「サーフィン・U.S.A.」、「素敵じゃないか」、「グッド・ヴァイブレーション」──誕生から半世紀を経た今も、時代を超えて愛され続ける名曲を生み出した、ザ・ビーチ・ボーイズの中心的存在ブライアン・ウィルソン。なかでも発表当時は斬新すぎてファンや評論家を戸惑わせた「ペット・サウンズ」が、現在ではポピュラーミュージック史上不世出の傑作と称えられ、ポール・マッカートニー、山下達郎、村上春樹も絶賛したというのも有名な逸話だ。だが、それらの曲を作っていた時、ブライアン自身は苦悩に引き裂かれ、極限まで壊れていた。いったい何がそこまで彼を追いつめたのか?それでもなお天使の歌のごとき美しいメロディーが生まれた理由とは?数々の名曲が彩るブライアン・ウィルソンの衝撃の半生が、本人公認のもと、初の映画化!

ジョン・キューザック/ポール・ダノ インタビューが到着した。







ジョン・キューザック (80年代のブライアン・ウィルソン)

Q:ブライアン・ウィルソンを演じることになった時、どう思いましたか? 脚本を読んでいかがでしたか?

ジョン・キューザック:すごく光栄に思ったね。彼を演じるなんて、すごいことだ。すごくワクワクしたよ。
2人の俳優がブライアンを演じるというのは面白いアイデアだ。2時間の映画で人の一生を描ききることは不可能だからね。伝記映画の難しいところだ。出来事を時系列に沿って語り、できるだけたくさんの情報を入れようとするが、映画では限られた出来事を効率的に語ることが求められる。
2人の俳優がブライアンを演じるということは、それぞれがブライアンの異なる一面を反映できる。実際は1人の人物で10本の映画ができるだろう。それぞれがその人物の異なる顔と真実を物語る映画がね。その意味で、脚本のアイデアが気に入った。よく書けていたし、ブライアンが表舞台から消え、カムバックを目指し、それを果たした時期のことを見事に描き出していた。すばらしい脚本だと思ったね。

Q:撮影前にブライアンに会いましたか?

ジョン:メリンダとブライアンの厚意で、2人に会って質問させてもらった。僕たちが彼らを尊敬し、たたえる映画を作ろうとしていることを感じてくれたんだと思う。彼も分かっていたと思うけど、やはり彼が抱えていた精神的な病や精神科医との関係にあった闇などの問題を避けて通ることはできなかった。でも正直に、公平に描くかぎりにおいては、彼らも映画で扱うことに賛成だったんだと思う。そういう質問をぶつけるのは気が引けたけど、必要なことだった。彼らも非常にオープンに話してくれたよ。

Q:役作りで一番苦労したところは? どのようにしてブライアンになりきったのですか?

ジョン:まずは彼の音楽を聴いた。60年代に発表された『ペット・サウンズ』と『スマイル』というレコードがある。それから『The Smile Sessions』と『Pet Sounds Sessions』ではブライアンが曲を作ったり、ミュージシャンと作業したりする様子が聞ける。話したり、遊んだり、彼の普段の姿を知ることができる。何時間も仕事に取り組んでいる様子を聞くことができるんだ。隠しカメラのようだ。ニクソンのテープみたいなね。でもブライアン・ウィルソンは特別だよ。僕はこれらの音源を聞いて、役作りをした。彼の声を聞き、存在を感じた。それから彼に会い、共に時間を過ごし、どんな人物かを探った。

Q:ポール・ダノが若い頃のブライアンを演じているわけですが、彼と話し合ったり、議論したりしたのですか?

ジョン:いや。僕たちが会うことはなかった。ブライアンはアーティストで、直感やフィーリングで仕事をしているんだと思う。だから2人の俳優が彼を演じるなら、それぞれが自分の想像力を使うべきだと思ったんだ。相談して調整するんじゃなくてね。結局、僕らは別々のブライアンを作り上げたわけだけど、出来上がったものには類似点があると思う。でも意図的に意見交換をすることは避けた。

Q:もともとビーチ・ボーイズのファンだったんですか?起用される前から、ブライアンの音楽を聴いていたんでしょうか?

ジョン:ああ、音楽は聴いたよ。でも彼を演じると知ってから聴くのは全く異なる経験だった。彼になりきって聴いたよ。

Q:ブライアン・ウィルソンの人生については知っていたのですか?

ジョン:噂には聞いていたよ。一種の伝説みたいなものだね。エキセントリックで特殊で愉快で子供っぽくて、リビングルームに砂場を作っているとかね。彼は神話になったわけだ。でも神話はすべての真実を語らない。いつも大げさに語られたり、過剰にロマンチックにされたり、控えめに語られたりするものだ。半分は真実かどうか疑わしいところもある。僕は天才の顔の下に隠された真実を探ろうとした。たくさんの苦痛と問題とをね。

Q:彼を演じて、ビーチ・ボーイズやブライアン・ウィルソンに対する見方は変わりましたか?

ジョン:音楽、世界の音楽に彼が与えたインパクトは軽視できない。『ペット・サウンズ』がなければ、ビートルズの『ラバー・ソウル』は生まれなかっただろう。『ペット・サウンズ』や『スマイル』がなければ、『サージェント・ペパーズ』も生まれなかった。
ビートルズは世界を変えたけど、それは当時ロンドンにいた4〜5人の天才の力によってだ。プロデューサーとジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スター、みんなのエネルギーが結集した結果だよ。
一方、片方の耳しか聞こえない1人の男が作り出したサウンドは、ビートルズやフィル・スペクターと並んで、世界の音楽を変えた。ポップミュージックにオーケストラを持ち込んだのはブライアンなんだ。
彼は40人のミュージシャンをスタジオに呼んで演奏させた。音楽が頭に浮かび、それを形にし、ライブルームでマイクに吹き込んだ。サンプルを作るんじゃなくてね。彼はそれから伴奏をつけた。トロンボーン奏者が4人、トランペット奏者もいた。彼は真ん中の奏者に3センチ近づくように命じた。彼にはライブルームのすべての音が聞こえていたんだ。驚くべきことだよ。彼は音楽を変えて、現在、我々が経験しているようなものにした。

ポール・ダノ (60年代のブライアン・ウィルソン)

Q:最初に脚本を読んだ時、ブライアン・ウィルソンを演じることについて、どう思いましたか?

ポール・ダノ:彼のことについては多少でも知っているし、音楽もなじみがあると思っていた。でも彼のストーリーを読んで驚嘆したよ。あんなふうだったとは知らなかったし、あれほどの苦しみと悩みを抱えた人間があんな美しい音楽を作り出せるなんて、信じられない気持ちだった。改めて脚本を読み直し、音楽を聴き、また驚いた。こんな特別な精神を持った人物を演じたいと思った。
ブライアンは特別な人だ。とても興奮したよ。彼の人生を広く浅く描くのではなく、2つの時期にしぼって詳細に描き出し、その2つを並列させるというのは独創的な試みだ。僕は深く理解して彼を演じたかったし、実際にそうした。彼の役を演じられて幸運だったよ。

Q:撮影前に、ブライアン・ウィルソンと会って、何かアドバイスをもらいましたか?

ポール:まあね。でもすぐには会いたくなかった。病気になる前、音楽を作っていた1960年代の彼と今の彼とはかなり違うからね。当時の彼は非常に快活でいたずら好きだった。寛大でオープンな心を持った子供だったんだよ。あまりにオープンだから、他の人には聞こえないものが聞こえた。天使か何かみたいにね。だからまずは僕自身で彼のイメージを思い描き、それからリサーチを始めた。音楽を聴いたり、ピアノの弾き方を習ったり、歌ったり、いろいろやったよ。
そして最後に本人に会った。彼のエネルギーに触れたかったんだ。彼と目を合わせて、彼を見たり、彼に僕のことを見てもらいたかった。すべてのディテールについて詰問するつもりはなかった。彼は繊細な人だ。自分では答えが見つからず、追加情報が欲しいと思ったこともあるけど、でも彼にはいろんな面があって、すばらしいモデルを得られたね。一緒に過ごした時間は付きまとうためではなく、吸収するためだった。

Q:役作りのために体重を増やしたそうですね。映画内で歌うシーンもありました。どうでしたか?

ポール:最高だったよ。本当のブライアンは彼の音楽の中にあると思うんだ。音楽がアクセスポイント、入口なんだ。音楽を学ぶために毎日、歌を歌い楽器を演奏した。驚くべき経験だった。子供が毎日歌うのも分かる。歌うのは気持ちがいいんだ。歌は喜びだよ。感動的で精神的で心を揺さぶられる。ピアノの練習も歌の練習も好きだよ。僕の声はブライアンの声とは違うから、彼の音程に近づけるように努力した。自分の魂を失わないように気をつけながらね。モノマネ映画のようになるのは嫌だったんだ。心の中で起きていることを、最大限ディープで忠実に表現したかった。僕は映画の中で何度も歌い、楽器を演奏する。それは楽しい経験だった。それから15キロほど体重を増やしたけど、元々、やせっぽちの僕にとっては結構な量だ。これまでずっと痩せていたから、太るのは妙な感じだったよ。

Q:映画に起用される以前から、彼らの音楽を聴いていたのでしょうか?何か好きな歌はありますか?

ポール:ありすぎるよ。でも『ペット・サウンズ』の「僕を信じて」は僕にとって重要な曲だ。『スマイル』の最初に収録されている「アワ・プレイヤー」も美しい曲だね。僕に何かしら語り掛ける曲だ。それから『Pet Sounds sessions』と『Smile sessions』はロック史上に残る最高のアルバムだよ。彼らが音楽を創造している様子を聞くことができる。魔法のような経験ができるよ。

Q:ジョン・キューザックが後年のブライアンを演じています。彼と話し合ったりしたんですか?

ポール:いや。僕たちは意識的に決めたんだ。これは2人の異なる人物なんだとね。本当にまったく異なる人物なんだよ。一方の人物が他方の人物になるなんて信じられないほどだ。僕は60年代のブライアンの精神を再現しようとし、ジョンは彼が演じるブライアンの精神を再現しようとした。そのやり方が正しいと思ったし、ビルもそうすることを望んだ。でも結局のところ重要なのはブライアンなんだ。ブライアンの映画だからね。

Q:日本でもビーチ・ボーイズは大人気です。日本の観客にこの映画をどのように見てほしいですか?

ポール:映画を見て気に入ってほしいね。本当に素晴らしいストーリーだ。映画の最後でブライアンが演奏する曲が伝えるメッセージもいいね。みんなへの贈り物だと思う。「僕はバーにたたずみ、そこに集まる人々を見つめていた。この世界には孤独が満ちている。ひどい話だ。愛と慈悲、それこそ今夜の我々に必要なものだ。」この歌はブライアンから僕たちに贈られるプレゼントだと思う。彼の歌は僕たちを幸せにし、笑顔にしてくれるんだ。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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