2005年に大阪市が立ち上げた映画作家の人材発掘と制作支援をするCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)。企画を募集し、その企画と過去の作品を元に審査、面談を経て3人の監督/シネアストを選考し、映画制作をスタートさせる。助成作品は昨年から大阪アジアン映画祭の1部門、インディ・フォーラム部門としてプレミア上映されることになり、幅広い観客層を得られるようになった。

第9回となる今期も含めると今まで助成したきた監督は40人。CO2を期に活躍する助成監督も多く、『天使突抜六丁目』『ひとりかくれんぼ』シリーズの山田雅史監督(第1回)、『オチキ』『ソーローなんてくだらない』吉田浩太監督(第2回)、『ハラがコレなんで』『川の底からこんにちは』石井裕也監督(第3回)、『ウルトラミラクルストーリー』の横浜聡子監督(第3回)、『Playback』三宅唱監督(第6回)、『大阪蛇道』石原貴洋監督(第6回)などが挙げられる。(※タイトルは全てCO2以降の作品)

第7回の助成作品大江崇允監督『適切な距離』は東京公開を経て、4月6日(土)〜4月12日(金)の日程で第七藝術劇場にて公開予定。今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』は、第62回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門(ドイツ)にて子供審査員特別賞受賞。昨年『新世界の夜明け』を劇場公開したリム・カーワイ監督は第8回大阪アジアン映画祭のコンペ部門に新作『Fly Me to Minami〜恋するミナミ』が選出されている。
また、第8回の梅澤和寛監督『治療休暇』、安川有果監督『Dressing UP』、常本琢招監督『蒼白者』の3作品も公開待機中となっている。
 
大阪市が文化事業を見直したことでCO2の今期のプロジェクトは2012年8月より始動。例年より3ヶ月も遅いスタートとなったが、映画祭が3月のため作品完成の期限は変わらず1月。各組は、4ヶ月という短期間で企画・脚本・ロケハン・撮影・編集の全工程に取り組むことになる。当初から厳しい条件になった今期は、短期間の勝負に挑むことができる“不屈の挑戦者”を募集した。

選ばれたのは、いじめの加害者・被害者としての過去を持つ幼なじみの男女3人の運命を描く『GET BACK NIGHT』山田剛志監督。隣町である「クローン人間の町」への潜入を試みる中学生たちの日常を描く『壁の中の子供達』野口雄也監督。父子心中未遂事件の現場に出現した正体不明の丸を巡る不条理劇『丸』鈴木洋平監督の3名。3月12日から始まる大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門上映を前に各助成監督の現状を取材した。







『GET BACK NIGHT』
事故で足に障害を負った美香は、幼なじみの茂との結婚を目前に控えていた。しかし、夢遊病の美香は車椅子を降り深夜の街をさまよう。そのことは茂には話していなかったが、ある日、美香の元に彼女の深夜の姿を写した写真が送られてくる。これは共通の幼なじみである正治の仕業だと確信する美香。一方、茂は自分の秘密をも暴こうとする正治に会うが……。
過去を持つ3人の運命が動き始めるフィルムノワール。

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バイオレンスな描写の中に人間のピュアな部分を見出してもらいたい
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——CO2に参加していかがでしたか。

山田:僕は東京の人間なので、大阪で映画を撮ること自体が1つのチャレンジでした。東京で作っていたら全く違う映画になっていたと思います。ドメスティックでやりやすく出来たでしょうけど、閉じたスタイル…僕の母校である映画美学校のカラーに染まっていたかも。大阪で撮ることで色々な人の意見が入って開かれた映画になったと思います。

——苦労したのはどんなところでしたか。

山田:たくさんありますが、準備期間が短すぎたということですね。シナリオで選んで頂いて撮ることになったんですが、そこからリライトに入ったんですね。分量が多くてこの準備期間では撮れない、予算の兼ね合いということで。僕としては提出したものが1つの完成形だったので、空間のつながり、感情のつながりなど予め書き込んでいたので戸惑いました。リライトと同時にロケハンしながらとなったため大胆なリライトも出来ません。結局11月中旬にシナリオが完成予定でしたが、12月頭にずれ込みました。撮影は12月16日からと決まっていたので大変でした。

——ロケはどういった形でされましたか。

山田:ほぼ大阪で一部東京です。全シーン理想を追求できる訳ではないので、自分の中で取捨選択しながら大事なところは妥協せずに、それ以外のところはサクサクと決めて行きました。

——東京と大阪のスタッフはそれぞれいかがでしたか。

山田:東京から参加して頂いた照明は美学校の先輩で星野洋行さん。一緒にやったことはないけど、ルックは把握していたのでお願いしました。カメラは12月10日に急遽、高橋航さんに決まりました。僕も経験が浅いので大変負担をかけてしまったと思います。
大阪のスタッフはプロデューサーの田中豪さん、ラインプロデューサーの岡田真樹さん、録音の宮井昇さんといった現場に精通している方たちで助けて頂きました。

——役者さんたちはいかがでしたか。

山田:元々役者さんには東京であたりをつけていて、この映画のキモだったので妥協せずに選びました。思っていた以上に映画を力強いものにしてくれましたね。主演の4人は僕と一緒であまり経験がなくて出演作も2、3本目の方が多かったんですが、とても新鮮な表情や身振りが撮れました。元々暗い話なんですけど、ピュアな部分が出てきて深みのある映画になったのは嬉しい誤算でした。

——それは拝見するのが楽しみですね。CO2に参加して得られたものはありましたか。

山田:たくさんありますが、準備が大事ということです。シナリオでサボったら現場で、現場でサボったら編集で、編集でサボったら上映で大変なことになるということ。準備段階で解決出来ることがたくさんあったのに、それが出来てなくて現場が止まってしまったりしました。苦しいことを先延ばしにするとみんな不幸になるって、頭では分かっていたけど初めて実感しました。次に映画を撮ることがあればもっと上手くできると思います。長編を撮れたことはとてもいい経験になりました。

——CO2の運営に関する要望はありますか。

山田:選考時にどういう条件や体制になるのかという話が結構曖昧でしたね。企画募集要項に記載はあったんですが、ロケは大阪をメインでということをきちんと理解しきれていませんでした。あと、「プロのスタッフ派遣」とも書いてあったけど、紹介はしてくれてもギャラ交渉はこちらがやるということだったり。これは特に事前に情報が欲しかったし、自分もしっかり準備しておけばよかったと思いました。最後の二次面談の時に資料はいただいたんですが、詳細を話してもらえると準備や心構えが全然変わってきますので。

——情報公開が分かりにくかったということなんですね。伝え方に関しては反映されるようになると思います。ありがとうございました。
それでは、3月12日から上映が始まりますが、何処を中心に見て欲しいですか。制作に入る前はフィルムノワールがキーワードとして上がっていましたが、ピュアな面が出てきたというお話でしたね。

山田:フィルムノワールは人間の暗い欲望を描くということを定義としていますが、暗い欲望に忠実になればなる程いびつなピュアさが出てくると思うんです。フリッツ・ラングの『真人間』という作品は、犯罪がらみで底辺のしがないチンピラを90分映像と音響のつらなり追うことで、人間の持つピュアな部分が表現されていると思います。僕の映画は登場人物と観客の距離を意識して作っています。あまりべったり感情移入できないように。そこは役者の力を信じているので共感は出来なくても肯定はできるように考えました。自分とは違う人間だけどそこに魅力を感じてもらったり、バイオレンスな描写の中に人間のピュアな部分を見出してもらえたら嬉しいです。

——インディ・フォーラム部門での上映が終わった後の展開は考えていますか。

山田:編集を手直しして音楽も付け直したいですね。3月上映バージョンは1つの完成形ですけど、映画祭でお客さんの反応を見て得られるものはたくさんあると思うので、次の展開に向けてもう少しブラッシュアップしたいです。

——チケット代を払って観に来るお客さまからはシビアな意見もあると思いますが、そこも含めて楽しんでくださいね。

山田:直接色々な方に話を伺って、映画を大きくしていきたいですね。

執筆者

デューイ松田

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『GET BACK NIGHT』予告編
第8回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門/公式サイト
CO2/公式サイト