京都を拠点に『堀川中立売』(柴田剛監督)、『天使突抜六丁目』(山田雅史監督)といった京都連続作品シリーズなどの制作や配給を手掛けるシマフィルム株式会社と、東京を拠点に映画人の育成を手掛ける株式会社映画24区が、京都木屋町の元・立誠小学校を舞台に『シネマカレッジ京都』『立誠・シネマ・プロジェクト』を立ち上げる。

京都市との共同主催事業で、地域に根差した本格的な映画学校を目指す。初年度は「演技・俳優」「企画・脚本」「配給・宣伝」の3つのクラスを設置し、5月より順次開講を予定している。

講師には、中島貞夫監督(『狂った野獣』『日本の首領』、京都映画祭総合プロデューサー)や地元京都(立誠小学校)出身で新人俳優の育成に定評のある谷口正晃監督、関西在住の安田真奈監督(『幸福(しあわせ)のスイッチ』)、京都シネマ支配人の横地由起子氏、映画評論・宣伝の田辺ユウキ氏など関西ならではの顔ぶれに、次々に注目作の配給・宣伝を手掛けるSPOTTED PRODUCTIONS代表の直井卓俊氏も参加。

同時にスタートするのは『立誠・シネマ・プロジェクト』。元・立誠小学校内に映画上映用の“シアター”を設営するというもの。
オープニングは4月27日、谷口正晃監督特集として『時をかける少女』(主演・仲里依紗)、『乱反射』(主演・桐谷美玲)の上映と、シマフィルム最新作『太秦ヤコペッティ』(宮本杜郎監督)の全国先行封切を予定している。

地方発信の映画人育成プロジェクトについて、シマフィルムの田中誠一氏にお話を伺った。













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【シネマカレッジ京都について】
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——『シネマカレッジ京都』は、昨年度に元・立誠小学校を会場にしてシマフィルムと映画24区が共同で開催した映画人育成のワークショップ「映画24 区KYOTO」が元になっているようですが、この展開は元々予定されていたんでしょうか?

田中:ものすごく緻密に計画していたわけではないですが、意識はしていました。

——昨年の成果はいかがでしたか?

田中:思ったより反響があって応募も多かったです。俳優ワークショップは延べ人数で120人くらい。全3回だったところを1回追加で開催しました。去年はあくまで単発だったので、次は通って積み重ねてもらう形にしていこうというプランが必然的に出てきました。

——京都で開校する意義をお聞かせください。

田中:旧くからある文化、慣習は他にはないものですし、地域のシステムも昔から続いているものの延長線上にあり、常に更新され続けています。その、京都という場の特色を活かしたいとずっと思っていました。

大阪ではCO2(シネ・アスト・オーガニゼーション)や大阪アジアン映画祭といった地域的な動きがありますが、大阪と京都は近いようでも、人の行き来はありますが、そうした文化的な場を共有しているというわけではありません。テリトリーが違うというか。

京都の大学で映画や映像の専門学科・学部ができて7〜8年くらい、映画や映像を学んでいる学生がかれこれ三千人くらい排出されている訳です。京都は街とリンクする位置にも大学があって、自転車で京都市内どこでも行けるのも強みです。そんなポテンシャルがありながら、そういったことを上手く活かして京都そのものを活性化していく流れになかなかできていかなかったように思います。

映画製作には色々な段階があります。「学ぶ」「作る」「観る」が元・立誠小学校を起点として集まるイメージを今回打ち出そうとしています。外から見てもイメージしやすい、目に見える形になることが京都の映画文化の活性化に繋がると思うんです。

——昨年のワークショップにはどういう方が集まりましたか。

田中:年齢も地域も幅広かったですね。京都や関西だけでなく関東や他の地方からも集まりました。年齢や経験など特に限定してないところがこのプロジェクトのいいところです。色々なところから色々な立場の人が集まる。自分と違う立場の人が来ている事を意識していくことが参加者にとっても刺激になりますし、今回も様々な所から色々な方が集まればいいと思っています。

——京都の各大学や劇場、博物館などとの連携を予定されているそうですが、具体的な予定はありますか。

田中:具体的にはこれからですね。たとえば今回のシネマカレッジ京都の配給・宣伝クラスでは、配給、宣伝、劇場に携わっている現役の方々に講師として来ていただきますし、プロジェクトの中ですでに各所の皆さんにご参加いただいている状態ですので、その関係性を発展していくように考えています。

——シネマカレッジ京都で独自に映画製作の企画を立ち上げたり、参加された方々の卒業後のフォロー体制はありますか。

田中:シネマカレッジ京都は、基本的には参加者の皆さんが、自分がどんな可能性を持っていて、どう磨いていくのがいいのかを分かっていくためのプロセスの場というイメージです。カレッジに通いながら、周りとの距離感を感じつつ、自分が持っているものを磨いて行く。ぐんぐん伸びる人、そうでない人の差は出てくると思います。我々も常に目は配っています。

フォローアップの体制については、京都のシマフィルムと東京や東北で展開している映画24区が共同でこのカレッジを運営しますので、映画業界の情報をその都度カレッジの参加者に流していったりも積極的にやっていきますし、シマフィルムも映画24区も、それぞれ映画製作プロジェクトがありますので、カレッジで印象がある人をどんどんピックアップしようと思っています。カレッジだけで完結させて解散してしまうのではなく、常に現在の様々な状況にコネクトしていってもらえるようにと考えています。

——受身でなく、自分でどれだけ動けるかというのは重要ですから、そこに期待される訳ですね。

田中:シマフィルムと映画24区だけでなく、他の制作の情報も集めてあらゆるチャンスの情報が集まる場にするつもりです。皆さんが活躍できる「器(うつわ)」をつくったり、活躍の場へとつながる「パイプ」役になります!

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【立誠・シネマ・プロジェクトについて】
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——では次に『立誠・シネマ・プロジェクト』通称“シアター”について伺います。
今回のプロジェクトは、元・立誠小学校(京都木屋町)を舞台にしていて、「日本映画原点の地」として知られる場所ですが、人が集まる場にするためにどういった仕掛けを考えていますか?

田中:シアターとカレッジが同時に元・立誠小学校に併存していること自体がその仕掛けです。映画だけでなく普段から様々なイベントが行われている場なので、映画関係者だけでなく、地元地域の方々をはじめ、演劇、音楽、アート等さまざまな分野の方々の行き来も常時あります。
シネマカレッジに通っている、シアターに映画を観にくる、単にそれだけでなく、その場所に出向くことで色々な人や物との接点になる可能性を大きくはらんでいます。

——“シアター”は普通の映画館のように日常的に上映するのではなく、単発の企画ごとに上映していくようなものですか。規模はどんなものですか。

田中:完全に常設の映画館を新築するというのではないですが、この校舎の空間を活かして、既存の映画館とはまた違う、映画体験のスペースをつくって継続していくということです。あくまで“特設”なので、スペースとしては既存の映画館とは違うところがたくさんあると思いますが、お越しいただく皆さんにはその特色自体を楽しんでいただけるようにと願っています。他の催しなどの校舎使用との兼ね合いで、休映するときは休映しますが、それ以外は継続して様々な上映企画を番組編成して上映していきます。席数は50です。

4月27日からのオープン企画としては、地元の「日本映画原点の地・立誠」主催で、立誠小学校出身の谷口正晃監督の特集上映を開催するのと、シマフィルム最新作『太秦ヤコペッティ』ロードショーがあります。『太秦ヤコペッティ』コラボ企画として「学生残酷映画祭 in 京都」をやったり。

それ以降近日の上映企画としては、京都出身の小林達夫監督が渡辺あやさんの脚本を得て京都を舞台に自主制作した『カントリーガール』や、東京でも多くの観客を集めたファスビンダー監督の超大作「ベルリン・アレクサンダー広場」や、映画と音楽の祭典「MOOSIC LAB 2013」などを予定しています。
このように、地元地域、学生さん、京都にゆかりのある作り手との連携もしますし、映画界の最新の状況とも兵装していきます。

——地元の反応はいかがですか。

田中:地元地域としても、元・立誠小学校が日本映画原点の地ということで活動もされているし、新京極、河原町と、元々映画館がたくさん集まっていた繁華街なので、この地域自体が「映画を観る映画の街」という意識が地元の方々にとっては根強いです。皆さん「映画」を大事に考えてらっしゃいます。今回のシアター運営も、地元地域との連携・協力体制をとって継続していきます。

——地域とのつながりの強さは他所にはない強みとなりそうですね。最後に一言お願いします。

田中:2013年は映画の転換期です。ミニシアター、単館系の映画館(特に地方の)は、これまでとは異なる在り方を打ち出さねばならないタイミングになっています。今まであったものがなくなって、風景が変わる決定的な年と言えるでしょう。今回我々が小学校校舎という空間で「シネマカレッジ京都」「立誠・シネマ・プロジェクト」を立ち上げることは、この先「映画」がどういう位置でこの社会に存在しうるのかを占っていくための装置でもあると思っています。我々はこんな形で転換期以降の映画の在り方の模索をアプローチしますので、少しでも多くの人に関心を払って頂きたいし、参加していただきたいと考えています。

——元・立誠小学校に映画を媒介として人が集まることは、簡単に映画がパソコンに配信される今、どうやって映画館に足を運んでもらうかにもつながるヒントがありそうですね。

田中:そこに行きたいと思ってもらえるか。その場所で共に体験することで、記憶の中でどれだけ大きいものになるのか。そういう“体験”という部分が大きな要素になると思っています。今は外に出なくても家に居ながらにして色々なものが観られますから、その場所にいく行為自体がプライオリティを持ってくることが重要だと思います。

——元・立誠小学校は、京都最大の繁華街の河原町にありながら木屋町通に入るだけで、落ち着いた町並みが広がっているという絶妙な位置にあります。歴史を感じる小学校の佇まい、校舎の前には高瀬川があって春の桜も魅力的。地元の方々が気軽に訪れている様子といい、一回行くとまた行きたくなりますね。

田中:あの場所を歩くだけでもその日一日何か得た気分になると思いますよ。

——シネマカレッジやシアターで人との出会いや繋がりができると、より魅力的な場所になるでしょうね。今後の展開に期待しています。

執筆者

デューイ松田

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