独立映画の不屈の挑戦者インタビュー(3)第9回CO2助成作品、3月12日より大阪アジアン映画祭・インディ・フォーラム部門にて上映!映画『丸』鈴木洋平監督
2005年に大阪市が立ち上げた映画作家の人材発掘と制作支援をするCO2(シネアスト・オーガニゼーション大阪)。企画を募集し、その企画と過去の作品を元に審査、面談を経て3人の監督/シネアストを選考し、映画制作をスタートさせる。助成作品は昨年から大阪アジアン映画祭の1部門、インディ・フォーラム部門としてプレミア上映されることになり、幅広い観客層を得られるようになった。
第9回となる今期も含めると今まで助成したきた監督は40人。CO2を期に活躍する助成監督も多く、『天使突抜六丁目』『ひとりかくれんぼ』シリーズの山田雅史監督(第1回)、『オチキ』『ソーローなんてくだらない』吉田浩太監督(第2回)、『ハラがコレなんで』『川の底からこんにちは』石井裕也監督(第3回)、『ウルトラミラクルストーリー』の横浜聡子監督(第3回)、『Playback』三宅唱監督(第6回)、『大阪蛇道』石原貴洋監督(第6回)などが挙げられる。(※タイトルは全てCO2以降の作品)
第7回の助成作品大江崇允監督『適切な距離』は東京公開を経て、4月6日(土)〜4月12日(金)の日程で第七藝術劇場にて公開予定。今泉かおり監督『聴こえてる、ふりをしただけ』は、第62回ベルリン国際映画祭 ジェネレーション部門(ドイツ)にて子供審査員特別賞受賞。昨年『新世界の夜明け』を劇場公開したリム・カーワイ監督は第8回大阪アジアン映画祭のコンペ部門に新作『Fly Me to Minami〜恋するミナミ』が選出されている。
また、第8回の梅澤和寛監督『治療休暇』、安川有果監督『Dressing UP』、常本琢招監督『蒼白者』の3作品も公開待機中となっている。
大阪市が文化事業を見直したことでCO2の今期のプロジェクトは2012年8月より始動。例年より3ヶ月も遅いスタートとなったが、映画祭が3月のため作品完成の期限は変わらず1月。各組は、4ヶ月という短期間で企画・脚本・ロケハン・撮影・編集の全工程に取り組むことになる。当初から厳しい条件になった今期は、短期間の勝負に挑むことができる“不屈の挑戦者”を募集した。
選ばれたのは、いじめの加害者・被害者としての過去を持つ幼なじみの男女3人の運命を描く『GET BACK NIGHT』山田剛志監督。隣町である「クローン人間の町」への潜入を試みる中学生たちの日常を描く『壁の中の子供達』野口雄也監督。父子心中未遂事件の現場に出現した正体不明の丸を巡る不条理劇『丸』鈴木洋平監督の3名。3月12日から始まる大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門上映を前に各助成監督の現状を取材した。
『丸』
大阪のある一軒家で父子心中未遂事件が発生。心中を図った父親は銃で自殺。容疑者死亡により裁判なしの有罪となる。生き残った家族は何も語らず、現場にいた次男は事件のことを思い出そうとすると突発的に時間が止まったかのように静止してしまうのだった……。
現場で何を目撃したのか? 本当に心中未遂事件だったのか? 記者・出口が調べるに従って、事件の真相は不条理な世界に突入していく。
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芝居に対する考え方が変わった
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——映画『丸』が完成したわけですが、制作体制はいかがでしたか。
鈴木:うまく整ってよかったです。キャストとしても出演している池田将さんは下北沢トリウッドで上映した『亀』や『ツチノコに合掌』の監督で、役者兼プロデューサーとして、今村左悶さんは音楽兼プロデューサー、上野修平さんはラインプロデューサーとしてバックアップしてくれました。スケジュ—ルや予算が不健全にならない最善の状態で回してもらえたと思います。本当にこれはスタッフのお陰。それがなかったら、と思うと想像するのも怖いですね。
メインは東京のスタッフになったんですが、今村さんや上野さんは大阪芸大出身なので、芸大の学生に手伝ってもらいました。大阪で知り合った中では、役者で出演してくれた李勝利さんの存在が大きかったですね。脚本の段階から一緒に内容を考えてくれました。ロケ場所を無料で提供してくれたのがNDSの佐藤零郎(レオ)さん。事務所が一軒家で、ロケ場所兼住み込みで使わせてもらいました。
——企画段階と変わった点はありましたか。
鈴木:規模の大きい話だったので、CO2ワークショップ生の小山侑子さんに入ってもらって、ほぼ一軒家の話になりました。共同作業であるシーンを書いた時に進むべき方向が定まりました。今までは独りで書いて人に読んでもらうってやり方でしたが、共同脚本にすると映画のためにいいんだなぁと実感しました。
——他人を入れるのは嫌というこだわりのある人もいると思いますが、鈴木さんはその辺は鷹揚に構えているんですね。
鈴木:今までに完成して撮影してない脚本が5・6本ありますが、シナリオの形態を無視して書いていました。小山さんはその辺真面目に勉強していて、物語を構造的に分析して、このシーンは誰が軸かといったことを精査してくれました。それが上手くはまった感じですね。
——撮影は順調に進みましたか。
鈴木:シナリオが出来たのが撮影10日前。12月23日から撮影に入って、7日間の予定が順調に進んで1日早く終わりました。リハーサルは前日にやって李勝利さんや母親役でCO2インターン生の軽部日登美さんたちとキャラクターのことを話してシナリオに生かしました。あと、止まっている男をどう主人公に見せるか、スタッフと話し合いで撮影時に変えていったところもあり、結果的に良かったと思います。
主演の飯田芳さんは本当に良かったですね。佇まいがいい。刑事役の松浦祐也さんは脇の役ですが、映画の中で一番前に出ていて変な役が似合う役者です。
——編集はいかがでしたか。
鈴木:編集に当たっては一旦シナリオのことは忘れようとしたんですが、そうではなく地続きのものなのでシナリオに書いてあること緒が一番正しいと気付いて。シナリオに遡っての構成となりました。
——出来上がってみて客観的にどう思われましたか。
鈴木:思ったより家族が家族に見えましたね。家族ってそれぞれの家で変なルールがあったり面白かったり異様だったりしますよね。そんなところが家族としてリアルに受け入れられる瞬間がありました。
——それは役者さんの力ですか。
鈴木:そうですね。今まで映画ってまず「状況」を整えてその後「人物」が来る、そんな風に考えていたんです。今回思っていたより芝居ってデリケートなもので、作りものであることをもっと積極的に引き受けることも楽しそうだなと思いました。この話の取っ掛かりが「静止」——止まるという状況があり、その状況に陥った人たちを描いていますが、思っていた以上に「人物」そのものも面白いなと思いました。
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地元の協力を得て映画を撮るやり方
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——今後の鈴木さんの作品にも影響がありそうですね。それでは予算に関してはいかがでしたか。
鈴木:当初から、お金を出せる人には出して、そうでない人には別のもの、学生であれば技術を教える、何か身になるものを与えたい。上野くんを始めスタッフは共通でそんな思いを持っていました。難しいことではありますが。結局破産するほどお金がなくなることもなく、助成金+アルファと後は寄付金で賄うことが出来ました。
——制作に入る前から地元の企業や地縁で寄付を募るとおっしゃってましたが、予定通り集まりましたか。
鈴木:これからも上映があるので活動は続けていきますが、それなりに集まりました。ギャラも出さない、食事も出さないではなく、本当に最低限のことに対応したいと考えてこういうやり方にしました。同郷で応援委員会を立ち上げてくれた人がいて、色々な人に声を掛けてくれたのも大きかったですね。
——寄付を広く募るクラウドファンディングは考えなかったんでしょうか。
鈴木:手広くやってしまうと自分のキャパを越えてしまうので、身の丈に合った自分の目の届く範囲だけでやろうと最初から決めていました。安いお金でこれだけ出来たと得意になることはしたくないです。あくまで色々な人の苦労があってのことなので。寄付や助成金だけに頼って1回に賭けて破滅的になるとダメだと思うし、どう続けられるかが一番大切です。CO2を経験したことで、費用と出来ることの目安が分かったので、新しいチームで次に行くのも新たな目標です。
——『丸』の上映のご予定は。
鈴木:具体的な目標を立てている状況です。地元の文化事業に携わっている協力的な人たちに相談して、どういう規模でやるのか話しているところです。地元はもう映画館もないので。地元で映画を撮りたいという目標もあるので、そのきっかけにもしたいですね。
——CO2の運営に関してご意見はありますか。
鈴木:単純にもう少し準備期間があればとも思いますが、長くなると緊張感がなくなるのであまりよくないですね。協力や支援はCO2だけではなく自分の力でいろいろなところから引っ張って来られるものなので、助成金を出してもらえることで割り切っています。あとはCO2に出入りして、そこで知り合った人たちと一緒に何か作って行く状況をどう作っていくかではないかと思います。
——最後になりましたがCO2に参加しての感想をお願いします。
鈴木:この後も間髪入れず映画を撮りたいですね。何かやりたいって話は常にしています。初めての長編でしたし今回学んだことは大きかったですね。これから上映活動が始まる訳ですが、どんな道のりになるかも楽しみです。『丸』という映画では僕なりの答えが出せたと思うんです。それは名状しがたいものです。その名状しがたいものを持って僕は映画に対峙してるんだという覚悟を表明できたんじゃないかと。もうここからは逃げられないぞ、という。とにかく頑張りたいです。
執筆者
デューイ松田