『ぼくらのへんたい』『恋につきもの』が話題を集めるふみふみこ先生の短編集『女の穴』が、『オチキ』『うそつきパラドクス』など青春エロティック作品を精力的にリリースし続けている吉田浩太監督により映画化された。

 地方の高校を舞台に、地球人との子作りというミッションを課せられた女子高生宇宙人・幸子のターゲットになった担任福田先生の嬉しくも焦燥の日々。
ゲイのぽっちゃり中年男性教師への片思いがあらぬ方向に暴発し、鬼のような調教生活を始める女子高生・小鳩の狂った純愛の日々。
 意外に誰の心にもある暴走しかねない純な気持ちと性にリンクする、ちょっぴり可笑しくてエロティックでホップな作品に仕上がっている。
 
 『女の穴』は6/28に全国7館にて先行公開、7/2に全国各地の映画館、DVD・ブルーレイ、ビデオオンデマンド、テレビにて、邦画史上初の試みとなる「全メディア同時公開」予定となっている。

 公開を控えた吉田監督に伺ったお話から、前半では映画『女の穴』について、後半では吉田監督の映画作りの葛藤と現在を紹介したい。













■自分の思いが伝わらない一方通行の物語
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——どのような経緯で映画化に至りましたか?

吉田:僕はエロティックな作品が多いので、『女の穴』はタイトルにビビッと来てジャケ買いをしました。マイノリティ的な性癖を描いた物語で、僕が描く世界に似てるなと思って。自分から制作会社に持ち込んで、時間はかかりましたが、なんとか実現に至りました。

——漫画を読んで惚れ込んだのはどんなところですか?

吉田:『女の豚』『女の鬼』は一筋縄ではいかない物語だけど、貫かれているのが片思いというテーマ。“一方通行”なのが『女の穴』のテーマとしても通じている。他人に自分の思いが伝わらないということが一貫されているんです。そしてイラストの可愛らしさに包まれているけどエグいことをちゃんとやっていて、目をそらしていないところに惹かれました。

——原作の映像化で特に気を使ったところは。

吉田:漫画は具体的なイメージがありますが、それを映画で追ってしまうと漫画以上にならないんです。一回物語にして、物語から出てくる大切な映像を拾っていきました。
『女の穴』に特化した話では、男向けのエロにしちゃダメだと思った。女性が観ても引かないエロ(笑)。原作は可愛らしいタッチなのでそこは気をつけましたね。

——女性がひかないとは具体的にどのようなものですか?

吉田:単純にエロくなり過ぎないようにするのが大事かなと。僕は男なのでセックスではどうしても視線が股間に寄るけど、男として見たいところに行くのではなく、物語として必要な最小限のエロティックな表現をやっていくよう心がけました

——『女の穴』で幸子が車でパンティを脱ぐところなどドキッとさせられながら、機械的な動きの落差に笑わされたり(笑)。実にポップな印象でした。
原作ファンも楽しめる仕掛けはありますか?

吉田:『女の穴』『女の豚』『女の鬼』の原作は各々バラバラな短編で、学校が同じというだけの緩やかなつながり。互いにリンクし合う部分はないんです。そこでテーマをあまり離れないようにすることで一つの映画にしました。
ふみ先生と話した際に、『女の穴』は宇宙人が地球にやって来て子供を作ると人間になる、という非常なシンプルな話にしたかったと聞きました。映画はそれだけでは物語として少し物足りないので、幸子が感情を得て行く過程を人間ドラマとしても見れるよう描いて行きました。

——原作の『女の穴』は非常に淡々としていますが、映画は幸子にも福田先生にもより共感する物語になっていました。

吉田:宇宙人だけど『スピーシーズ』みたいなことではなく、設定として宇宙人というのがあるくらいで。主演の市橋直歩さんには、その辺を歩いていてもおかしくない世界観として考えて欲しいと話しました。

■ふみふみこ先生と吉田浩太監督の共通点
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——原作者であるふみふみこ先生の反応はいかがでしたか?

吉田:僕も不安だったけど、凄く喜んで下さって。積極的に宣伝にも協力してくださっています。
ふみ先生は多分コミカルなものが描きたい方で、作品自体も何処かポップで笑える感じ。なので映画の軽いタッチも良かったんじゃないかと思うし、テーマである片思いの部分はしっかり描こうと考えていたので、そこも感じて頂けたんじゃないかなと。
お話しした時にふみ先生自身が、ご自分の内面的な部分に葛藤したり、今日までの環境も含めて、僕自身や僕の映画の感覚とそんなに遠くないんじゃないかと感じました。気に入って下さったのはそんなところかも。

——最初に吉田さんが原作を読まれたときの感覚は当たっていたんですね。

『女の穴』のカバー表紙折り返しの著者近影が男性だったので、ふみ先生は男性!?と混乱しました(笑)

吉田:あれはお父さんで、お父さんを参考に村田先生を描いたそうです(笑)。ご本人は凄く可愛らしい方でした。

——吉田さんの前作『うそつきパラドクス』は男性の原作で、続けて視点が違う作品に挑まれた訳ですね。

吉田:今回はよりドラマ性が強いですね。『女の穴』では他人の分からなさをきちんと描きたかったんです。映画としてのポップさを描きつつそういったテーマを感じられるように作りました。

——原作では穴に関する表現が一度出て来ますが、映画の中では繰り返し出て来て、密着しているけど“遥か彼方”感が出ていて面白かったです(笑)

吉田:セックスしても届かない感じが視覚的に何か出来ないかなと(笑)

——観た方は笑いながらそれぞれに共感すると思います(笑)

■原作に負けないキャスティングの妙
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——キャスティングはどのように決まりましたか?冒頭で、市橋直歩さんの宇宙人女子高生・幸子の目が“ぽっかり開いた穴のようで何だか怖い”と感じるシーンはまさに納得でした。

吉田:幸子役の市橋直歩さんは、僕が前から目をつけていたグラビアアイドルです。ニコニコ動画で観た芝居が良かったんです。ニコニコしたり、胸元を強調したりはあまりやってなくて、佇んでいるだけでも新鮮で普通でない魅力を感じました。これは映画的に映えるんではないかと。ルックスも含めて宇宙人ぽいのではと(笑)、僕が押したら無事決まってくれました。

——吉田さんは細かく演出しますか?現場の市橋直歩さんはどんな様子でしたか。

吉田:女優さんに関しては必要な時には精神論を言いますね(笑)。あなただったら、もっとできるはずだとか(笑)。追い込んで引っ張りだすような。ただ僕も宇宙人を演出するのは初めてだったので(笑)、それはすごく不安だった。今までの追い込み方の作業では通用しないので。ラストのシーンを1番最初にやったので、市橋さんは大変だったと思う。特に大事なカットは10テイクくらいやりましたし。でも感情のピークが分かれば逆算して、他のシーンの感情のあり方はわかってくれたみたいです。感性とテクニックを備えた勘のいい女優です。

——市橋さん演じる幸子に子供づくりをお願いされる(笑)福田先生の小林ユウキチさんは?

吉田:素晴らしい俳優です。青春Hの『Sweet Sickness〜スウィート・シックネス』を観たときに“すごくいいな。いつか仕事出来ないかな”と思っていました。雰囲気や存在感が松田優作みたいで。俳優としての在り方を自分でよくわかっているんです。芝居も凄く上手ですし。色々候補があった中で、僕はユウキチくんがいいと言っていたら上手く決まりました。

『ユリ子のアロマ』で染谷将太くんと仕事しましたが、ユウキチくんは彼に似た部分があって。25歳くらいなのに精神年齢は35歳くらいで達観しているんです。あるべき心情のあり方など全部理解してくれているし、芝居を遊ぶことも分かっている。予想以上のものを出してくれる才能がある方です。

——小林ユウキチさんのしっかりとした芝居があるから、自然に物語に入れると思いました。

吉田:キャラクターはだらしないんですけど、だらしなさを魅力として自分の中に還元しているところがいいんですよね。

——後半のパート『女の豚』の主演・小鳩ちゃんこと石川優実さんはいかがでしたか?

吉田:石川優実さんは原作の小鳩に似て、少しぽっちゃりして、ロリっぽい雰囲気でいいなと思ったんです。小鳩自身が歪んだキャラクターですから、頭では考えても実際に芝居で実行するには相当自分を追い込ままないと、あそこに行けないなと思ってました。セックスシーンでトップを隠したいぐらいの覚悟では難しい役です。脱ぐことに覚悟がある方ということもあり、キャスティングに至りました。

——制服のときの真面目な優等生の印象と、裸になったときのウエストラインのギャップにドキッとさせられました。

吉田:相当絞って来たと思いますよ(笑)。グラビアで長くやって来た人で脱ぐことに対して昔は色々考えたらしいですけど、今回は脱ぐことによって見えたものがあったと言ってましたね。現場では幸子以上に自分を追い込んで絞り出す芝居がたくさんあったので、僕の精神論的追い込みは彼女の方が圧倒的に多かったです。一番言ったのは酒井さん演じる村田先生を本当に好きになれ、と。あとは漫画の小鳩のイメージが凄く強いので、追わないようにしてくれと。自分の言葉で小鳩の言語としないといけないので。その作業をひたすら繰り返して、精神的にも肉体的にも持って行くようにしましたね。

——たまたまナナゲイに他の映画を観に行って予告が流れたんです。小鳩ちゃんが村田先生をいたぶっている姿が最高に面白くて、これはヤバイ。観なければ!と思いましたね(笑)。吉田さんのスパルタ演出が見事に生きていました。
 
 酒井敏也さんの村田先生は、漫画の可愛らしさそのままの愛すべきキャラクターになっていましたね。

吉田:原作を観たときに僕もプロデューサーも、酒井さんに似てるよね!となったんですが(笑)。まさか出てもらえるとは思わなかったけど、軽くOKして頂いて。その場で“お尻も出して頂きたい”とお伝えしたら、“監督が良ければいいですよ”と。
現場でも僕の言うことを尊重して下さって熱心にやって下さった。前貼りが嫌いで生でやっておられましたね(笑)。腰を振り過ぎて腰痛になったり。現場では可笑しくて仕方なかったです。酒井さん自身はゲイじゃないけど乙女ちっくな部分がある方で、自然に演じていただいて村田先生になっていきましたね。

——非常に軽やかに演じておられましたね(笑)

■女の深淵を表現してくれたMAMADRIVEの『女の穴』
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——音楽はどのように決まりましたか?

吉田:バップから提案があって、MAMADRIVEさんがオリジナルで書き下ろしてくださるとなったんです。
 MAMADRIVEさんの世界観がエロティックで、ボーカルのシブヤさんが持っている女の業といったものをテーマにされているので、面白いものが出てくるだろうなと思っていました。出来上がって聴かせてもらったら深みがあって、彼女自身の“女の穴”が持つエロティックさが十分表現されていて良かったなと思いました。

——歌詞が届きますね。本能的な衝動とそれを一歩引いて見ている知的な印象があります。

吉田:エロティックさプラス、宇宙的な空間の広がりがあるし、女としての深淵みたいなものを表現してくれていて凄くいい。
 映画が終わってエンディングロールが流れた時に、あそこまで飛躍してくれるとまた違った次元から映画が終われる。某映画のパロディ的にもなってますし(笑)。

——穴に吸い込まれるのか、出てくるのか分からない感じと曲の強さが残ります。

吉田:予想外な感じはするかもしれないけど、それが予想外にマッチングしていて。シブヤさん自身の狂気が上手くはまってくれている気がして、凄く良かったですね。

——車の中で流れている曲もやるせない熱さが印象的ですね。青春って感じで。

吉田:そうですね(笑)。僕も一度PVを撮ったことがあるTHE TON-UP MOTORSという男っぽいバンドです。
曲調としても、先生が聴いているであろう感じにはまっていたので使わせてもらいました。
 劇伴は『オチキ』『うそつきパラドクス』に続いて松本章さん(『ばかのハコ船』『ノン子36歳(家事手伝い))が担当してくれています。

■6/28、先行公開に当たって一言!
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——それでは最後に、これから劇場でご覧になる方々に一言お願いします。

吉田:各キャラクターと役者さんの資質が遠くなくて、キャスティングとしてはまっていますので、原作と比較していただくのもいいですし、キャスティングの妙と芝居のアンサンブルをしっかりと観ていただければ嬉しいです。

 原作にもある片思いというテーマをいかに映像化するか、表現は遊んだけど拘ってやりました。普通話しているシーンのカットバックならイマジナリーラインを越えないようにするんですが、例えば小鳩と村田先生は全部視線を合わせないようにするため、全部イマジナリーを越え、想いが一方通行になることを映像として表現しました。そういった片想いの映像表現に注目して観てもらうとより楽しくなると思います。

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※サービスデイなどその他割引との併用不可
※立誠シネマは『恋につきもの』のみ上映

執筆者

デューイ松田

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