関西で3/21から23日まで開催中の、40作品40監督同時多発映画フェスティバル【シネドライブ2014】のクロージングのオールナイトイベント上映に村上賢司監督『オトヲカル』が登場する。

 『オトヲカル』は約16年前に製造を終了した富士フイルム・フジカシングル8の同時録音用サウンドフィルムを全編に使い、2013年の春に撮影開始し、自家現像で完成した作品。山形国際ドキュメンタリー映画祭にて、スカパー!IDEHA賞受賞している。

 【シネドライブ2014】オープニングでは、『野良風景〜銀鉛画報会2・シングル8篇〜』『犬の装飾音』の8ミリ作品も登場。
6年後のインディペンデント映画の行方を考えるイベントだからこそ、作品の多様性や映像制作の意義を考える意味でもぜひ注目していただきたいプログラムになっている。

 クロージング上映は3/23(日)、シアターセブンにて22:30開場!
イメージリングスの名プロデューサーにして2011年に他界した しまだゆきやす監督(編集:大西健児)『妖精-Sprite-』も同時上映。
 この貴重な機会をお見逃しなく!!!







——個人的な話から始めて申し訳ありません。実は上映の日に朝から体調が悪くて薬も飲んでいたので、寝てしまうんじゃないかと心配しながら観ていたんですよ。結局、全くそんな心配したことがバカバカしく思うほど面白く拝見ました!
 観ている最中は、何がどう面白いかどう言葉にしたらいいのか分からないまま画面に釘付けになって。最後の方で、砂嵐に飲み込まれたような画像が一瞬息を吹き返すように映像が写るんですが、生物の死の瞬間に立ち会っているように見えて来て、泣けてしまいました。自分はフィルムメーカーでもないし、8ミリカメラで撮った経験も何度かしかないんですけど。

村上:ありがとうございます!

——まず、何故こういった作品を作ろうとされたんでしょうか。

村上:ぶっちゃけて言うと予定していたTVの仕事が立ち消えになってくさくさしている時に、企画を考えたり映画を観たりするのもいいけど、こういう時間だからこそ新しいものを作った方がいいんじゃないかと。
 その前にフジテレビのNONFIXで『フィルムがなくなる!デジタルが変える映画のミライ!』というデジタルによる映画の問題をやっていて、自分の中で“もう一度フィルムで作品を作らないと”とも思っていたんです。それと大西健児くんが自家現像するよという話が上手く重なり合って。自分がストックしている7、8本あった同時録音用のフィルムで映画を作ろうと思ったのが最初です。

——どの程度写るかは予想した通りだったんでしょうか?

村上:実はもっと写っていると思ってたんですけど、やってみたらびっくりで。僕の保存状態が悪くて、温度による経年変化で現像したらほとんど写って無いんですよ。でもずっとデジタルのクリアな画でやってるんで、写っていないのが逆に面白かったんです。撮影中に撮影機材が壊れて動かなくなっていったり、ヤフオクでフィルムを落としたり、何処かで見つけて来たり、そんなゲリラ戦みたいにやって行くのが、ある程度加工ができるデジタルでやってた人間としては新鮮な感じでした。

——画面が刺激的だった要因の一つに、アニメーションを見ているような面白さがありました。

村上:抽象アニメーションのようなアブストラクトなものですね。
デジタルの映像は何万画素、2K、4K、8Kとか結局は人為的に作ったものです。でもフィルムは基本的に物質、だから実際にある粒子で形成されているんですよね。8ミリですら画素数と考えるとレベルが桁違い。僕は映写技師の経験もあるんですけど、何も写ってない感光したフィルムでも粒子がうごめくんです。そういうものがあるのがアナログの良さだと思うし、それが上手く出せたかなとは思います。これはアナログでしかあり得ない映像ですよ。

——パートによって色だとかパターンが全く違うのも面白かったです。

村上:あれは効果でもなんでもなくて、完全にフィルムの保存状態の差(笑)。製造されてからの時間と保存状態によって全然違うんですよ。不思議なんです。大西くんの自家現像による偶然性みたいなものもあるんですけど。

——最後の方で写る景色は感動的でした。

村上:あれも写るとは思ってなくて、あれは自分が持っているほとんど最後の方のフィルムで、一回現像した時は全く写ってなかったんです。だから写ってないと思って撮ってるんだけど、なんとも言えない世界が写っていて感動しました。
ああいう世界で、ビックカメラにAKB48のドコモダケのポスターみたいな今風のものが写るのが面白い。今、撮影されているというのが証明出来たかなと思います。

——山形国際ドキュメンタリー映画祭での反応を教えてください。

村上:僕は映画って「場」だと思っていて、作品が上映されるひとつのスクリーンに向かって不特定多数の観客が静かに共感したり、時にはエキサイトする行為自体が映画だと思ってるんですよ。そういうことで考えると最高の映画だったなって気がします。物凄い盛り上がったんで。

——どういった盛り上がり方でしたか?

村上:作品を最後まで上映が出来たのがそれまで試写の一回きりだったんですよ。途中で止まったりだとか、フィルムが流れたりということが多かったんで祈るような気持ちで上映して。それをみんなが共感してくれたことと、シネコンの座席に8ミリを置いて映写機を見せながら上映するというパフォーマンスが良かった。見てくれた人がある種の事件に立ち会ってくれたような、映画の一期一会性が出たんで盛り上がったというのはあります。

——受け入れてくれた人と同時に、受け入れられなかった人もいたと伺いました。

村上:自己満足じゃないかと指摘されたけど、「自己満足していないものを上映してどうするんですか」って答えました。みんながみんな面白いなんてあり得なくて、少人数でも深く届いてくれたらいいと思ってるんで、そこは別にいいんですよ。
 みんながみんな喜んでくれるっていう風に作ったものは否定したくないし、僕も商業映画やテレビ、CMではそういうつもりで作っているんだけど、そうじゃなくて10人のうち1人でも深いところに届いたらいいと思う作品も同時にあってもいいと思うし、今回の作品はそうだと思っています。「自己満足ですよね」と言われたら「自己満足こそが最高の満足ですよ」とこの作品では答えたい。「僕はこの映画に最高に満足しているし、やった!って気持ちがあるから上映してるんです」って気持ちは伝えました。

——村上さんの特集上映を過去に何度も開催しているプラネット+ワンの富岡邦彦さんが、CO2ワークショップや様々な場で「最近の作品は自己表現になっている」とよく指摘してしますが、村上さんの自己満足はそれとは少し違っているように思います。

村上:自己満足と言っても人に伝えるのは重要なんだけど、そのために“自分に嘘はついちゃいけないよ”ということだと思うんです。自分のポケットマネーで作ってるんだから自分の作りたいものを作る。8ミリによる偶然性を含めて見たい、見せたいというのがあるんで自己満足でいいんじゃないかと思います。自己満足性をないがしろにした作品が多いよね。
人に見せてわかってもらう工夫は必要ですが、それも含めての自己満足だと思っています。

——企画を立てるときにきちんとコンセプトを作ると聞きましたが、これに関しては?

村上:音を発するものを撮るというのはありました。海とか女性だとかビオラとか。音はクリアに録れる自信があったんで、そんな音とアブストラクトな映像のミックスをしたかったんです。フィルムそのものが今では貴重なものなので、編集するのは良くないかなと。だから撮影して現像したものをただつなげただけ。8ミリフィルム1本の3分20秒長さを体感して欲しいというのもあったんです。
 あえてコンセプトを言うとしたら「リュミエール以前の映画であり、同時に数万年後の映画の廃墟」というイメージで作っているので楽しんでください。

 機材自体の調子の悪さやスプライシングなど色んな問題でフィルムが最後までうまく行った経験があまりないんです。最後まで行ったら奇跡!と思って頂けたら(笑)

執筆者

デューイ松田

関連記事&リンク

シネドライブ2014公式サイト