6月4日にブルーレイ・DVDが発売される、映画『黒執事』。同特典用のビジュアルコメンタリーの収録で久しぶりに再開した大谷監督・松橋プロデューサー・水嶋ヒロさんが改めて『黒執事』の魅力を話します。コメンタリーの収録時には話しきれなかった話題も登場するなど、コメンタリーの“補完版”とも言えるオフィシャル鼎(てい)談をお楽しみください。

$red ——6月4日に映画『黒執事』のブルーレイとDVDが発売されますね。先ほど、同コレクターズ・エディションの特典用ビジュアルコメンタリーの収録を終えられましたが、非常に和気あいあいとした雰囲気で。 $

松橋:映画館にいるというか、お茶の間に3人が集まったような気分で楽しくやってみようという話になって。

水嶋:こういうコンテンツって、その人の持つ素の部分が垣間見えるのが一番おもしろいと思うんですよね。そういう意味では、自然体でできて良かったなと。楽しかったです。

大谷:3人で会うのは初日以来ですから、「そろそろ会いたいなぁ」って、僕はすごい楽しみにしていたんですよ。だから、もう会ってそのまましゃべっている感じでいいかなって。これがなかったら、次にいつ会えるかなぁと思っていたところです。

松橋:逆に、初日までは、ほぼずっと一緒にいたんですよね。日本全国を一緒に移動して、楽しい時間を過ごしてきて。もう、ファミリーみたいな感じでね。

水嶋:クランクインの時も、最初からスタッフのみなさんと近い距離で仕事ができてました。いま思い返しても、すごくいい現場だったなって思います。

大谷:ダビング作業をしている時にも、いろいろ話しましたね。僕、べらべら自分のことしゃべって。

水嶋:いえいえ、それは僕が聞いたからですよ。

松橋:監督おすすめの映画とかね。

大谷:一人の俳優さんとこんなに近い距離で接することって、いままでなかったですよ。



——これまでのインタビューでも同じ質問があったと思いますが、改めて、俳優と裏方という二つの顔を持ってみて、いかがでしたか?

水嶋:すごくいい経験をさせていただきました。制作にはとても興味があって、ずっと覗いてみたかった。だから、そこを知ったことで、演じることに対してもう1つ視点が増えたというか。うまく言葉にできないんですけど、『黒執事』でスタッフとしても仕事をしたことで、俳優にとっての“拠り所”が(裏方の)みなさんなんだっていうのが明確になったんです。

——心強い仲間ができた、ということですね。映画『黒執事』のチームワークの良さが伝わってくるようです。

水嶋:みなさんのお陰です、本当に。

——ビジュアルコメンタリーの話に戻りますと、まだまだ話し足りなかったような印象を受けましたが、いかがですか?

松橋:そのシーンの話をしていると、どんどん次のシーンに移り変わっていくので、確かにもっといろいろ話せたかもしれないですね。

水嶋:もう一回やったら、たぶん全然別のものができると思います。

大谷:「さっき話した話題はNG」っていう条件でやったら、別パターンをつくれるかもしれませんね。

松橋:いや、そういうことを言ってしまうと「もう1パターンつくりましょう」って話になっちゃいませんか?(笑)

——“NG”つながりで、NGシーンやカットシーンについてお伺いできればと思います。

大谷:これが、ほとんどないんですよ。

松橋:特典でNGシーン集みたいなものがつくれないかって話も出たんですけどね。ないんです。カットした部分についても、一つセリフを削ってしまうと、他のシーンとつながらなくなってしまうぐらい、緻(ち)密につくり込んでいるので。ただ、「これは撮っておけば良かったな」と思っているのは、ナイトクラブに潜入捜査するセバスチャンが女装をしている——というシーンです。台本の仮案にあったんですよ。

大谷:原作でも、セバスやシエルが変装して潜入する場面がありますよね。いまだからこそ、「そういうシーンをやっていたら、どうなっていたかな」って妄想したりしますよ(笑)。

——女装シーンをやるかもしれないとなった時、水嶋さんはどういった心境だったのでしょうか。

水嶋:何しろ、そのシーンは自分で案を出して採用“されちゃった”ものなので……(笑)。ただ、抵抗があることでも、作品が良くなることなら喜んでやるつもりでしたよ。

——残念ながら、最終の台本ではなくなってしまった案なんですよね。今回、世界観や台本をはじめ、全体的に相当なつくり込みを経た上で撮影に入られたと聞いています。

水嶋:役者の立場からすると、ここまで内容を熟知して、いろいろなことを準備した上で臨むっていうのは極めてめずらしいことだと思うんです。台本をもらって一週間後にはクランクインというのが当然のようにあることなので。(アクションシーンは)4ヶ月間の特訓なしに撮影していたら……と想像すると、ゾッとします。

松橋:あれだけ派手なアクションシーンを短期間で撮れたのは、水嶋さんがアクションを体に叩き込んだ状態で現場に入ってくれたからですね。

——アクションのようにつくり込むシーンの一方で、アドリブ演技などもあったんでしょうか。

大谷:水嶋さんが結構やってくれましたよね。

松橋:アドリブというか、台本上の文字には出ていない、細かい設計ですよね。

水嶋:セバスチャンの役は、その場のインスピレーションでアドリブをしてしまうと人間らしさが出てしまう恐れがありまして(※編注:水嶋さんが演じた執事のセバスチャンは、人間の姿をした悪魔)。ただ、作品の為を思うと文字だけでは表現出来ないものを反映していく必要があったので、そこは念入りに考えた上で現場でやってました。

松橋:現場で演技を見ながら「台本以上のものになっている」と確信できる瞬間があるんですけど、それってやっぱり、役者の方の表情や仕草を見て感じられることなんです。役者の方たちが一生懸命役づくりをする上で考えてきてくださったことが出てきた時に「いいな」って。そういうシーンについては、コメンタリーで言っていると思います。

大谷:役づくりと言えば、最初に水嶋さんと二人でお会いした時に「こんなセバスチャン像を考えているんです」という話になって。相当つくり込まれているようだったので、僕が(剛力彩芽さん演じる)汐璃役で、冒頭のセバスの登場シーンを本読みしてみたんですよ。……もう、それがすごい良くて。完璧ですよ。「こういうスタンスで作品に臨んでいるんだ」と。あの時のことは鮮明に思い出せます。

——大谷監督と松橋プロデューサーは、これまでに多くの役者の方とご一緒してきたと思いますが、“俳優・水嶋ヒロ”はどのように映りましたか?

松橋:ものすごい真面目な人ですよ。何にでも120%で臨む人ですから。クランクインの前に、役について相当話し込んで臨めるっていう状況が普通はないですからね。逆に、我々がその思いに応えるためにステップアップしないといけないな、とよく思いました。

大谷:水嶋さんがよく言われていたのは、「悔いが残るものにしたくない」と。ほんの些細(ささい)なことでも引っかかる部分や納得のいかないものがないか、全体を通じて、常に見ていたように思います。コメンタリーでも話題に出ましたけど、水嶋さんにお願いして、現場で台本を直してもらうこともありましたから。思いの強さっていうのかな。すごく深く関わり合えているなと思えたし、自分の力を出し切ってやりきる姿に、こちらも身が引き締まりました。

——俳優である水嶋さんと、裏方である“制作”の仕事をご一緒することで気付いたことはありますか?

大谷:撮り終わった映像を一緒に編集していて、「(一連の演技は)こういうことを考えて芝居されているはずですよ」という話を聞いて、「じゃあ、ここはカットできないな」と思ったことがありました。つまり、それまでは演技した役者さんの考えや思いに気付かないままに、監督としての視点だけで編集してしまっていたんだなと気付いて。編集によって、演技やシーンそのものの意味合いが変わったりすることがあるじゃないですか。だから、「それは聞けて良かったね」とスタッフのみんなも話していて。

水嶋:ああ、そうですか! 良かった……!

松橋:ただ、それはエゴではないんですよね。物事を俯瞰(ふかん)して見れる資質があるので、自分のことはさておき、作品の仕上がりを優先した意見を出してくれますから。本人もね、俳優でありながらも、そういうバックヤードのことがたぶん大好きで。面倒な作業でも、一緒につくっていくことをとてもおもしろがってくれました。そして、その才能を持ち合わせているということが大きかったですね。

水嶋:ありがとうございます。

——『黒執事』をブルーレイ・DVDで初めて観る方に向けて、見どころを教えてください。

大谷:謎解きのミステリー、アクション、重厚な人間ドラマ——エンターテインメント映画に大事な要素が全て織り込まれています。それを思いっきり満喫してほしいですね。僕らも、先ほどコメンタリーを収録して、改めて自分たちの思いを再確認できたというか。これだけ人が集まって、一致団結して、ようやくたどり着けた作品だという手応えがあります。

松橋:この世界観をつくるために、さまざまな点にこだわりましたよね。話自体も、とてもおもしろくなっていると思います。

水嶋:僕がおもしろいなと思うのは、『黒執事』のキャラクターって、だれもがグレーなんですよね。汐璃はとても真っすぐで、純粋なように見えるけど、彼女を突き動かしているのは過去の悲しい出来事による“復讐心”。物語が進むにつれて、人の持っているダークサイドが徐々に浮き彫りになっていくのが面白い。それぞれのキャラクターが持つ “含み”を意識しながら観てもらえると、二回目以降は、同じシーンであっても全然違う風に見れると思います。

松橋:セバスチャンや汐璃、一人ひとりのキャラをそれぞれ追い掛けて観るのもおもしろいと思います。さまざまな楽しみ方があると思うので、逆に作品を観た方から「こういう見方があるよ」と教えてもらえると僕らもうれしいですね。

水嶋:あとは、『黒執事』は音楽もトップクラスだと僕は思っていて。ただ、初めて観た時はストーリを追い掛けて音楽まで気が回らない場合もありますよね。音楽と一緒にそのストーリーを味わってもらうことで、作品のメッセージがより伝わるんじゃないかなと思います。

大谷:VFX(※編注:CGや合成処理による実写映像の加工)も一つひとつのカットをつくり込んでいて、外国映画を観ているような画面づくりになっています。『黒執事』を観るためにテレビを買い換えていただいてもいいんじゃないかなって思うくらい(笑)。それぐらい、音楽も画面も丁寧につくっています。

——コレクターズ・エディションには、特典で絵コンテのレプリカが入っているので、それを観ながらという楽しみ方もありますね。

大谷:(美術世界などのビジュアルパートを担当した共同監督の)さとうさんの絵コンテが、アニメ畑ならではのおもしろいレンズ感なんですけど、実際には再現が難しいものも意外とあって。でも、その発想のおもしろさを大いに取り入れようと撮影しましたので、比べて観てもらえるとおもしろいと思います。

——コメンタリーの中で、優香さんや山本美月さんの「(女優としての)ドキュメンタリーを観ているような作品」という言葉が印象的でした。それは、みなさんにとっても同じことが言えると思いますが、『黒執事』はご自身にとって、どのような作品になりましたか?

松橋:ものすごい思い入れの強い作品ですね。これまでに携わったどの作品も愛していますけど、“いまの自分”のエネルギーを、一生懸命、どんどん注ぎ込んだ作品なので。あとは、さっき監督が仰っていたように、水嶋さんと一緒に作品をつくり上げたことで、役者さんの視点がより理解できて。これから先の、自分の作品づくりに強く影響を与えたエポックメイキング的な作品になったと思います。

大谷:企画がいい、脚本がいい、キャストがいい、プロデューサーもいい。それだけいいものをつくれるチャンスっていうんですかね。クオリティの高いものをつくろうと思っている人たちだけが集まったような作品ですから……うん、そこですね。僕自身、水嶋さんとの出会いは歴史的なものでした。このタイミングで巡り会えて、一緒に作品をつくれたことを本当に感謝しています。

水嶋:みんなの“熱”が本当にすごかったんです。『黒執事』に集まった火はメラメラとしていて、常に汗だくになりながらも想いを搾り出しながらつくって。そんな作品と出会えるのって、もしかしたら一生に一度くらいの経験かもしれないって思うんです。下手したら、最後の作品になるかもしれないってくらい——こういうことを言うと、みんなの顔が引きつる……(笑)。

(一同、笑)

水嶋:大げさに聞こえるかもしれないけど、それぐらいに思えてしまう作品です。しかも、『黒執事』には20代最後の自分が詰まっていて。これから30代になって、僕はいろいろな部分が変わっていくと思うんです。

大谷:そうですね。また30代になると、いまとは違う水嶋さんが出てきて。また、その水嶋さんと出会いたいです。人って、絶対そのまま同じではい続けられませんから。いろんな経験をして、必ず変わっていく。僕は、水嶋さんがどんな風に変わっていくのかがすごい楽しみです。

水嶋:ありがとうございます。うまく言えないんですけど、自分が前に出る時って、「だれかのために」っていう思いがすごく強いんですね、。『黒執事』で言えば、長い間待ってくれていたファンのために演者として出たというのもあるんです。だから、ここまで注ぎ込めたのかな、とも思っていて。でも、そういう意味では、一区切りの作品でもあるような気がしてます。30代以降は「自分のために」と思える作品が出てくるかもしれないなって。……僕の言っていること、伝わりますか?

松橋:(企画の最初から)一緒にいたから、よくわかります。

——30代になった水嶋さんが、再びこの3人で一緒に作品をつくるのが楽しみですね。ありがとうございました。

大谷・松橋・水嶋:ありがとうございました。

<取材・文=石川裕二(石川編集工務店)>

執筆者

Yasuhiro Togawa

関連記事&リンク

■映画「黒執事」公式サイト
■映画「黒執事」DVD&Blu-ray特設サイト

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=51101