ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2013は俳優・仁科貴さんの出演作品が8本あった。その中で仁科さん主演の『大阪蛇道-Snake of Violence-』(石原貴洋監督)と『パンチメン』(田中健詞監督)についてのインタビューを2回に渡って掲載したい。

第1回は『大阪蛇道-Snake of Violence-』。
2012年に『大阪外道 / OSAKA VIOLENCE』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門グランプリを受賞した石原貴洋監督が、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭×スカパーの制作支援第4弾作品として撮り上げた作品だ。

悪ガキ3人組として子供時代を一緒に過ごした男女の25年後。カナコ(田畑智子)は主婦、アツシ(仁科貴)は無能ヤクザ、ケンジ(坂口拓)は最強無敵の有能ヤクザになっていた。凶悪犯を仕留める重大任務を命じられるアツシ。一方ケンジは関西ヤクザVS関東ヤクザの抗争の和解金2億円を得るため、政治家惨殺という奇策に打って出る!!

俳優でない人々を起用しての臨場感溢れる演出に定評がある石原監督が、日本が世界に誇るアクション俳優坂口拓さん、実力派俳優の仁科貴さん・田畑智子さんを主演に迎え、石原作品の転換点と言える作品となった。仁科さんは3人の子持ちの無能ヤクザの悲哀をユーモラスに演じている。

現在公開待機中の『大阪蛇道-Snake of Violence-』だが、坂口拓さん突然の引退宣言によって、ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の『坂口拓 引退興行 〜男の花道 最後の愛〜』(4/6〜4/12)にて、4/9(火)21時より1日限りの特別上映を予定している。











——今年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭での仁科さん出演作は?

仁科:石原貴洋監督の『大阪蛇道』、田中健詞監督『パンチメン』、他にショートフィルムや声だけ参加させていただいた作品も含めると…本当にたまたまで、恥ずかしかったりするんですけど公式上映で7本ありまして(笑)

——一挙にそれだけのものが上映されるのは中々ない機会でしたね。

仁科:山口雄大監督が「出過ぎなんですよ!」って冷やかすんですよ。でも「いやいや3本は雄大さんの作品ですからね」って(笑) 中でも『The ABCs of Death 』のオムニバスの1本 “J is for Jidai-geki” は雄大監督と距離感がグッと縮まった時期にいただいたお話で、僕もとても気に入ってます。(他に『TEBANA SANKICHI:Re-mix Ver.』、『アブダクティ』※声の出演)
あと、竹葉リサ監督のショートフィルム『さすらいのエイリアン〜私立探偵ロビン〜』、そして北海道の剣淵を舞台にした大地康雄さん企画主演、山田大樹監督の『じんじん』です。

——もう1本シークレット上映があったそうですね。

仁科:そうなんです。西村喜廣監督がテキサスのラーメン屋さんの依頼で制作された“ラーメンの食べ方普及プロモーション映像”。元々トロマ社のスタッフで、西村映造さんにNYで見出されたホヤホヤの新鋭・津野励木(つの れいき)さんが監督して『復活!西造シアター』でこっそり上映されました。ご覧になりたい方は是非!テキサスのファンタスティック・フェストへ(笑)

——ゆうばりファンタの出会いで出演作が増えるのは素敵なことですね。それでは主演された『大阪蛇道』についてお伺いします。まず石原監督との出会いについて伺いたいんですけど、作品を始めてご覧になったのはゆうばりファンタですか?

仁科:去年(2012年)は、当日までゆうばりファンタに参加するかどうか迷っていたんです…。でも、行けば何かあるかもしれないと思い切って飛行機に飛び乗りました。色々観て回っていたら石原さんの『大阪外道』が話題になってまして。僕は関西出身だし題名にひかれて拝見しました。『大阪外道』の魅力は、その土地に根付いている人にしか撮れない土着感、映画全体のむき出しの空気感というか。子供達のシーンも衝撃的に素晴らしかったですし。

——鮮烈な印象を受けられたんですね。

仁科:役者って現場経験をするほどに色々なものを身につけて、同時に色々なものを失っていくと思うんです。冒頭のおじさんなんか最高だったじゃないですか。石原さんに「あの方誰なんです?」って聞いたら「大家です」って(笑) 。未経験の人間を演出してプロがどんなに頑張っても到達できない領域に持ってっちゃう。

——その後どうやって出演が決まったんでしょうか。

仁科:石原さんに「僕みたいな経験を積んで余計なものを培った者が出ると、きっと邪魔になるんでしょうね?」って聞いたら、「そういう方ともどんどんやりたいんです」と仰って。その後すぐに正式にお話をいただいたんですけど、僕は普段脇役が多いので、クランクインまでこんないい役やらせてもらえるなんて信じてませんでした。(坂口)拓さんと雄大さんに電話して真面目に相談しましたもん。そしたらお二人とも「それは監督が決める事ですからね」って。

——現場に入って石原さんの演出はいかがでしたか。

仁科:本人も日頃から仰ってるように、全部ガチガチに固めたがらない監督さんで、行き着くところが誰にも読めない感じがスリリングで面白かったです。僕らなんかにも意見を求めて柔軟に受け入れてくれるし、もちろん譲らない部分はあるんですけど、それ以外はどんどん意見を交換したり、アドリブを入れながら作っていくのが前提の人。脚本にも書いてありました。“アイデア大募集”とか(笑)

——仁科さんのアドリブはどの辺ですか?

仁科:彫さん(初代 彫政統さん。『大阪外道』の“非道”役)が刺青を彫るシーンは、全部アドリブです。“ここからアドリブ合戦開始!”って…そんな脚本初めて見ました(笑) 。食卓で子供達にちょっかい出して田畑智子さんにどつかれるシーンは、リハーサルで出た監督のアイデアです。ちなみに、田畑さんはテストから絶妙にバッチバチしばいてくれるんですよ(笑) 僕の勝手なアドリブにも、全くひるまずに応答してくださって、申し訳ない反面、やっぱり凄い人やなぁと思いました。ご一緒させていただけて本当に感謝してます。

——やよい軒のチラシを見ながら長女役の大西美里ちゃん(『大阪外道』で主人公”外道”の娘役)と話すシーンも面白かったです。

仁科:装飾のチラシをネタに、テストで即興をやってみたら監督がウケてくださって採用になりました。僕ら家族の住まいは、元は何にもないアパートの一室なんですけど、細かいところまで美術が作り込んであって部屋自体が演じ始めてるみたいでした。

——そうだったんですね!誰かの部屋を借りての撮影かと思ってました。石原組に参加されての感想はいかがでしたでしょう。

仁科:僕は日頃から悶々と悩んでしまうタイプで、石原さんと出会った頃は特にネガティブだったかなと思います。でも、そんなタイミングだったからこそ、自分の経験を丸ごと捧げちまおう!という気持ちで挑みました。どんな仕事でもそうですけど、もし僕に少しでも面白い瞬間があったとしたら、監督の期待に応えたいと思う必死さが生み出した偶然の結果かもしれませんね(笑)

——最後に『大阪蛇道』の見所をお願いします。そして観客の皆さんに一言。

仁科:この作品は『大阪外道』チームと、東京の俳優達がゆうばりで出会い、林海象監督がプロデュースされたという奇跡のコラボレーション映画です。坂口拓さんが剛腕で殺伐とした無機質な有能ヤクザを演じ、アクション映画としても全く新しい世界観を生み出していて、僕はボンクラの無能ヤクザを。山中アラタくんが拓さんの片腕を好演してます。
ちなみに、僕もアラタくんもほぼアドリブで演じたかの様な印象…あくまでも印象ですよ(笑) 。そのライブ感は観てくださる方々に伝わると思います。
“低温”役の李勝利くんなど、石原組新キャラクター達、『外道』に引き続き今村左悶さんの音楽にもご注目を。そして『パンチメン』でも共演させていただいた憧れの”外道”さん!大宮将司さんも重要な役処でご出演なさってます。

$blue ——大宮さんのお話が出たところで、もう1つの主演作『パンチメン』のお話はこの後お伺いしますね。

執筆者

デューイ松田

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