サスペンス・ホラー決定版!『バイロケーション』安里麻里監督インタビュー
第17回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作! 若手ホラー作家・法条遥の同名デビュー作を、角川ホラー文庫20周年記念作品として映画化した『バイロケーション』が、7月16日(水)、ファン待望のBlu-ray&DVDで発売に!
世界中で実在報告があるという怪奇現象“バイロケーション”を題材に、自分とまったく同様の姿、形、個性を持った“バイロケ”が、自分の人生に侵食してゆく恐怖を描いた極上のサスペンス・ホラーだ。
構造的で複雑な原作を実写映画にする苦悩について【若干のネタバレ】を交えながら、丁寧に解説願いました。もう1人の自分が殺しにくる斬新な設定、観る者を驚かす巧妙に張った伏線と衝撃のラスト。史上初の試みとして通常版「バイロケーション 表」と別エンディング版「バイロケーション 裏」を同時期公開したサスペンス・ホラー決定版! 安里監督のインタビューをお届けします!
Q:作品を拝見してすぐ思ったことは、2回目、3回目を連続で観たくなるということでした!
文章だと“わたしって一人称で書いていても実は二人いました”って、なっているトリック的要素だったんですね。だから脚本を書いていて、それを映像にする時、“どう嘘を成立させなくてはいけないのか?”という部分について、とても悩みました。二人出てくるけれど、感情の糸がつながっているように、ひとりの人間に見せなくてはいけない。話がさもつながっているようにして、実は人が変わっているけれど、同じ人みたいに見えるように出来事を並べたりとか。でも、それが(見た目がまったく)一緒になってしまっていたら、後で言われた時にわからないから、髪の毛縛っている人と下ろしている人とか、赤い部屋と緑の部屋とか。一応なんとなく言われたら「そういえば〜」となるように記憶させること、微妙な違いをきちんと言っておくことが、とても難しかったですね。
Q:結婚した直後のシーンで、水川あさみさんが急に髪の毛下ろしていて、一瞬「あれ?」って、思ってしまいましたが、それは、その感覚であっている、ということになりますか?
そうですね、旦那さんと挨拶し合うシーンから、そのまますぐわたし結婚しました、っていうのを並べてしまうと、多分すべての人が気づいてしまうと思うから、バレないように間にタイトルクレジットをわざと長めに入れて、一回気をそらせました。あれ、さっきとこの人なんか違う。上の階にも住んでいて、下の階にも住んでいるのは怪しいと疑われて絶対にバレてしまうから。でも、それを(観客に)覚えさせないといけないし、設定を変えることができない、でもやらなくてはいけない。そこで、要所要所に、わざと違う情報を入れてみたり、上手く気をそらせて、また戻ってきてもらう。それでまたそらせて戻ってきてもらうっていうのを緻密に、脚本の段階で見えていないとダメなので、脚本を書くのにも一年くらいの時間がかかりました。だから、最初の髪型の部分は一回仕切りなおして違う話が始まるよ、みたいな雰囲気にして乗り越えました。
Q:原作を生かした部分、逆に原作と異なる部分などでこだわったポイントはありますか?
原作で生かしているところは、最後のオチですね。主人公がひとりは絵書いている方。もうひとりは結婚してしまった方という、お互いがお互いになりたいけどなれない。悲劇的に終わるという部分では、オリジナルが死んでしまってバイロケも消えてしまうっていうのが原作のオチだったんですけど、この物語はこれが一番のテーマだと思っていたので、そこを大事にしたかったんです。そのために前半、中盤をトリックとあわせてどう作るか、赤い部屋、緑の部屋っていうのは原作にはないけれど、髪縛る、縛らないなど、そういう差も映画ならではのやり方で付け足しました。あと、キャラクターも例えば高校生の加賀美っていう役は、原作では大人だったんですけど、あえて子供にしてかつ顔をわざと見えないようにしたりしました。人の記憶に残るように「ひとりだけ制服着た子供がいる」「なんだろう」という違和感をもたせるようにしたり、目しか見えなくて何を考えてるのかわからないといった風にしました。
その他も、キャラはけっこう変えていますね。真由美っていうお母さん役(酒井若菜さん)も変えています。物語が最初バイロケーションってやばい人、やばい存在なんだっていうのを滝藤さんで見せて、この人たちとのバトルの話なんだと思っていたら、中盤からお母さん役のキャラが実はバイロケーションで、バイロケも人間だったんだ。そんなかかわいそうな普通の人間もいて、凶暴なだけではない、初めてバイロケーションの意味がわかるっていう。実は全部勘違いが起こしているとわかるんです。だから、後半は原作のオチを意識して、主人公が実はそうでしたっていう風に引っ張れるように作り替えましたね。
Q:高田さん演じる加賀美に裏設定があるということで、それはDVDに入れられたんですか?
そうですね、多分あると思います。わたしもわからないですけど(笑)、でも、入れたと編集部が言ってました(笑)。多分、特典映像じゃないですかね。あっ、未公開シーンですね。
Q:最後にDVD&Blu-rayが発売を待っているファンの方々に、メッセージをお願いします!
普通のホラーとは一味違って、観た後に自分だったらどっちだろうと考えるような内容になっているので、そういうところを楽しんでもらえたらうれしいです。
執筆者
Yasuhiro Togawa