ヤクを引き連れ、生死を賭けたキャラバン隊がヒマラヤ山脈を越えていくーー。本年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞にノミネートされ、本年度フランス・セザール賞では最優秀撮影賞と最優秀音楽賞をダブル受賞した「キャラバン」が11月25日からシネマライズほかで全国順次ロードショー公開に。10月29日には東京国際映画祭で先行上映が行われ、壮大な映像に観客は圧倒されっぱなし。リピートしたいの声が早くも聞こえてくるようで。同日は上映後、Bunkamura地下一階ミュージアムでエリック・ヴァリ監督の記者会見を開催。グレーの綿シャツにフラノ調のベストという飾らないスタイルで登場した監督は「登場人物に俳優はいません。そこで暮らしている本当の人物です。ストーリーも私の人生の本物の部分ですね」と挨拶。映画同様、言葉ひとつひとつに魂が宿るようなコメントの連続でした。




——標高4000メートル以上の場所での撮影、キャストはほぼ全員が素人、15人という少ないクルーでこうした映画を撮るのはかなり勇気のいることと思いますが。

エリック・ヴァリ(以下V) 構想は10年以上前からあったのですが、肉体的にも技術的にも難しいだろうな、とは思っていました。でも、一番難しいのは本当は、肉体的な問題やテクニックなんかじゃなく、出演してもらいたかったドルボの住人と友達になれるか、どうかでした。結局、撮影までの3年間、そこに住み、友情を育てていくことができましたが。人間関係をきちんと作ることが出来ればどんな困難も乗り越えることが出来る気がしますね。

——作品にあなたの世界観も滲み出ていますね。

V 大人になってからの僕の夢というのはーーおかしな言い方になってしまうかもしれないけれど、子供の頃の夢を叶えることでした。大自然のなかを駆け巡ることもそのひとつですし。劇中の台詞で”もし、2つの道があるなら常に難しいほうを選べ”というのがあるのですが、僕自身のモットーもまさにそんな感じです。




——特殊効果なしの撮影で特にたいへんだったことは。

V 雪道を越えていく場面は3週間、湖のわき道を抜けるシーンでは2週間かかりました。こうした映画の場合、通常だと60−70人の撮影隊を組みものなのでしょうけど、それだけの人数を山に連れて行くことは出来ませんでしたからね。私が選んだのはわずか15人のスタッフでしたが、素晴らしいチームワークだったと思います。映画作りは共同作業ですからね。

——ドキュメンタリーという形式ではなく、フィクションで撮ったのは。

V 逆説のように聞こえるでしょうが”現実”を、本当の意味で”現実”を構築したいと思うならフィクション的なアプローチが不可欠になってくるのです。
“証人としての私”の視点はドキュメンタリーでは撮り得なかったでしょう。

執筆者

寺島まりこ

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