「サーフィン・U.S.A.」、「素敵じゃないか」、「グッド・ヴァイブレーション」──誕生から半世紀を経た今も、時代を超えて愛され続ける名曲を生み出した、ザ・ビーチ・ボーイズの中心的存在ブライアン・ウィルソン。なかでも発表当時は斬新すぎてファンや評論家を戸惑わせた「ペット・サウンズ」が、現在ではポピュラーミュージック史上不世出の傑作と称えられ、ポール・マッカートニー、山下達郎、村上春樹も絶賛したというのも有名な逸話だ。だが、それらの曲を作っていた時、ブライアン自身は苦悩に引き裂かれ、極限まで壊れていた。いったい何がそこまで彼を追いつめたのか?それでもなお天使の歌のごとき美しいメロディーが生まれた理由とは?数々の名曲が彩るブライアン・ウィルソンの衝撃の半生が、本人公認のもと、初の映画化!

ビル・ポーラッド監督インタビューが到着した。






Q:なぜブライアン・ウィルソンの映画を?

ビル・ポーラッド:僕は音楽の大ファンなんだ。それが1つの理由だね。ザ・ビーチ・ボーイズのファンではなかったけどね。どちらかといえばビートルズ派だった。ところがこの10年から15年、どういうわけか『ペット・サウンズ』にはまってね。ブライアンの音楽が好きになった。奇妙なシンクロニシティか何だか分からないが、それから間もなくしてこの映画の話が舞い込んだ。
当時は「He Wasn’t a Villain」というタイトルだった脚本にめぐり合ったんだ。すでにブライアンと夫人のメリンダからは映画化の許可が下りていてね。彼らは自分たちで映画化するか、別のグループが映画化するかという段階だった。彼は僕たちのところに脚本を持ち込んだんだけど、正直なところ、僕は脚本がまったく気に入らなかった。脚本には興味を持てなかったが、アイデアは気に入ったと告げたんだ。もし他でもうまくいかなければ、一緒に映画化しようとね。それが現実になった。そこから始まったんだよ。
企画を立ち上げたものの、監督を誰にするかは未定だった。僕自身は他に何本か監督する予定の企画を抱えていたが、脚本家のオーレン・ムーヴァーマンと一緒に脚本の執筆に取り掛かった。結局、彼に勧められて、自分で監督することになった。これが撮影までの経緯だよ。

Q:オーレン・ムーヴァーマンとのコラボはどのようなものでしたか?

ビル:僕が今回の企画についてアイデアを練り、どうアプローチするかを考え始めた時、僕が興味を引かれたのは2つの要素、ブライアンの人生の2つの時期だった。伝記映画を作る気はなかったし、伝記映画を作らされるのも嫌だった。だから2つの時期を選んだ。『ペット・サウンズ』の時期とブライアンが精神科医のランディと関係するようになる後年の時期だ。この2つの時期を順番に並べるのではなく、織り交ぜるのが面白いと思った。2つを織り交ぜるほうが彼の人生を理解しやすいし、独創的だ。2人の俳優がそれぞれの時期のブライアンを演じるのも面白い。ブライアンのペルソナや精神状態、彼が経験したことをより忠実に反映したものができると思ったんだ。それで映画はさらにダイナミックなものになるとね。それがアイデアの原点だ。

Q:ジョン・キューザックとポール・ダノを起用することを決めたのはいつ、そしてなぜですか?脚本を書いている時にはすでに考えていたのでしょうか?

ビル:いや。この映画ではブライアンを忠実に描くことが重要だったので、俳優に合わせて脚本を書くことはなかった。大まかに脚本がまとまってから、キャスティングを考え始めたんだ。“過去のブライアン”、ポールの役をこう呼んでいるんだが、この1960年代の過去のブライアンは偶像的なルックスの人物だ。僕にとって、彼は60年代を象徴する人物だ。ザ・ビーチ・ボーイズやビートルズの時代の象徴だ。ポール・ダノは僕にとって第一の選択肢だった。彼が役にぴったりなのは明白だったし、彼も気に入ってくれた。ラッキーだったよ。
後年のブライアン、80年代のブライアンを演じる俳優選びは少々、困難だった。ブライアンの見た目は10年の間にも様々に変わったからね。毎月、ルックスを変える感じだ。太っている時もあれば、ひげを生やしていたり、もじゃもじゃだったり、長髪だったり、短髪だったりする時もあった。ランディと一緒に体を鍛えていた時もある。だから配役には悩んだ。
ドン・ウォズが撮ったドキュメンタリーで『Brian Wilson: I Just Wasn’t Made for These Times』というのがあって、何度か見た。キャスティングに悩んでいる時に再度、見て、なぜかブライアンのイメージが浮かんだんだ。そしてジョン・キューザックのことを考えた。一度、頭に浮かぶと彼がぴったりだと思えた。ジョンのような名優が演じるのにふさわしい役だ。彼があまたの苦難を経験し、ダメージを受けた男を演じるのは本当に刺激的なことだよ。

Q:ザ・ビーチ・ボーイズのファンではないとおっしゃいましたが、何か好きな曲はありますか?

ビル:まあね。子供時代はビートルズ派だったとは言ったが、ザ・ビーチ・ボーイズの音楽も僕の人生にあった。子供時代も大人になってからもね。今のお気に入りはいろいろあるよ。1つあげるとするなら「サーフズ・アップ」かな。ブライアンが歌っているだけのシンプルなバージョンの同曲だね。でも他の曲もすばらしいよ。

Q:この映画のためにザ・ビーチ・ボーイズを勉強されたんですか?ブライアンの個人的な人生についてはご存知でしたか?本人に会って、より内面的なことを?

ビル:そうだね。映画化に乗り出すかどうか検討していた頃、メリンダに会い、さらにブライアンに会った。彼がどんな人物かをこの目で確かめ、彼らの人生と個人的な関係を構築し、彼らのストーリーを聞いた。ブライアンについて書かれた本は多いし、メリンダについて書かれたものもある。いろんな時代のいろんな資料がある。それらすべてを参照したが、本人に会うことができたのは格別だった。ブライアンとメリンダに協力を仰ぐことができたのは大きかったね。

Q:この映画を作った後、ザ・ビーチ・ボーイズやブライアンに対する見方は変わりましたか?

ビル:ブライアンに対する尊敬の気持ちが何倍にも大きくなったよ。以前から彼には尊敬の気持ちを持っていたが、ブライアンというイメージの背後に人間的な深みを見ることができた。本物の人間とは違うセレブとしてのイメージの背後にね。そうすることで名声のことは忘れ、彼がどんな人物か知ることができた。彼は実のところ我々全員に近い存在なんだ。誰でも変わった性質を持っている。どんな人でも持っている性格だ。我々はそれを隠す力を身に着けたり、自分を鍛え上げたりする。この世界では本当の自分でいることが難しいからだ。でもブライアンは違う。彼はいまだに子供みたいなんだ。話してみれば分かるが、本当に子供っぽい部分を持っている。それを近くで観察することができたんだ。しかもそれを映画にすることができるなんて、最高の経験だったよ。

Q:メリンダのストーリーは美しいラブストーリーでしたね。

ビル:そうだね。すばらしいよ。彼らが一緒に苦難を乗り越えてきたこともね。

Q:最後に、日本の観客に映画をどう見てほしいですか?

ビル:ブライアンという人間を理解してほしいね。最初は有名人であること、彼の音楽の才能に引きつけられるが、最後は人間としての彼に感情移入してほしい。日常生活で出会う人とどのように接するべきか、どのように相手を扱うべきか、いかに優しくなるかを学ぶことができるよ。ブライアン・ウィルソンのような人を受け入れることができれば、ちょっと変わった人にも素敵な人生のストーリーがあるんだと考えられる。すばらしいことだよね。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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