監督・中間健詞、主演・仁科貴の『パンチメン』。

2016年に東京で3日間の興行を行い好評を博すも、何故かメイン撮影の地である大阪での公開はなく寝かされた状態に。ワインなら寝かせることに価値があるが、映画に寝かせる意味はない。さっさと公開せんかい!とファンから叱咤の声が上がったかは不明だが、満を持してシアターセブンにて10/21から10/27まで一週間の公開と相成った。連日の舞台挨拶予定は選挙戦のポスターをイメージした一覧表を劇場に張り出す演出も、大人の遊びゴゴロが溢れている。

ルール無用の地下格闘場・パンチメンスタジアムに踏みこんだバツイチサラリーマンの菊池浩二。年齢、性別制限一切なし、老若男女入り乱れ、時には力量のなさから滑稽とも言えるバトルが繰り広げられる中、君臨する無敵のビースト北直樹。ファイターたちの真剣さに菊池が見たものとは….?

シアターセブンの初日舞台挨拶時に中間健詞監督、主演の仁科貴さん、大宮将司さんにお話を伺った。

 

 

仁科貴さん

「菊池は社会の中で選ばれた生贄のような男

最近ではTVドラマ『刑事ゆがみ』や北野武監督『アウトレイジ 最終章』にも出演し活躍の場を広げている仁科さん。10/21、22京都みなみ会館では、石原貴洋監督の特集上映【大阪バイオレンス、3番勝負ニューバージョン】が開催され、仁科さん、大宮さんがそれぞれ主演を務めた『大阪蛇道』『大阪外道』も久々に公開された。

初の単独主演作品『パンチメン』では、リストラ寸前の落ちこぼれサラリーマン菊池を、仁科さんの真骨頂である自虐のユーモアを持って悲哀あるキャラクターとして熱演した。

 

 

――菊池はどういうキャラクターと捉えて演じられましたか。脚本読んだ時や実際演じられての印象をお聞かせください。

仁科:菊池は社会の中で選ばれた生贄のような男ですよね。駄目な人には人間共感するもので、みんな自分が駄目だと思いながらも一生懸命生きているじゃないですか。とことん駄目な人間は、逆に人を勇気づける可能性を持っているなって感じました。

僕は結婚してないので離婚とか子どもの問題もないんですが、年齢的にそういった役をオファーされることが多くなって来て、自分の未来像みたいに思うと演じ易かったですね(笑)

 

――格闘技映画としての『パンチメン』の魅力も教えてください。

仁科:前回の東京上映の時に改めて観て思ったのは、監督も僕も映画をやっていて、スポーツとはかけ離れたところにいるんですけど、この映画ってスポーツの本質を見事に描いてるなって。

それはスポーツってアスリート自身が勝利に向かって闘うことで達成感や幸せを得るじゃないですか。でも実はその本人が全く意識してないところでそれを見ている人たちの心をどれだけ救っているか。

そのスポーツのあるべき姿っていうのが、菊池からも感じ取ってもらえるんじゃないかなって思います。

 

――最後にこれから『パンチメン』を観る方に一言お願いします。

仁科:『パンチメン』は、撮影期間も予算もない中、中間監督の明確で綿密なイメージと僕らの必死のコラボレーションで出来上がった映画です。皆さんにもいつまでも愛して頂ける映画になるよう、今後ともお力添えをよろしくお願いします!

 

 

大宮将司さん

「北直樹は『機動戦士ガンダム』のシャアのイメージ」

大宮さんは今まで石原貴洋監督『大阪外道』に代表されるような作品で、その強面を生かした役柄を演じてきた。『パンチメン』で演じるのは、謎の地下組織「パンチメンスタジアム」に君臨する無敗のファイター・北直樹。リングの外での北直樹は完全無欠のヒーローとは程遠く、人間味溢れる面も覗かせる。そんなところも『パンチメン』の魅力だろう。

 

――今回久しぶりに上映で本編は改めてご覧になりましたか?

大宮:実は家でたまに観るんですよ。仁科さんがよく家に遊びに来られたりするんで、そんな時にちょいちょい観たり。

 

――大宮さんが演じた北直樹はどのようなキャラクターと感じましたか?

大宮:今まではヤクザな男が多かったんですが、オファーを頂いた時に中間監督から『機動戦士ガンダム』のシャアみたいな役です、みたいなことを言われたんで、“おおっ!”ていう感じで。やってやるぞっていう気持ちになりました。

 

――ご自身は人間のキャラクターとして北と菊池、どちらに惹かれますか?

大宮:自分が演じたから北でしょうか。客観的に見れない部分もありますが。僕と北は共通点はあまりなくて、僕は無口でもないし影とかもないですし。北直樹の魅力は影があるところですかね。人間誰しも多少なりと背負っているものがあると思うので。

 

――映画『パンチメン』を知らない方にその魅力を伝えてください。

大宮:格闘技映画と言えば殺伐としたものが多いと思うんですけど、今までにない心温まる格闘技エンタメになっています。どういう風に違うのかを確かめに、ぜひ劇場に観に来てください!

 

 

 

中間健詞監督

「仁科さん演じる菊池には“割り切った人生”を選び始めた中年世代を投影しました」

もともと、芸人さんの物語を企画していたという中間監督。ゆうばり国剤ファンタスティック映画祭のオフシアターコンペティション部門グランプリを目指すために、コンパクトで極力シンプルな物語にしようと発想を切り替えた。ゴロンと寝転んだ時に「おっさんの殴り合い」というアイディアが浮かんだという。

 

中間:僕のカラーという色付けはするとしても、直球ど真ん中の部分を描いたエンターテイメントができないかなっていう風に考えて。ど真ん中っていうのは勧善懲悪ではなく、物語の中には悪役じゃなくて敵や色々な人々がいて、面白くてハラハラするような基本的な映画の楽しみ方ができるシンプルな物語を作りたいっていうのがもとの発想ですね。

 

――主演の仁科さんは最初からイメージされてたんでしょうか。

中間:仁科さんにはいつかお願いしたいと思っていて、芸人さんの物語で振り回されるマネージャーの役でイメージしてたのもあって、僕の脳内でいきなり『パンチメン』の主人公としてぽこっと浮上して来ました。

仁科さんならこう演じてもらえるだろうという直感で書き終わった頃、たまたま電話で話すことがあって、「実は全然伝えてなかったけども、仁科さんを主人公に宛て書きさせてもらっていたのでぜひ出演して欲しい」と伝えたんです。それで快く受けてもらえました。

 

――大宮さんはどうやって選ばれたんですか。

中間:2012年にゆうばり映画祭で会ったんですが、見た目の存在感がありましたね。当時彼は大阪だったんで、一緒に何か面白いことができたらねって言ってたのが、おっさん同士の二人の物語を作るにあたって繋がりました。

 

――撮影に入ってお二人の演技はいかがでしたか?

中間:想像で始めた作業だったんですけども、思った通りいい感じで二人とも僕の期待に答えてくれたし、二人のコンビネーションもよかったと思います。

 

――撮影時に苦労されたことはありましたか?

中間:撮影に関しては全然問題なかったですが、問題はお金の面でした。この映画を途中で一緒にやろうと言ったプロデューサーが途中で降りちゃったんで、それで苦労しましたね。あとは時間的な問題で、芸人さんの話から『パンチメン』に切り替えたことで本来かけられる時間が短くなって、いろんな人に負担かけたのが申し訳なかったと思っています。お金と時間どっちもなかったけど、現場は穏やかだったし上がりに悲壮感がないというのが良かったです。いろんな事情を感じさせずに、純粋に映画として楽しんでもらえる出来になったのが良かったかな。

 

――そんな苦労があったんですね。それでは各キャラクターの人間的な魅力を教えてください。仁科さんが演じた菊池はいかがですか?

中間:主人公の菊池は僕が投影されたわけではないんですけど、大雑把な平成20年代の中年男性像という感じにしたかったんです。僕はバブル時代に就職活動をしていて、有名な会社に入った同級生がいるんですけど、この年になると出世レースから取り残されて、そのつもりで残りの人生を消化していく生き方を選ぶ人も多いんです。とりあえず割り切って生きていこう、みたいな決断を迫られる年齢に差し掛かっていて。キャラクターを作り込むにあたっては、出来ない男にアレンジにしましたけど、 菊池に全般的な現代中年男性を投影しました。

 

――大宮さんの北はどうでしょう。

中間:北に関しては悪役にはしたくなかったんですね。影があって悪い奴ではないんだけども、何故か敵役になっている。シャア・アズナブルやダースベイダーみたいに、悪役というよりは「魅力のある敵役」であって欲しかったんです。多少道を踏み外しかけたところがあっても真面目に仕事をしてきたのにうまく行かなくて、元が純粋だったからその壁を突き抜け抜けることができなくて、腕っ節だけで人生を模索しているそんなキャラクターにしたかったんですよ。

全く会うはずがないこの二人が、変なおっさんに連れて行かれた場所で出会ってしまう。

人の出会いってどんな所で起こるかわからないというか。ストーリーの紹介でよく「ひょんなことから」って言うけど、絶対使いたくなかった。「ひょん」は一番大事ですよ(笑)。「ひょん」という言葉を使わずに二人を引き合わせるんでしたら、「主人公がちょっと自暴自棄になった時にある事件に巻き込まれてしまって、本来は被害者になるところが人と出会うことで回避されて、人生の転機を迎えることにつながった」。それを「ひょん」とは言わせないよ(笑)。

ラストで皆が皆、大ハッピーになるようなそこまで極端なものにはしたくなかった。まあ色々あるけど、そこそこハッピーぐらいのラストにしたかったんです。

 

――人生のように、またこの後も続いていくって感じですね。

中間:書けと言われれば、続きも書けますよ。スポンサー待ってます!(笑)

 

――最後に初めて『パンチメン』を観る方に、一言で魅力を伝えて頂けますか。

中間:その辺のおっさんがカチッと何かのスイッチが入った瞬間に面白いドラマの登場人物になっていく。そんな映画です。基本コメディテイストなんですけども、誰でもドラマチックな瞬間が訪れることがあると思うんです。そんなところを楽しんで観てもらえたらなと思います。

執筆者

デューイ松田

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『パンチメン』公式サイト