ってましたね。子供でも、サキはマリを対等だと思っているからちゃんと話せばいいのに。そうすれば、こんなに切ないことにはなんないよって思うんですけど(笑)。

 

――今言われた“対等と思ってる”というところなんですけど、サキとマリの関係って最初はサキが母親のような存在になるのかなって思ってたんですけども、実際拝見してサキがマリにかける言葉っていうのは、子供の時に自分が言われたかった言葉なのかなって。

亜紗美:まさにそれは自分もそれをを意識しながら演じてたので、そういう風に見てもらえてめちゃめちゃ嬉しいですね。首の傷もそうですけど、完全に重ねちゃってますよね。親心とか年上心とかじゃなくて、完全に当時の自分を見てる感じだったんだろうなと思って。

 

――指輪のくだりで、「伝えればいいのに」って言うじゃないですか。あそこを見た時に、あの頃の自分にそう言ってあげたかったんだろうなって。

亜紗美:切ない関係ですよね。

 

――泥団子がキーアイテムになってくるんですけども、あれが象徴するものは何だったと思われましたか?

亜紗美:サキとマリって辛辣な環境で育ってきて、サキの願望だったと思うんですよね。いつかは幸せになれるって、どこかで信じて生きてきた中でマリと出会って。マリが磨けば泥団子でもこうなるって美しく光るものを見せてくれた。それを言ってもらえた嬉しさがサキにあったと思うし。マリ自身は自分でわかって言ったのかはわからないけど。サキとマリはいつかは絶対幸せになれるっていうメッセージになるのかな。正解はわからないですけど、でもそういう風に思ってやってました。いつかはって。

拳で勝負したい!

――武器を使わないサキのアクションが際立っていたと思うんですけども、田淵監督とどのようなお話をされましたか?

亜紗美:元々私はリアルファイトの方が好きで、ただ亜紗美って言うとどうしても刀だったり、チェーンソーだったり、銃だったり、毎回獲物が相棒になるんですけども、田淵さんに「拳で行きたい」って言ったんですよ。映画の中で「武器は本当にいいのか」って聞かれて「殴っていればいつか倒れる」って言うんですけど、全て拳で行くぞっていう意気込みを伝えたかったのもありましたね。「いかつい」っていうワードに重きを置きたかったのと、過去の件はあるけれど、サキは殺しを目的にしてるわけではないので、拳で、というのはサキのこだわりでもあったんじゃないかなって。

 

――カットをあまり割らないアクションでしたが、撮影は大変でしたか?

亜紗美:好みの問題だと思うんですけど、あまり割って寄ってカットカットで繋ぐっていうのが好きじゃなくて。元々田淵さんもそうで。ただ、そんなに割る時間はねえ(笑)、っていう制作の状況もあったんですけど。割らずに見せる動きをしなきゃいけないっていうプレッシャーはありましたけど大変とは思わなかったですね。

 

――今回それが凄く見応えあって、嬉しかったです。

亜紗美:良かったです!そう言っていただけて。アクションに関してはもちろん好きっていうのもあるんですけど、楽しさしかないですよね。もっと時間があったら、もっとボリュームのあるアクションができたのにっていう悔しさはありますけど、その限られた時間、限られた予算、限られた人員の中では一番最高のものは出せたと思っているので、大変っていうのは全く(笑)。

 

サキと歌子のヒリヒリするシーン

――アクションだけでなく、子役の丁田凛美(まちだりみ)さん、加藤理恵さんを始めとするキャストの皆さんの演技も素晴らしくて、作品が生きていましたね。

亜紗美:本当に支えられましたね。凛美も理恵ちゃんもベテランさんなんで。言葉でキャッチボールをするとなった時に、母親役の理恵ちゃんとサキが二人で対峙するんですけど、特に動きがあるわけでもないし、大人の女性が二人で立って会話をする。でもそこに重みを出すというプレッシャーがあった中で、彼女の出す雰囲気や間が私が感じたことがない空気だったんですね。これ言葉だと難しい。もちろんお芝居って楽しいし、この人どういう返しをして来るんだろうとか、そういう醍醐味ってあると思うんですけど、完全に分からないんですよ。いつ彼女が口を開くんだろうとか。でもやり辛いとかじゃなくて、分からなくて楽しいっていう。別に居るから褒めてるんじゃないよ(笑)。

(※舞台挨拶のために楽屋入りした加藤さんが先ほどから隣に座っている)

初日舞台挨拶にて。亜紗美さん、笠原竜司さん、JONTEさん、加藤理恵さん、黒板七郎さん、久保直樹エグゼクティブ・プロデューサー

加藤:あそこはヒリヒリしましたよね(笑)。私、終わった後岡崎さんに、多分最高のシーンが撮れましたって言ったんですよ。あんなヒリヒリして面白かったの久しぶりだった。本当に腹立つし、この人(サキ)の言動が憎たらしくて。

 

――娘の心に勝手に入っていって。

亜紗美:あのシーンって、加藤、亜紗美じゃなくて、歌子とサキ。完全に加藤理恵の「か」の字もなかったし、亜紗美の「あ」の字もなかったのがあのシーンで。どのシーンが一番お気に入りですかっていう質問をよくされるんですけど、私はやっぱりそこを言うんですよね。記憶がないんですよ。やっている時の。

加藤:私もあんまりなくて。

 

――それだけ入り込んでたんですね。

加藤:あんまり声を荒げてたつもりがなかったんですけど、終わってみたら声を荒げててびっくりしたっていう。

亜紗美:同じ現象が起きている。記憶がなくて。

加藤:あの時の亜紗美さんの芝居、私最高に好きです。

亜紗美:ありがとうございます(笑)!作品をいろいろやらせていただいて、入り込むタイプの役者ではないので、アクションやりながら今日何食おうかと思ってたりすることもあるし(笑)、常にこう動こうと思って動いているし、ここで瞬きをしようと思ってするんですね。全部意図的にやってることなんだけど、あそこに関してはマジで記憶がないんですよ。あのシーンがしびれるって言ってくださる方がやっぱり多くて、記憶にないことを褒められるって言うのは、やっぱり相手役のおかげですよ。

加藤:いいよ、いいよ。居なくなるから(笑)。

亜紗美:居るから褒めてるんじゃないよ(笑)。理恵ちゃんとは、一緒の時間があまりなかったし、現場でもそんなに話したりしなかったけど。

加藤:でもあのシーンを一緒にやって、何十時間一緒にいるのと同じ濃密さがあって。

亜紗美:久しぶりに会ってこうやって喋れるのってあれがあったからなのかなーって。

 

――同士みたいな感じで。

亜紗美:おこがましいですけどね。でも本当にすげえって。

役を生きたキャストたち

加藤:やっぱり私、邪魔してますね(笑)。

――いえいえ(笑)。加藤さんといえば、JONTEさんの会話のシーンもとんでもなく怖くて。子どもをネグレクトしてる親のイメージとは全然違っていて。

亜紗美:マリに対して愛があるんですよね。愛はあるんだけども。

 

――男性に対して怯えたり、喜んだり、卑屈になったり。女性が瞬間瞬間で本能的に揺れる感じが。あのシーンも凄かったです。

亜紗美:リアルなんだよ、この人。

 

――それがあるから、余計にサキとマリの関係が際立つ。

亜紗美:歌子ってネグレクトって言われてるけど、やり方が分からなかった。やっぱ愛してるし。

 

――そういう思いも全て受け取ってのアクションだから、また泣けてしまうんですよね。マリ役の丁田凛美さんとはいかがでしたか?

亜紗美:凛美ちゃんも可愛いんだよなぁ。あどけないんですよ。

 

――上手と感じるテクニック的なものではなくて、本当に自然でしたよね。

亜紗美:可愛いんだけど対等と言うか。自分がお姉さんお姉さんできないタイプでもあるんで、だから凛美もいつも「あーちゃん聞いて」って現場入ると真っ先に来てくれて(笑)。大人びてるから「ランドセルに合わないねー」って(笑)。モデル体型で、すらっとしてるからなんだけど、「ひどい、あーちゃん!」って怒られて(笑)。カメラの外でも対等に話ができたから、カメラの中でも変にギクシャクしないでサキとしてマリを愛せたし。あれが生意気な子だったら愛せてないと思うんで、凛美でよかった(笑)。今回の役者さんたち、理恵ちゃんもそうだし皆んながはまり役でしたね。JONTEだってね。

 

――がっちりはまってましたね。

亜紗美:JONTEファンの方から見たら、ある意味衝撃なんじゃないかなって。

 

この日を迎えて

――サキの姿が、ファンの前から去っていく亜紗美さんと重なりました。

亜紗美:もしこれが引退作じゃなかったら、エンドクレジットが流れて暗転して、続編を匂わすサービスカットを入れて欲しかったですけど……(笑)。

 

最後に亜紗美さんがポツッと言った。

亜紗美:長かったなー。でもよかったです、今日が迎えられて。

 

定番とも言えるファンへの最後のメッセージは聞かなかった。

何よりのメッセージは映画本編にあるのだし、引退しても、もちろん亜紗美さんの人生は続く。観客の我々も然り。

映画に自分だけが表現できる何かがあると再び亜紗美さんが確信することがあれば、またスクリーンを通じて亜紗美さんと観客の人生が交差するかもしれない。

終わりは、始まり。ありがとう、亜紗美さん。


渋谷・ユーロスペースでの公開は12/19(木)まで。連日舞台挨拶を行う。
12/21(土)より名古屋・シネマスコーレにて1週間の上映予定。

 

 

 

執筆者

デューイ松田