前回、“饒舌なる物語群から東北三部作、映画『不気味なものの肌に触れる』へ〜転換期を迎えた濱口竜介監督の映画づくりの秘密に迫る!”に続く、濱口竜介監督インタビューの第2弾をお届けしたい。

映画『不気味なものの肌に触れる』は、2013年6月29日〜7月19日の特集上映「濱口竜介 プロスペクティヴ in Kansai」にて初公開。
それ以来スクリーンでは「第17回水戸短編映像祭」、「PFF2013 名古屋会場・東京会場」、「第5回神戸ドキュメンタリー映画祭」、「京都みなみ会館《映画俳優・村上淳ナイト》」などに登場している。

現在、広島・横川シネマ!!にて2013/12/21(土)〜2014/1/3(金)のスケジュールで開催中の【濱口竜介プロスぺクティヴ in 広島】では、14作品11プログラムの1本として上映中だ。

前回のインタビューでは、濱口監督の作品作りの変化と映画に写るもの、写らないものについての認識、アプローチを伺ったが、今回はキャストについて。
映画『不気味なものの肌に触れる』を題材に語る、濱口監督にとっての役者の魅力とは?









━━━━━━━━━━━━━━━━━
■カメラに愛された人たちとの出会い
━━━━━━━━━━━━━━━━━

『不気味なものの肌に触れる』のキャスティングは、濱口監督がかねてから一緒に作品を作りたいと思っていたという染谷将太さん、瀬戸夏実さん。何度も一緒に作品を作ってきた俳優の渋川清彦さん、石田法嗣さん、河井青葉さん、村上淳さんといったメンバーで構成されている。

——キャスティングについて伺います。染谷将太さんは何処に惹かれたんでしょうか。具体的な作品があれば教えてください。

濱口:華がある人だし、何より実のある人という印象です。作品としては『ヒミズ』『嘘つきみーくんと壊れたまーちやん』、最近だと『リアル』は観てますね。実際会って話してみると、会話で出てくる言葉が年齢からは信じられないぐらい洗練されているというか、実感に即した借り物ではない言葉をしゃべっている感じがとても強くありました。だから、とてもその言葉を信じることができる。そういう役者さんは、彼より年上の人でも少ないですよね。印象は現場でも変わらず、本当に驚かされることが多かったです。最短距離でスッと正解を出して来るし、微調整をお願いしても、次にはまたこちらがはっとするような形で演じて来る。ああ、天才というのはいるもんなんだな、というのが率直な印象です。

——瀬戸夏実さんはいかがでしょうか?

濱口:日本にあまりいないタイプの女優さんで、他にうまい言葉が思いつかないので言ってしまえば、エロいんですよね(笑)。 瀬戸さんは肌を見せたりしないんですけど、エリック・ロメールの映画に出ている女優さんのように、画面に映っているだけでそこはかとなくエロティシズムが立ち上がるような方で、とても貴重な人だと思います。瀬戸さんがあんまりたくさんの映画に出てないことも大きいけど、神秘的なところに惹かれました。

——それは動きが醸し出すものですか。

濱口:動きも勿論そうだけど、顔と体ですね。プロポーションの良さとかではなく体つきでしょうか。肩の広い感じとか。後は笑顔と声ですね。こればっかりは天性のものです。出演してくださった皆さんに言えますが、カメラに愛された人と言える気がします。

——石田法嗣さんは『THE DEPTHS』で主演されていて、劇中彼が写った写真に韓国人カメラマンの男性が惹かれますが、その写真や表情などとても説得力がありました。

濱口:僕が出会った中でも本当に素晴らしい役者さんの一人ですね。見た目の美醜とは関係なく、兎に角魅力、色気があるんです。スターの顔をしていると思います。最近、若尾文子さんとお会いする機会があったんですけれども、その時思い出したのが石田君のことでした。顔のスター性、ということだけではなくて、増村保造の映画の中の若尾さんはものすごく一本芯の通った女性として出てくるんですが、若尾さん自身が持っているものが、演技というレベルを超えて監督が提示する女性像と合致していたんだと分かりました。演技と生が一致してしまう。
石田くんには演じていてリミッターを外してしまう脆さや危うさがあるし、そのことが「生」を実感させてくれる。そういう希有な役者です。単に演じているということを越えて、役柄と彼が生きてるということが一致しちゃう。そういう人にこそ映画に出て欲しいし、これからもオファーし続けると思います。

——確かに“演じる”という事とは別に、その人の人間性は出ますよね。それは感じます。
その他の再度のタッグとなった方々についてはいかがでしょう。

濱口:これからもずっと仕事をし続けたいと思う人たちに、今回改めて声をかけました。『不気味なものの肌に触れる』はいずれ撮る『FLOODS』という長編映画の前日譚のつもりなのですが、その長編への出演オファーでもあるわけですね。何年先になってもまた一緒に仕事をしたいと思ってます。
これまで自作であまり見せてない側面を見せつつ、でも役者本人の本質に結構近い役じゃないかと思っています。
設定は非日常的なんだけど、本質的にその人が持っているものをそのまま使えるような役にしようと思っていました。

——脚本は高橋知由さんですが、事前にそう言った話を深くされたんでしょうか?

濱口:はい。キャスティングが決まった時点で書き始めてもらった宛て書きに近いものです。それぞれの方の元々持っているものがちゃんと出ている脚本であったと思います。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■カメラに対して自分を差し出せる人に惹かれます
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

——キャスティングで一番重視するのはどんな要素ですか?

濱口:身も蓋もない話をすれば、まずは顔ですね。カメラに愛されている顔。基本的にどんな人でも魅力はあるし、誰でも演技はできると思っています。だから、どなたに出ていただいても構わないという気持ちもある一方で、限られた時間と予算の中で差がつくとしたら元々の顔ぐらいなのかなと。
ただ、もしかしたらそれより重要かも知れないのはカメラに対して自分を差し出せる人である、ということです。
カメラの前で演じることの「怖さ」を分かっている人です。演じたら演じたことがその白々しさも含めてそのまま記録されてしまうと、分かっている人たち、その上でカメラの前に立つ勇気を持っている人と一緒にやりたいと思います。そういう人の顔はね、元の造形に関わらず「いい顔」になって行くことがあるんです。

——“怖さ”というのは過剰に演じればそれがそのまま写ってしまうとうことでしょうか。以前、『MISSING』の佐藤央監督とのトークで、“時間がない時は余計なニュアンスがなかったらOKします”と仰ってましたね。

濱口:透明さとでも言うんでしょうか。できれば、演技がそこまでたどり着いて欲しいとはいつも思っています。

——オーディションではどんな話をされるんですか?

濱口:普通におしゃべりをしたいと思っていますね。普段どういう人なのかが分かるような話をするようにしています。
こちらにキャスティングの決定権があると思われると—と言うかどうしてもあるんですけど、こちらの採用基準を探るので時間が終わってしまうこともよくあるんですが、そうではなく普通に会話ができたら本当にそれだけでもう大丈夫なんです。カメラの前でもそのままでいてくれたら楽ですよね。本来は、お互い選び合う関係なので。普通に会話ができたと感じたら、基本的には何がしかの役をお願いしていますね。

——『不気味なものの』でオーディションはありましたか?

濱口:あずさ役の水越朝弓さんだけは、何名かの候補の中でオーディションしました。
彼女が一番こちらの希望を読み解こうとせず、そのままの感じで来たような感触があって、お願いしました。

——それでは最後に濱口さんは映画の中でキャスティングをどんな位置づけと考えておられますか?

濱口:スタッフィングもすべてキャスティングと考えると、ほぼすべてですね。現場で細かく演出をつけるわけではないですから。必要な人に集まってもらって「用意、スタート!」と言うだけなので、キャスティングがすべてと言っても過言ではないと思います。

——本日はありがとうございました!

執筆者

デューイ松田

関連記事&リンク

■広島 横川シネマ!!【濱口竜介プロスぺクティヴ in 広島】
■映画配信サイトLOAD SHOW・映画『不気味なものの肌に触れる』ダウンロード販売&予告編
■映画『THE DEPTHS』予告編

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=51792