メキシコ時代のルイス・ブニュエルに衝撃を受け、映画界にすすんだアルトゥーロ・リプステイン監督は、その作品がカンヌ、ヴェネチアをはじめとする様々な映画祭で高く評価され、日本での紹介が待たれていたラテン映画界の巨匠です。この12月に開催されたTOKYO FILMeX 2000ではコンペ部門の審査委員長を務め、初来日を果たしたリプステイン監督の、本邦劇場初公開となった96年作品『深紅の愛 DEEP CRIMSON』は、やはり今年になって本邦初公開された70年のアメリカ映画『ハネムーン・キラーズ』と同じ、“ロンリー・ハーツ・キラー”と呼ばれた実在の男女二人組みの連続殺人を題材にした作品でありますが、生々しくも冷たい印象の70年作品とは対照的に、黒いユーモアを交えながらもエモーショナルで感傷的なメロ・ドラマは、まさにラテン的!
 リプスティン監督は、奥方であり作品の脚本を担当している公私にわたってのパートナー、パズ・アリシア・ガルディエゴさんを伴い、12月24日にシアター・イメージフォーラムに来場。舞台挨拶が行われました。





アルトゥーロ・リプステイン監督
 「まず何よりも、今日ここに来てくださって本当にありがとうございます。これは、今まで何度も言っていることでありますが、我々目に見えないののである映画作家というものが、こういう場所ではいることができるからです。ドウモアリガトウ。
 これからご覧いただく映画は、ある実話に基づいたものです。その事件に関しては、昔から知っていまして、1965年頃にはこの事件に関する新聞の切り抜き等を集めたりしていたものの、永らく眠らさせていた企画です。一つには同じ話を元にした映画が作られていたからです。
 それからしばらくしてから、再びこの事件の記事を見つけた時に、ここにおります私の妻であり、共犯者であり、共同脚本家であり仕事仲間であるパズにやらないか持ちかけました。
 この映画は確かに犯罪ものですが、その背後で私たちが目指したものはラブ・ストーリーです。それは、19世紀にロマン派のドイツの作家たちが描こうとしたものであり、また20世紀入ってからフランスのシュールレアリスムの作家たちが使ったもの“狂気の愛”なのです。
 私たちがこの映画を製作する時に大変楽しみ愛したように、皆さんからもこの映画を愛していただけることを望みます。…と言うのは、この映画は私たちにとって自伝的なものでもあるからです。もっとも、私たちは生延びておりますがね。ありがとうございます。」




パズ・アリシア・ガルディエゴさん
 「特に私の方から言うことはそれほどありませんが、まずこの作品の中で起こった事はほぼ現実に起こったとおりに描いたものです。唯一違うのは最後の部分のみで、これは元の話はアメリカの話なのですが、メキシコには死刑制度が無いので終わり方だけは変わってしまったのです。
 全てを現実のとおりに描こうとしたのは、犯罪というものそれ自体がストーリーとして脚色しようとした時に、運命と愛を描くのに完璧な構造をもっているからです。ですから皆さんに、この登場人物たちを愛していただき、さらにこの登場人物たちの共犯者になっていただきたいと思います。」

最後にもう一度リプステイン監督より、作品の配給に尽力された方々の「メキシコ映画を日本に持って来よう」という勇気に対しての感謝と、「私たちから皆さんへの贈り物である作品を、皆さんが受け取っていただけたら幸いです」というメッセージが告げられ舞台挨拶を終えました。 なお『深紅の愛 DEEP CRIMSON』は、渋谷のシアター・イメージフォーラムにて公開中です。

執筆者

HARUO MIYATA

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