映画美学校コラボ企画『坂本君は見た目だけが真面目』大工原正樹&『イヌミチ』万田邦敏特別対談
映画美学校が新しいエンターテインメントを求めて開発した学生による脚本を、大工原正樹、万田邦敏というプロの監督が映画化した2本の映画が連続して劇場公開される。今回は、若き才能とのコラボレーションを果たした二人の監督にインタビューを敢行。その撮影の裏側を語り合ってもらった。
大工原監督がメガホンをとる『坂本君は見た目だけが真面目』は、「もしスティーブ・ジョブズが中学生だったら」をモチーフに、大人げない女教師と、超マイペースな天才中学生というお互い何かが欠けている二人がクラスを巻き込んだバトルを繰り広げる。
一方、万田邦敏監督にとって5年ぶりの最新作となる『イヌミチ』は、仕事や恋人との生活において疲れ果てている編集者の響子が、たまたま知り合った男の家で「イヌ」として振る舞うという遊びに没頭する…、という物語だ。
−−天才中学生と大人げない教師がぶつかりあうコミカルな『坂本君〜』と、セックスを介在しない男女の密室劇である『イヌミチ』。映画美学校の脚本コースに通う生徒の脚本を映画化したという共通点はあるものの、見事に正反対な作品が生まれました。完成した作品を観て、お互いの作風をどう見ました?
万田:大工原さんの作風は二つあるんです。一つは『坂本君〜』のような喜劇テイストのコミカルなもの。そしてもう一つは『赤猫』『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』のような、ものすごく緻密なもので、それこそ『イヌミチ』の密室劇に近いようなテイストです。もちろんどちらも面白いんですが、今回はおおらかな、喜劇テイストの大工原さんの路線で撮ったんだなと思いました。
大工原:『イヌミチ』は演出を堪能する映画だなと思いました。演出にしても、芝居にしても、カット割りにしても、音にしてもそうなんですが、画面が毎度のことながら充実していますよね。ところで、作風で言うなら、『UNLOVED』と『接吻』は奥さんの珠実さんが脚本を書いているから共通した部分があるのは分かる。でも、『イヌミチ』のヒロインも人に好かれようと思っていない人だというところが共通している。それはもしかしたら、偶然ではなく、万田さんの好みなんじゃないかなと思ったんですが。
万田:そうかもしれないですね。
大工原:それは脚本を直していくうちにそうなった?
万田:いえ、それは最初からそうでした。そこがシナリオにのれた部分でした。あの女性主人公のキャラクターはオッケーでしたね。
大工原:でも実際、万田さんはこういった女性は好きでしょ?
万田:映画の中で描くのは好きですね。現実はどなたでも受け入れます(笑)。
大工原:だとしたら、なぜ映画になるとそうなるんですかね。
万田:理想でしょうか。男でも女でも媚を売らないのがかっこいいなというような。大工原さんは女優の選び方や生かし方が明らかにプロですよね。二人をキャラクターに合わせてちゃんとフィーチャーしている。
大工原:これは二人が主人公の物語で、周囲に関係なく展開してしまうので、どうしてもキャラクターが立ってしまうという部分はあります。よく映画は、キャスティングが8割と言いますが、(その言葉通り、)現場では何もやっていないですよ。
−−今回映画化された2本の作品の脚本を手掛けたのは偶然にも女性ですね。
万田:僕はある時期から、女性が書く作品は面白いと思うようになったんです。それは妻が脚本を書いてくれたということが大きいんですが、世の中の見方が男女で違うんだなとまざまざと知らされたわけです。女の人は世の中を関係で見ていくんで、人間の関係が大事。脚本もそこから発想していくわけです。でも男は筋から発想していって、人間の関係はあまり観ていないという感じがしています。
面白い映画というものは、人と人との関係性を描いたものが多いので、そうすると必然的に女性が書いたものが面白くなることが多いんです。実際、映画美学校でも女性が書く作品が修了作品として選ばれることが多いですし、男が書くものはたいがい幼稚でつまらない。30歳くらいになっても、18〜19歳の感覚が抜けていない。それは僕自身もそうだったということなんですけどね。
−−学生と映画作りをするのはどういう感じなのでしょうか?
万田:『イヌミチ』に関しては、主要なパートにプロがついていたんで、現場としては普段の映画撮影と変わらなかったですね。きちんとした映画を撮っているなという感覚がありましたし、学生もそれは勉強になったんじゃないかなと思います。
大工原:基本的に『坂本君』の制作は僕に任されていたので、僕個人の自主映画という感じでした。ですから、僕が知り合いに声をかけて手伝ってもらいました。声をかけたスタッフは、ほとんどが映画美学校の修了生か在籍生でしたが、みんな技術的には信頼できるセミプロなので、素人と一緒にやっている感じではなく。安心して任せられるスタッフでしたね。
−−若者から刺激を受けたことはありました?
大工原:やはりプロにはない頑張りというものがありますよね。たとえば美術に関していうと、プロの場合は、こういった低予算だったらここまでしかできないよね、というところで、早々に自分の中で線を引いてしまうところがあるけれども、美学校の若い人たちは、自分ができる限り、頑張ってやろうとする。坂本君の部屋でも、撮影現場は何にもないコンクリートの部屋だったのが、現場に行ってみると、ロボットや機械がたくさん置いてあった。そういうのを見ると感激しますし、刺激になりますよね。
−−万田さんはどうでした?
万田:刺激というよりも、若い人たちと“一緒に映画を作った”という感じがあるんですよ。今回、初めて一緒にやる子たちでしたが、いつもやっているような感覚で撮影ができました。そういう意味で幸せな現場でした。
−−『イヌミチ』の現場では、あらかじめ絵コンテを準備せずに、現場で俳優の動きを見ながら、カット割りを同時に考えた、と聞きました。
万田:『接吻』(2008年)でも絵コンテを描かなかったですし、最近はずっとそうですね。『ありがとう』(2006年)もほとんど絵コンテは作らなかったですね。ただし、あの作品は特撮がいろいろとあったので、そういったところは絵コンテがないと進まないんですが、それ以外の芝居に関しては絵コンテは作っていないですね。
−−脚本の行間に線を引いて、そこに寄り、引きと書き込む監督さんもいますが。
万田:それも現場で芝居をつけてから、サイズ、アングルを決めることが多いですね。事前に準備はしないですね。まっさらな状態で当日、現場に行って、そこから考えるというスタイルです。でも、昔はガチガチに決めていました。『UNLOVED』のときは全カット絵コンテを描いたんですが、そうすると、どこか窮屈になっているなと感じるようになったんです。現場に行っても、あらかじめ決めた画しか撮らないようになりましたし、その画に合わせて、役者さんの動きやカメラの位置を決めたりするようになった。
もちろん、当時はそれが面白くてやっていたんですが、編集して出来上がったものを観て、どこかで大きいものを切り落としているような気もしてきたんです。だから一回、それをやめてどうなるかをやってみようと思って。もちろん最初は怖かったですけどね。でもやっていくうちに、それが楽しくなったというわけです。
−−あらかじめカット割りを準備していくのと、現場で決めるのとでは時間は変わらないのでしょうか?
万田:あまり変わらないと思います。むしろあらかじめ準備していった方が自分のイメージに合わせようとして、ものすごく細かいところまで決めていくんで、時間がかかるんです。ちょっとでも画面のサイズが広いなと思ったら、そこを詰めていく。役者さんの動きがイメージと違うと何回もテイクを重ねたりして。本当は大した違いじゃないんですけどね。でも昔はそうやって時間がかかっていましたね。
−−大工原さんはどうですか?
大工原:僕もそうですね。現場に行くまで基本、割りはしないですね。今回もまずはテストをやって、固まってきたら割りを考えるという形でした。台本にも書かないですね。
−−やはりそれは慣れもあるのでしょうか?
万田:それはあると思います。慣れていない人がいきなり、そういうことはできないでしょうからね。
−−では、これから映画を観る人にメッセージを
万田:男と女の物語だとたいがいセックスがからんできますが、『イヌミチ』にはそれがありません。いわゆる飼育もののエッチな映画ではないので安心してください。人間が犬と飼い主になるとどうなるのか、その関係性が面白い映画なので、そこに興味を持って観に来ていただけたらいいなと思っています。
大工原:『坂本君〜』は、お互いに譲らない先生と中学生がバトルを繰り広げるんですが、二人の頑固さは同質のものなんですよ。だからそれがどういう結末になるのかを観に来てほしいですね。この主役の二人は、あまり周囲に影響を受けずにバトルを繰り広げますが、僕はそのまわりにいる生徒を撮るのが面白かった。撮影に入る前に彼らに、自分がクラスにおいてどんな役回りをしているのかを考えてから現場に来てくださいと言ったら、本当にいろいろやってくれたんです。同級生役のみんながどうやって演じているのか、画面の隅っこの方にも注目していただけたらうれしいですね。
万田:大工原さんは、いろんな人たちを配しながらの群像劇を作るのがうまいですよね。
大工原:でも、これは生徒たちが自主的にやってくれたものなので。僕はただ皆さんがやってくれたものを撮っただけですよ。
万田:でもそれは大工原さんの演出のさばきがあってのことですから。さすが手馴れているなと思いましたね。
『坂本君は見た目だけが真面目』は3月15日よりオーディトリウム渋谷、3月22日より映画美学校エクランにてレイトショー
『イヌミチ』は3月22日よりユーロスペースにて公開
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※『坂本君は見た目だけが真面目』公開記念「大工原正樹は見た目だけが真面目 オールナイト」実施決定!!※
『坂本君〜』公開にちなんで、大工原正樹監督の過去作品、参加作品を上映。発掘超レア作品の鑑賞とともに、「映画をつくること」について発見がある!かも、な一夜。
3月15日(土)23:30-(翌5:30 終了予定)
23:15 開場/整理番号順でのご入場
■料金
前売券 2000円(劇場窓口にて販売中) 当日券=2300円均一
※ゲストに常本琢招さん(『蒼白者 A Pale Woman』2013年 監督)を迎えてのトークショーあり。
【上映作品】
『刑事あいうえ音頭』(小中千昭監督、大工原正樹撮影 クレージーキャッツに捧げた伝説の8ミリ映画)(85)のアウトテイク集 デジタル版
『ぼくらの瞬間』(廣木隆一監督)(ENK=東梅田にっかつ製作)(87)(大工原氏が助監督で参加した薔薇族ムービー。10年ぶりのオリジナル35mmプリント上映)
『奴らを天国へ』(大工原正樹監督)(97)(『坂本君は見た目だけが真面目』出演の大久保了さん参加作品)
『眠り姫スキャンダル』(大工原正樹監督)(89)(監督の代表作といわれるVオリ)
『赤猫』(大工原正樹監督)(04)
『狂気の海』(高橋洋監督)(08)(『坂本君は見た目だけが真面目』出演の宮田亜紀さん参加作品)
※ その他シークレット短編作品上映多数。
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※『イヌミチ』公開記念前夜祭 「万田邦敏のエイガミチ 〜8ミリからイヌミチへ」も開催決定!!※
5年ぶりの長編最新作『イヌミチ』の公開を記念して、オールナイトイベント決定! 万田邦敏のレアな初期作品と、万田邦敏が一押しする、“とっても恥ずかしJK映画!”を上映!
『メイド・イン・76』(初めての自主映画)、『レムナント6』(初めての商業映画)、『UNLOVED』(初めての長編映画)。ということで、今 回は私にとっての初めてシリーズとなりました。あ、オールナイト特集っていうのも初めてだ。なんだかちょっと恥ずかしい。いいえ、映画はいつだって恥ずかしい。
万田邦敏(映画監督)
■上映スケジュール
3月21日(金・祝)23:00開場/整理番号順でのご入場
23:15-24:17『宇宙貨物船レムナント6』(35mm/45min)
『プロダクツ オブ レムナント6』(メイキング・VHS/17min)
《休憩》
24:30-1:35 トーク+上映:万田邦敏(映画監督)×塩田明彦(映画監督)
『メイド・イン・76』(8mm上映/10min)
『恋愛論のけじめ』(8mm→miniDV上映/3min)《休憩》
《休憩》
1:50-2:57 万田邦敏一押し“とっても恥ずかしJK映画!”
『涙の比重』(監督:鈴木冴/Blu-ray/11min)
『交わる』(監督:古田円香/16mm→DV/16min)
『天使の欲望』(監督:磯谷渚/Blu-ray/40min)
《休憩》
3:10(-5:07 終了予定)『UNLOVED』(35mm/117min)
■料金
前売券=2000円(劇場窓口にて入場整理番号付きにて販売中/所定枚数に達し次第販売終了)
当日券=2300円均一
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執筆者
壬生智裕