大戦時、南太西洋で出会った米駆逐艦と独Uボート、互いに相手の動向を探りながら繰り広げられる死闘。海の男たちのスポーツにも似たフェア・プレイな戦い。頭脳的な攻撃、緊迫したサスペンスと駆け引きを描いた戦争アクション。男と男の壮烈な戦いが今、蘇る! アメリカ海軍が撮影に全面協力した実在する駆逐艦を用いての砲撃・爆雷投下シーンが話題となり、1957年度アカデミー賞特殊視覚効果賞を受賞した潜水艦映画の名作『眼下の敵』。

元海上自衛隊特別警備隊先任小隊長 伊藤祐靖氏インタビュー

 本作のブルーレイ化に当たり特典の48Pにおよぶ解説書を手がけた伊藤祐靖氏に、独自の視点からこの作品を語っていただきました。


Q:まずは本作の素晴らしい点はどんなところだと思いますか。
伊藤氏:リアリズムですね。実話をもとにしていますから当然ですけど。アメリカの駆逐艦が絶対有利な状態だったんですが、ありがちな戦術的ミスを犯してしまい、どんでん返なってしまうところが面白いと思います。ありがちなミスを犯してしまう時の心情がよく表せていると思いますね。

Q:アメリカの駆逐艦とドイツのUボートの両艦長に共感する点はありますか。
伊藤氏:駆逐艦の艦長は最初は乗員の信頼を得てなかったけどこれは自衛隊でもよくある話。私がいた特殊部隊でもそうでした。艦長のような立場の人は転勤が激しくて1、2年くらいしか同じところにいられないので信頼関係を築き上げるのが難しいんですよね。だから、変なスタンドプレーをする人が多いんです。でも駆逐艦の艦長はスタンドプレーなど全くせずに、淡々と職務をこなし、その実力から乗員の信頼を得ていく。かたやドイツのUボートの艦長は、たたき上げの艦長で乗員から絶対の信頼を得ていましたが、撃沈される可能性が高くなった時乗員の一名が恐怖で錯乱状態になります。あんまり書くとネタばらしになってしまいますので、この辺にしときますが、両艦長ともに、職務を淡々とこなそうとする姿勢、誤魔化しようのない実力で部下を指揮、統率しているところに共感しました。

Q:信頼を得る事は難しいとのことですが、自衛隊ではどのようにして部下の信頼を得ていくようにしているのでしょうか。
伊藤氏:信頼を得ようと思って行動すると得られないですよね。あの駆逐艦の艦長のすごいところは、ちっとも信頼されようなんて思わずに自分の持っている技量を出し切ろうとする。だから、そういう姿を見せることでだんだんと乗員達の信頼を得ていったと思います。信頼を得たい一心で乗員の目を気にして邪心が入ると、なかなか信頼されない光景は自衛隊で、うんざりするほど見た事があります。

Q:これは尊敬に値すると感じた軍人との出会いがあれば教えてください。
伊藤氏:アメリカの空母にいたときにある陸軍の人に出会いました。その人はグリーンベレーの人だったので「グリーンベレーって最強なんでしょ?」と話しかけたところこんな返事が返ってきたんです。「メチャクチャ弱いよ。自分たちは暗いところで目が見えるし、少ない食料で長く耐えられると自負していた。そんな中ベトナムのある村に赴任したんだ。真っ暗闇の中で私たちは恐る恐る歩いているのに、現地の子供たちは鬼ごっこをしている。私たちは週に1度はステーキが食べたいとブーブー言っていたのに、この村の人たちが何かを食べているのを見たことがない。彼らになぜだ?と聞いたら、この村では4歳以上になるとおなかがすいたら村を出てジャングルに行き、自力で食べ物を探して食べてくるんだ、という答えが返ってきた」この人の話を聞いて、自分たちの弱点を知り、それを堂々と言える。ごまかそうとしないで、冷静に判断しているところがすごいなと思いましたね。更にその経験を生かしてレーションという非常食も開発している。ただショックを受けて腐ってしまうんじゃなくて弱点を補う努力をしているところも素晴らしいと思いました。仲間に嘘の自分を見せ、スタンドプレーして、騙し通そうなどとせずに自分の弱点を認め、対応策を考え、実行していく。人として当たり前の姿ですが、魅力的でした。

Q:本作でアメリカ軍とドイツ軍は命がけの過酷な経験をしますが、伊藤さんご自身の体験で、一番過酷だった事はどんな時でしょうか。
伊藤氏:どこまで話せるかな・・(笑)。やっぱり撃たれた時ですね。その時、生きている事が面倒くさくなったんですよね。
左足撃たれてジャングルを逃げてたんです。恐怖感もあるし、どこまで、いつまで行けばいいんだ?っていう不安もあるし感染症も怖い。
その時にふっと「生きる事をやめちゃえば全部から解放される」と思ったんですよね。しかもチーム全体がそういう雰囲気になりかけてた。チーム全体を死に逃げ込まないようにさせようとした時は精神的にも肉体的にも過酷だなと感じました。

Q:最後に、この作品の“ここを観て欲しい”というポイントがあれば教えてください。
伊藤氏:娯楽なので、まずは何よりも楽しんで観て欲しいですね。ただ、これと似たような事を現在の日本もやってるって事を忘れないで欲しいです。領海や領空を守るってとても大変な事なんですね。今でも日本から遠いところで潜水艦に乗っている人たちがいる。練習でも訓練でもない状態でですね。そんな人たちの事を『眼下の敵』を観てちらっとでも思い出してもらえると嬉しいですね。

●伊藤祐靖(いとう すけやす/イージス艦「みょうこう」元航海長、軍事評論家)
昭和39年生まれ、昭和62年、海上自衛隊に2士で入隊。平成19年、2佐で退官。 退官後は各国の警察、軍隊への訓練指導などに携わっている。麻生幾の小説「奪還」の主人公の河合斌のモデルとなっている。訓練ではNavySEALsをはじめとした海外の特殊部隊とも交流しながら技術の向上を図った経験がある。

<『眼下の敵』とは>
大戦時、南太西洋で出会った米駆逐艦と独Uボート、互いに相手の動向を探りながら繰り広げられる死闘。海の男たちのスポーツにも似たフェア・プレイな戦い。頭脳的な攻撃、緊迫したサスペンスと駆け引きを描いた戦争アクション。男と男の壮烈な戦いが今、蘇る! アメリカ海軍が撮影に全面協力した実在する駆逐艦を用いての砲撃・爆雷投下シーンが話題となり、1957年度アカデミー賞特殊視覚効果賞を受賞した潜水艦映画の名作『眼下の敵』。
 今回、戦争映画・潜水艦映画ファンのリクエストにお応えして、テレビ朝日1980年放送「日曜洋画劇場版」(声の出演:浦野光/井上孝雄/堀勝之祐/雨森雅司/大久保正信 他)の日本語吹替音声を初収録。さらにイージス艦「みょうこう」元航海長 伊藤祐靖氏による特別解説書(48P)を封入した豪華仕様。さあ、あの手に汗握る体験を、高画質でもう一度!

執筆者

Yasuhiro Togawa

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