多くの巨匠監督が企画に賛同するも映画化不可能と言われてきた“キューバ危機の真実”。国防省に撮影を拒否されるなど幾多のトラブルを乗り越え、監督ロジャー・ドナルドソンはこのほどケビン・コスナー主演「13デイズ」を完成。さる11月29日にはドナルドソン監督と脚本家のデビッド・セルフが緊急来日し、東京・日比谷のプレスセンターで記者会見を行った。「キューバ危機が起こったのは私が16歳だった時。肌で感じた記憶があるので、思い入れはとても強かった」(ロジャー・ドナルドソン)、監督が“素晴らしい!”と絶賛する脚本は「(大統領らの)部屋で起こった出来事に話の軸を据えてみた。ソビエト側の動きを伝えないことで逆にサスペンス効果が出たと思う」(デビッド・セルフ)。ニューズウィーク誌が異例の特集を組むなど早くも物議を醸している本作は12月16日、日米同時公開となる。



トム・クルーズ主演の「カクテル」、リメイク版の「ゲッタウェイ」、「スピーシーズ/種の起源」ほか、青春ものから社会派ドラマ、SFなど間口の広い作品を手がけてきたドナルドソン監督。ケビン・コスナーとの仕事は87年の「追いつめられて」以来となる。「彼とは非常に気が合って、“また仕事したいね”なんて話はよくしていた。けれど、実際にはそういう機会がなかなか訪れないのがハリウッドの常(笑)。この話が来た時は飛びついたよ」。実現までにはスピルバーグ、コッポラなど8人の監督、3つのスタジオが名乗りをあげ、最終的にケビン・コスナーが製作・主演を兼務。コスナー演じる大統領特別補佐官ケネス・オドネルへの100時間に及ぶインタビューをはじめ、綿密に練り上げられた脚本は「リサーチに3ヶ月半、ドラフトを3度書き、脱稿するまでに半年かかった」(デビッド・セルフ)と言う。デビッド・セルフは「ホーンティング」で一躍ヒットメイカーになったシナリオライターだ。全くタイプの違う2作品だが「どっちが好きかといわれれば、当然『13デイズ』だよ。『ホーンティング』は合作だったし、作品的にも——こんなこと言っていいのかわからないけど——ドナルドソン監督の映画づくりの方が奥深い(笑)」。ドナルドソンは映画のオープニングに自分のアイディアを使った以外は、全て脚本に忠実に従ったと言う。


歴史的事件の映画化というプレッシャーの大きい作業のなか、「最もナーバスになったのはキャスティングだった」(ドナルドソン監督)。劇中、ケネディ・ブラザーズを演じたのはブルース・グリーンウッドとスティーブン・カルプだ。「ケネディ・ブラザーズは皆が知っている。とはいえ、そっくりさんでは真実味が欠ける。一体いつ決まるんだろうかというほど、オーディションを繰り返したよ」と言う。ある時、グリーンウッドの存在を思い出し、会ってみて“これならメイクで何とか近づけることができるのでは”と思ったという。「事実、本物が映画に出ていると思えるような出来映えになった」。
ところでドナルドソンはオーストラリアの出身。「外国人だからこそ、客観的に描けた部分も大きい」とのこと。会見半ばには“今の米大統領選挙のゴタゴタはクリエイタ—として触手の動くエピソードですか?”との質問も飛んだ。苦笑しつつ、ドナルドソン監督はこう答えてくれた。「デビッドなら面白いコメディが書けるんじゃないかな」。

執筆者

寺島まりこ