“マンガの神様”手塚治虫が死ぬ直前まで綴っていた病床日記にインスパイアされ、『ピュ~ぴる』で国内外から高く評価された映画監督・松永大司が完全オリジナルストーリーで脚本化し、劇場長編初監督作品を完成させました。主人公・園田宏役に抜擢されたのは、絶大なる人気を誇るロックバンド「RADWIMPS」のリード・ボーカル&ギターの野田洋次郎。さらに注目度 NO1 若手女優の杉咲花がヒロインに抜擢されました。

余命宣告をされた青年と孤独な少女が、世界の片隅で出会い、互いにしがみつくように恋ではない恋をする。「私が生きてるんだから生きろ」。少女の叫びはいつしか青年に生きる力を与えていく。青春の儚さと生命力に溢れ、生と死がスパークする切ない恋愛映画です。

交友関係もあり、故・手塚治虫の長男でヴィジュアリスト(映像クリエイター)の手塚眞さんと松永大司監督に話を聞く。

$red ーーーアニメミライで企画された「クミとチューリップ」の製作経緯を教えてください。 $

手塚眞
今回の上映のタイミングは偶然なんですが、アイデア自体は20年前からあって、手塚治虫みたいなモデルにした3部作のアニメーション企画作品なんです。
宝塚にある手塚治虫記念館で上映する企画で1本目「オサムとムサシ」が手塚治虫の少年時代を背景に作った18分の作品で、曲は冨田勲さんが書き下ろしで参加してます。その2年後に「都会のブッチー」という手塚治虫の青年時代のような話を制作しました。3本目は未来の話にしようと手塚治虫のようなモデルで最後は病院で終わるという内容で、制作できないままだったんです。
去年、アニメミライの企画があってその中で制作する事になりました。
登場するベレー帽を被った老人には名前は登場していませんが、自分の中では、手塚治虫がモデルで名前はサム老人という事にしてます。







ーーー手塚さんと松永さんとの縁は?

松永大司
「ピュ〜ぴる」が完成した時に知人を通じて手塚眞さんに見ていただこうとしたのですが、その時はお会いすることはできませんでした。その後手塚さんの撮影現場にメイキング・ディレクターとして自分が参加し、ご縁ができました。

ーーー「トイレのピエタ」の企画と手塚さんとの関わりは?

松永
10年くらい前から「トイレのピエタ」を映画化したいという企画は自分の中でありました。
「ピュ〜ぴる」が公開された2011年の4月頃から作りたいという気持ちが高まり、脚本を書いた段階で手塚さんにお見せして、映画化の意志を伝えました。

手塚
「トイレのピエタ」を題材に作りたいという話はいろんなところからあったんですが、想いだけで実現していなく、松永さんの企画はちゃんと脚本になっていたんです。
それに松永さんの事も知ってましたし、「ピュ〜ぴる」も見ていますし、なんの抵抗もなくOKを出しました。

ーーー手塚さんが、その企画に関わろうという気持ちはありましたか?

手塚
それは、無いですね。
なるべく、そうなの?くらいの気持ちでいました。僕が関わることで松永さんのプレッシャーになりますからね。

ーーー初監督ということで松永さんに、アドバイスとかありましたか?

手塚
それは無いですね。
自分の初監督の頃とは違って既に「ピュ〜ぴる」を撮り終えていますから、海外の映画祭とかも参加していますし、素晴らしい映像作家ですからね。

ーーー初監督の苦労は?

松永
どんな作品も苦労はあると思います。手塚さんからも「白痴」制作時のお話なども聞かせていただき、とても参考になりました。
僕は周りに素晴らしい先輩監督がたくさんいてくれて、皆から口を揃えて「映画作りは大変だよ」と言われていました。予算、時間などの制約がありますからね。
「ウォーターボーイズ」では矢口史靖監督の現場に役者として参加して、現場での監督の苦労も見ました。だから今回も、映画作りで苦労をしないなんてことはないと思って臨んでいました。

ーーー脚本作りは大変でしたか?

松永
プロットを書き始めたのは2011年です。第一稿を書き始めたのは2012年。手塚さんにお見せできたのが、2013年くらい。

手塚
僕が見たのが第9稿か10稿かなぁ

松永
最終的に撮影直前は20稿は超えていましたね。
自分の想いがいっぱい詰まっている作品なんです。

手塚
みんな同じ事を言われると思うけど、デビュー作の大変さは作っている時は、無我夢中だから大変さが分からないんですよ。一本目って何気に出来てしまうんですよ。悩みが出てくるのは3本目くらいからですよ。
自分の体験からも、ほかの監督も同じですよ。
一本目、二本目なんとなく勢いで作ってしまうんです。

ーーー手塚さんもデビュー作「星くず兄弟の伝説」は、オリジナルでしたよね?

手塚
松永さんと似ているのは、一本目は音楽だけがあってストーリーもなかったんです。
近田春夫さんからストーリーを付けて映画にしてくれと言われたんですよ。自分はどんなストーリーにすればいいのかわからず近田さんからもアイデアも無かったんです。それに主演もみんなミュージシャンだったし、そういう意味では似ているんです。今なら出来ないですが、その当時は、出来るような気がしてましたね。

ーーーお二人の手塚治虫作品デビュー、印象に残る作品はありますか?

手塚
私はリアルタイムで「どろろ」や「バンパイア」ですね。「鉄腕アトム」を描いていた頃でしたが、ちょっと前の漫画という印象がありました。アニメでは、アトムと自分の誕生が近く、手塚治虫のアニメ制作と一緒に自分が育ってきているので、そういう意味では近い感じはします。逆に近すぎて兄弟みたいな感じはするので、優秀なお兄さんをもってしまった感じはしています。

松永
僕の初めての手塚治虫体験は小学校4年生くらいの時だったと思います。友達の家に「ブラックジャック」がところ狭しと並んでいて、何気なく読んだらショッキングで。それからは友達の家へ読破しに通った記憶があります。自分にとっては、強烈な印象でした。

ーーーインパクトを与えた作品はありますか?

手塚
絞りきれないくらい、いっぱいあるなぁ。
逆にみんなが読んでいないような作品を読むようになりますね。当時は子供向け漫画が多かったですが、そんな中で自分が強い印象をもって読んでいたのは「奇子」「地球を呑む」とか一生懸命に読んでいましたね。父親を知ってるだけにこんなショッキングな内容を思い付くのだろうか?など考えて読んでましたね。

ーーー同じ時期に作られた「クミとチューリップ」について

松永
びっくりしたのは、セリフが無いこと。しかも、事前に「トイレのピエタ」のアイデアが入っている事を聞かされていたので、まっさらな気持ちでは見れなかったです。余計な情報を聞いてしまった (笑)。自分が好きだなぁと思うシーンは、花を水で育てるシーン。子供たちが身につけていたバーチャルな機械を捨てて原始的な遊び、土いじりをして泥んこになるシーンです。生きるうえでのアナログ的なものにフォーカスを当てるやり方で好きだなぁと感じました。

手塚
松永さんは、「トイレのピエタ」という題材から、映画を作っていますが、自分の作品は最後は病室で終わらせるというものに付け足したようなものですよ(笑)。

ーーー2作品一緒に上映してもいいくらいですよね?

松永
公開時期が重なったのは偶然なんですが、2つ見ると面白いかも知れませんね。
色々感じるものはありますからね。
それぞれに根源的なものはあると思います。

ーーーラストのトイレの描かれた絵について

松永
主人公はキリスト教じゃないし、ピエタといっても知らない人もいると思って、主人公が絵の中に入って完成するものにしようと考えました。
キリストじゃないですが、抱かれる人間にしようと。そして、曼陀羅的な要素もあっていいかなとも。
映画としては主人公が描いている過程も必要なので、何パターンかの段階を描いてもらう必要がありました。でも最終形とそこに到達するための途中段階の絵が必要なのではなく、主人公がとにかく無我夢中で描いている、最終形がどうなるかも分からないまま取り憑かれたように描いた、その過程の絵が何枚か必要でした。そしてその結果として、あの最後の絵になればいいと。
作画は映画美術の林田さんにお願いし、何度もラフを描いてもらったり、ディスカッションしながら描いてもらいました。
最後の絵の見せ方には、非常に苦労をしました。

手塚
最後の絵は、きっと画家に頼みたかったのかなあと、これから立派な監督になれば、そのわがままも通る時期がくるかも(笑)。

松永
手塚さんとお話していると、色んな話を聞かせてくれるんですよ。手塚さんが「白痴」の時はこうだったんだよ、と話してくれる体験談が、自分にとってのアドバイスとか財産になっているんです。自分は恵まれていると思います。

ーーーアパート部屋はセットですか?

松永
そうです。
アパートの部屋はセットで、トイレだけは三つ作りました。

ーーー制作期間は?

松永
2011年から始めたので、構想から公開まで5年かかりました。
「ピュ〜ぴる」は10年かかったので、そう思えば半分になったので、上出来かなぁと(笑)。

以上

※「オサムとムサシ」
原作・監修:手塚眞、監督:りんたろう、音楽:冨田勲、キャラクターデザイン、作画監督:杉野昭夫
宝塚市立手塚治虫記念館で上映されたオリジナル作品

※「都会のブッチー」
監修・原案:手塚眞、監督:山本暎一、作画監督:杉野昭夫
宝塚市立手塚治虫記念館で上映されたオリジナル作品

※「クミとチューリップ」
原作・脚本・絵コンテ 手塚眞、キャラクターデザイン 杉野昭夫
アニメミライ2015のプロジェクトとして製作され春に劇場公開。

※「星くず兄弟の伝説」
ミュージシャン・近田春夫が、1980年に発表したスタジオ・アルバム『星くず兄弟の伝説』を原案に、手塚眞が監督。
1985年に劇場公開。
30周年記念スターダストブラザーズ ライブ!が開催
近田春夫と手塚眞の異才タッグが贈る超エンターテインメント・SF・ロックミュージカル
「星くず兄弟の伝説」(1985年6月15日公開)の30周年を記念し、一夜限りのスペシャルライブが開催されます!
【開催日時】 2015年6月15日(月)開場18:30/開演19:00
【開催場所】 渋谷 clubasia

執筆者

Yasuhiro Togawa

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※「オサムとムサシ」紹介
※「都会のブッチー」紹介
※「クミとチューリップ」公式サイト
※「星くず兄弟の伝説」公式サイト

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