戦後の日本映画界に殿山泰司ありき。自らを三文役者と呼んだ”タイちゃん”の俳優人生を、当時親交の深かった新藤兼人監督が映像化しました。竹中直人主演の「三文役者」は2日、テアトル新宿でめでたく初日を迎え、舞台挨拶の運びに。駆けつけたのは監督、竹中直人さんほか、”タイちゃん”の愛人役の荻野目慶子さん、”タイちゃん”の本妻役、吉田日出子さん。4人の主要キャストのほか、6年前に他界した乙羽信子さんが”タイちゃん像”の証言者としてスクリーンに登場するのもみどころのひとつ。”タイちゃん似”とからかわれていた竹中さんですが、「新藤監督に『向上心のない男をやってみませんか』と言われた時は、たまんない気持ちでしたね(笑)。”お願い、やらせてー”みたいな、すがりつくような想いでした」。




「シナリオだけは7年前からありました。乙羽さんのインタビューだけ先に撮っていたんですけど、それが今回編集でうまく生かされて良かった」(新藤監督)。
時間を経た名女優との共演にキャストも歓喜。「なんとも不思議な感じがしますね」(吉田日出子さん)。
執筆から7年近く宙ぶらりん状態が続いた「三文役者」。監督いわく、タイちゃんに合う俳優が見つからなかったとか。「ある座談会で竹中直人さんにお会いし”あっ!”と思った」(監督)。「もう、たまんない気持ちでしたね(笑)」(竹中)。
現実のタイちゃんと何度も仕事をしたことがある吉田日出子さん。今回は本妻ながら、「ご一緒する時は殿山さんの2号さん役をよくやらさせて頂きました(笑)」。
愛人のまま結婚できずに終わるキミエを演じた荻野目慶子さんは
「だけど、”捧げましたるこの体”って、そう思える男性に出会えるってすごいことだよなぁって気がするんですよ」。
 タイちゃん同様、邦画界を背負ってきた新藤監督ですが出演者は口々に「かわいい」のコメントを。「カットの時、ばっちりマークつくって『うまくいきました』って(笑)。その声がチャーミングで。なんか、かわいいんだもん」(竹中)だそうです。

執筆者

寺島まりこ