この度、アートで世界中を攪乱し「第二次世界大戦後、最も重要なドイツ人アーティスト」と評される、ヨーゼフ・ボイスのドキュメンタリー『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』が3月2日(土)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、 横浜シネマリンほか全国順次公開する運びとなりました。

本作の監督は、ドイツ人監督アンドレス・ファイエル。
監督は、偶然訪れた、美術館でボイスがリーマンショックを予測する内容を語るビデオを観て「20世紀からボイスを現在に連れてくる必要性を感じ本作の制作を始めた」といいます。

ボイスが唱えた「みんなで意志決定の仕組みを築こう」は
今こそ耳を傾けるべきメッセージ
──「ボイスの思想は現在でも衰えることなく、十分に通用する」と仰っていますが、具体的には、どういうところでしょうか?

私はこの映画を作ることで、ボイスが生きていた前の世紀から現在に連れてくる必要性を感じたのです。多くの芸術家や当時の仲間たちが「ボイスは20世紀で最も偉大な芸術家だった」と言っているでしょう。でも私に言わせれば、21世紀になっても依然として最も偉大な芸術家です。
彼は「経済活動を民主主義的なものに変えなければならない」と言っています。お金は自己増殖してバブルが生まれるけれど、やがてバブルが弾けた時、バブルを作った張本人たちではなく、ごく普通の市井の人々にツケが回ってくる。だから、日々世界を巡っている膨大な量のお金に関して我々自身が決定を下さなければならないということです。
また、よく引用される彼の言葉に、「人はみなアーティストである」というのがあります。誰もが社会の中にあって、様々な社会的プロセスの形成に関わる能力があると彼は唱えているのです。

「周囲に壁を作ったり、恐怖に縛られたりしてはならない。みんなで意志決定の仕組みを築こう。人間にはその力がある」というのは、特に今こそ耳を傾けるべきメッセージです。

──彼の政治的な主張についてはいかがですか?

ボイスは常に“自由”という唯一の表現について論じていました。誰もが“ノー”を言う権利があるという。それがボイスとヒトラーの違いです。ボイスは誰にもイデオロギーを強要していません。

また、「誰にでも能力は備わっている」と彼は言っています。「だから、責任を政治家に転嫁して、4~5年ごとに選挙でダメを出すのはやめよう。自分たちにできないことをしてくれるからと言って、愚かな独裁者のような政策を有難がる必要もない」と。

市民には能力がないので、代わりに政治家が戦ってくれていると、往々にして我々は思っている。彼は「責任をマヌケどもに肩代わりさせる必要はない」と主張していたのです。私たちには、ちゃんとできる力があるんです。だから私にとって、この問題は、今、向き合わなければならないという意味で、とても現実的なことなんです。


──ボイス作品の核と言及される作品「汝の傷を見せよ」の意味をどう考えますか?

私たちの肉体は、自分の欠点や間違いや納得できないことを抱えながら生きています。それが私たちの才能なんです。傷も私たちの適応性の表れです。それこそが現在にも通じるメッセージなのです。

自分の傷を見つめ、それに対処することで、ステレオタイプの効率性や行動、自分勝手な見通し、共感の欠如を超えた世界が見えるんです。

ボイスは、傷口を隠すのではなく、共感を再生し、再形成すべきだと訴えているんです。共に行動を起こして、自分たちの傷に対処するべきなんです。だから“汝の傷を見せよ”となるのです。

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<プロフィール>
アンドレス・ファイエル(Andres Veiel)
1959年、シュトゥットガルト生まれ。1992年、テレビ・ドキュメンタリー『Winternachtstraum』で長編デビューを果たした後、イスラエルの劇団を描くドキュメンタリー『Balagan』(1994年)でドイツ映画賞を受賞。2007年、山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された『ブラック・ボックス・ジャーマニー』(2001年)は 1989年に殺害されたドイツ銀行の有力者ヘアハウゼンと、その事件の犯人でドイツ赤軍メンバーのグラムスという対象的な出自を持つふたりをテーマにドイツ史を描き、高い評価を得た。
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彼は社会を彫刻した。
映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』
2019年3月2日(土)より、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、横浜シネマリンほか全国順次公開
<作品解説>
第二次世界大戦後のドイツ。
美術館を飛び出し民主主義を叫んだ芸術家、ヨーゼフ・ボイス。
世界中を攪乱し「芸術」を変えた男のドキュメンタリー。
白黒テレビに映し出される討論番組でフェルトの帽子を被った一人の芸術家が苛立ち、叫ぶ。「今は民主主義がない、だから俺は挑発する!」
彼の名前はヨーゼフ・ボイス。初期フルクサスにも参加し、“脂”や“フェルト”を使った彫刻やパフォーマンス、観客との対話を作品とするボイスの創造(アート)は美術館を飛び出し、誰もが社会の形成のプロセスに加わるべきだと私たちに訴える。既存の芸術が持つ概念を拡張するその思想は、世界中に大きな議論とセンセーションを巻き起こし、バンクシーを始めとする現在のアーティストにも脈々と受け継がれている。
本作は膨大な数の資料映像と、新たに撮影された関係者へのインタビュー映像で創られた、ボイスの芸術と知られざる”傷”を見つめるドキュメンタリー映画である。

監督・脚本:アンドレス・ファイエル
撮影:ヨーク・イェシェル
編集:シュテファン・クルムビーゲル、オラフ・フォクトレンダー
音楽:ウルリヒ・ロイター、ダミアン・ショル/音響:マティアス・レンペルト、フーベルトゥス・ミュル/アーカイブ・プロデューサー:モニカ・プライシュル
出演:ヨーゼフ・ボイス、キャロライン・ティズダル、レア・トンゲス・ストリンガリス、フランツ・ヨーゼフ・ヴァン・デル・グリンテン、ヨハネス・シュトゥットゲン、クラウス・シュテーク

配給・宣伝:アップリンク
字幕翻訳:渋谷哲也
学術監修:山本和弘
宣伝美術:千原航
(2017年/ドイツ/107分/ドイツ語、英語/DCP/16:9/5.1ch/原題:Beuys)

公式HP: http://www.uplink.co.jp/beuys/ 
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