香川県を舞台に、“うどん県だけじゃない香川県”のキャッチコピーに相応しい名作が誕生した。
『デスノート』、『ゴジラ』『ガメラ』シリーズ、『ばかもの』で知られる金子修介監督が撮り上げた『百年の時計』だ。
路線開業100周年の市民の足“ことでん”(高松琴平電気鉄道)と懐中時計をモチーフに、“ことでん”で育まれた密かな初恋の記憶と、大切な人と共に歩む人生の価値を丁寧に描き出した作品となっている。

東京では「ぴあ」満足度ランキング1位を獲得。
大阪では6/15(土)、テアトル梅田にて初日を迎える。

予告編がいい。どこか懐かしさを感じさせる家屋より田んぼや畑の緑の多い風景。
“ことでん”と自転車で競争する新米美術館学芸員のヒロイン・木南晴夏!
ご機嫌な大股で出勤する木南晴夏!
難攻不落の芸術家・安藤行人の回顧展を目前に、仕事に燃える木南晴夏!
高松市内を走る“ことでん”のある日常風景に、ふくれっ面さえも瑞々しい木南晴夏が魅力的に溶け込んでいる。

ミッキー・カーチス演じる気まぐれの塊のような老齢の芸術家が、新米美術館学芸員を試すように吐き捨てる。
「俺を使って一儲けしようってんだろ」
芸術家を心から尊敬する木南晴夏が本気で対峙する。
「本当のところ先生はこの20年間何を成し遂げたんですか?」

さあドラマが動く!
観客への問いでもあるこの言葉への回答を用意しながら、後は映画館に行って“ことでん”に乗るだけ。
乗車前に金子監督にお話を伺った。








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映画的で魅力的な舞台“ことでん”
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——まずこの映画を制作することになったきっかけを教えてください。

金子:人を通じて“ことでん”の100周年を記念した映画を作らないかという話が来ました。東京で映画を撮っていると電車のシーンは滅多にできないんです。『デスノート』の地下鉄のシーンは九州で撮影しました。
周りの景色が動くというのは、映画的で魅力的な舞台。色々な人が乗って来て、『グランドホテル』のようにそれぞれの人生が交錯する物語にしたいと考えました。
完全なオリジナル映画なので、脚本の港岳彦くんと高松にシナリオハンティングに行き、“ことでん”に乗って外の風景を元に構想を練りました。
東京で暮らしてると、機械的な満員の電車の行き来が、乗客を荷物と思ってないか?って感じることがあって(笑)。実際“ことでん”に乗ると、ちゃんと乗客を乗客として扱ってくれているんですね。おじいさんおばあさんが乗るのを止まって待ってくれたり。そんな現場を見て好感が持てましたね。

——そんな心遣いと共に運営されているんですね!レトロな車両は実際走っているんですか?

金子:あれは昭和30年代に走っていた車両を展示してあったんです。「これが走るといいよね」って言うと「これ走るんですよ!」って聞かされて(笑)。展示物だけど時々イベントで走らせるのにメンテナンスしてるんですね。これで昭和30年代の話を組み立てることが出来ました。現地に行ってみて、初めて段々と絵が形造られられて行きましたね。

——レトロな電車が走る姿は鉄道ファンでなくてもワクワクする光景ですね。物語は新米の学芸員と故郷を捨てた芸術家を中心に展開しますが、この発想はどうやって生まれたんでしょうか?

金子:香川県はうどんで知られているけど、それだけでなくてアート県としての側面もあるんです。直島は「ベネッセアートサイト直島」という名称でモダンアートや建築に力を入れていて、安藤忠雄氏が建築したクロード・モネの「睡蓮」が観られる地中美術館やベネッセハウス・ミュージアムがあります。高松市美術館もモダンアートに強い、そんな土地柄です。モダンアートって訳の分からないものだと思っていたんですけど、調べていくと観るものを刺激して心の中にできるものが本質だと分かりました。水や紙吹雪を落としたり、静止画や色々な動きも含めて心を刺激する。映画も同じですよね。映像がスクリーンに写っているんですけど、本当の勝負はそれを観た人の中に浮かぶイメージが“映画”。芸術はすべてそういうところがあると思います。

“ことでん”とアートから発想して、主人公のスランプになった老齢の芸術家が何をやるか。電車を使ったアートをやろう!となりました。ミッキー・カーチスさん演じる安藤行人の人生と木南晴夏さん演じる涼香の人生。
走る電車の中で、いろんな登場人物の人生が織りなしファンタジーの世界が立ち現れて来る。そんなストーリーになりました。

——キャストはどんなふうに選ばれましたか?

金子:前から木南晴夏さんに注目していました。美人なのに『20世紀少年』でブス顔を厭わない役を演じていたのが印象的で(笑)。ブスな顔から可愛い顔までいろんな表情に魅力があって、ぜひ一度出て欲しかったのでお願いしました。
ミッキーさんは、ご自身が書かれた『おれと戦争と音楽と』を読んで、行人に共通するなと思ってオファーしたら、台本を読んで「これは俺だよ!」って言ってくださって(笑)。アートに対するセリフや突拍子もない行動。危険な人物みたいなところもあって、でも飄々としてまさに映画のなかのアーティストそのものですね。
映画の中で木南晴夏さんの父親役の井上純さんとギターとハーモニカでセッションするというシーンがあって。このシーンがいいんですよ!

——大人の遊び心が楽しい素敵なシーンでしたね!

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大人としての回答を模索し続ける
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——さて『百年の時計』の公式サイトですが、トップに掲載されている金子監督の「これぞ映画です」という堂々とした言葉について教えてください。

金子:何でも言いますけどね(笑)。『百年の時計』では、小説や漫画や演劇では表現出来ないことをやったと思っているんです。走っている電車で過去と現代が入り乱れている表現を、映画という100年続いている文法の非常にシンプルなものを使って描いているという自負があります。
例えばヒッチコックが『裏窓』という映画で、ジェイムス・スチュアートが外を見ているというショットを撮って、別の風景や対象物を撮って繋げています。これで“見ている”という表現になりますよね。そういう表現の積み重ねで走って行く電車の中で色々な時代が交錯させています。

——それを伺って思い出したんですが、以前撮られた『デスノート』のパンフレットで、“大人としての回答を提示すべきという思いでこういった展開にした”と金子監督が書かれていたことが強く印象に残っています。
現在は漫画原作など保険付きの映画が大変多くて、金子監督ご自身も沢山原作付きの作品をお撮りになっています。その度ごとに“大人としての回答”を盛り込んで来られたことがただメディアを移行するだけでなく、原作物を映画にする意味となっていたと思います。
今回大人が観る映画『百年の時』で提示されたのは、オリジナル作品における“大人としての回答”という面もあるんでしょうか。

金子:きちんとした娯楽映画もやりつつ映画表現も進めて行きたいというのがありますね。大人が観る映画も文化として残していかないといけないと思っています。
映画というのはいろんな役割がありますが、この『百年の時計』はそういう役割を持った映画だと思います。
この次に公開される『生贄のジレンマ』は生き残るためにクラスメイトを生贄として差し出す選択を迫られる高校生の物語で、真逆の作品ですけどね(笑)。ただ僕のなかでは『悪の経典』と『桐島、部活やめるってよ』に対するアンサーというのもあります。子供の持ってる漠然とした不安感。社会にやらされてる感。自分の力ではどうにもならないジレンマが根っこにある作品です。
『デスノート』の時もそうでしたが、監督にとって映画制作って、問題に対する回答を解いてるように感じますね。

——『百年の時』ではどんな問題が出されたんでしょうか?

金子:優れた脚本だけど、この映画のクライマックスになるインスタレーションをどう解釈してどう映像化するかという回答が難しかったですね。インスタレーションという言葉を僕もよく知らなかったんですが、展示物と空間の変化も交えた演出、それを体験した時の心の動きも含めたアートと理解しました。今は理論立てて話しているけど、脚本を読んだ時は、具体的な記述があるわけじゃなくて、訳のわからない感じで書いてあったから(笑)。脚本の港くんは「金子さんなら大丈夫。これ撮れますよ」って簡単に言ってくれました(笑)。
それをどう表現したかが映画の見所になっていますが、観客が映画館に行って観ることで完成する映画になったと思っています。

——金子監督が今回どんな回答を出されたかは、劇場に行ってのお楽しみということなんですね!

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★金子修介監督ワークショップ開催!
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金子監督を「校長」に、未来の出演者を見つけようという趣旨で監督仲間が集まり不定期で開催中。

●A日程 6/27〜6/30
6/27金子修介 6/28古厩智之 6/29篠原哲雄 6/30細野辰興
●B日程 7/4〜7/7
7/4大森辰嗣 7/5深作健太 7/6現在交渉中 7/7三島有紀子

『百年の時計』にもワークショップ参加者が多数出演中とのこと。
情報は金子監督のブログで随時更新されます。

執筆者

デューイ松田

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■『百年の時計』公式サイト
■金子修介監督ブログ
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