『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』 ダニエル・ラドクリフ電話インタビュー
『ハリー・ポッター』シリーズのダニエル・ラドクリフが新たなキャリアの出発点に選んだ戦慄のゴシック・ホラー
映画史上特筆すべき熱狂を呼び起こした『ハリー・ポッター』シリーズの主演を務め、若くして世界的なスーパーアイドルとなったダニエル・ラドクリフ。2011年の完結編『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』で大役をやり遂げた彼が、その次に挑むべき作品として数ある企画の中から自ら選び取ったのが、このブリティッシュ・ゴシック・ホラー『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』である。
主演のダニエル・ラドクリフにインタビューしました。
$red Q: ハリ—・ポッターシリーズを卒業して心境に変化はありましたか? $
それはすごく感じているね。そもそも大抵の人にとって、18〜25歳くらいって言うのは人間的な成長も含め、大きな過渡期になる年頃だと思うんだ。僕にとってもここ数年はまさに変化の時、といった感じだったよ。この1年の仕事を振り返ってみても、『ハリー・ポッター』シリーズの完結はもちろんのこと、ブロードウェイの「努力しないで出世する方法」で舞台ミュージカルに挑戦したのは、今後の役者としての方向性を示すと同時に、人々に今までとは違う側面を見せる機会になったという意味で、かなり大きなターニングポイントだったね。様々なタイプの作品を通してより多くの人々と仕事をすることで、自分の強みや得意なものが自然と分かって来るし、周りを信頼して思い切った挑戦が出来るような気がするんだ。役者としての自信も湧いてくるしね。
Q: 本作では妻を亡くし息子がいるという設定で、今までとはイメージががらりと変わったかと思います。特にこだわった部分はありますでしょうか?
この役柄を演じるにあたって一番気をつけたのは、やはり何と言っても父親と息子の関係をリアルに見せる、ってこと。キャラクターの信ぴょう性と言う点で、そこが要になってくるからね。アーサーと息子の親子愛がきちんと伝わらなければ、観客もキャラクターに共感して物語に感情移入することなど出来なくなってしまう。その点に関しては、実生活での名付け子が息子役に決まってラッキーだったよ。まったく見ず知らずの子役相手に、まるで本物の親子のような打ち解けた雰囲気を作り出すのはすごく難しいけれど、ミーシャ(ジョセフ役)のおかげで自然に演じることが出来たからね。 それからこの映画でもう1つ大変だったのは、一人芝居が多かったって言うこと。僕が一人きりで屋敷内をうろついているだけの、セリフもまったくないシーンが大部分を占めていたから、そこはかなり気を配ったよ。脚本を読みながら、演じ甲斐のあるすばらしいシーンだとワクワクしていたんだけど、脚本に描かれたスリルや緊張感を、そっくりそのままスクリーンに映し出せるか心配だったんだ。でも(監督の)ジェームズ・ワトキンスの見事な演出のおかげで、緊迫感あふれるすばらしいシークエンスに仕上がったし、とても満足しているよ。
Q: 原作は読みましたか?本作は英で舞台としても長い歴史と確かな実績がありますが、演じるにあたり、プレッシャーなどはありましたか?
原作はもちろん読んだよ。本国イギリスで23年間にもおよぶロングランを続けているのに加え、世界中で公演され多くの人々に愛されている舞台劇だから、それなりのプレッシャーは感じたね。洗練された内容の原作と言い、古典劇のような趣で高い評価を受ける舞台と言い、“英国が誇るレガシー”とでも呼ぶべき名作なわけだし、映画化にあたっては原作小説や舞台劇がもつそういったエレガントなクオリティを犠牲にしないよう心がけたよ。僕も監督も、“ハリウッドによる映画化”というだけの薄っぺらいものにはしたくないと思っていたし、特に監督は今時のありきたりなスラッシャーホラーのような作品ではなく、観客をドキドキハラハラさせるような、緊迫感あふれる古典的なサスペンス映画にすることにこだわっていた。結果的に、狙い通りの見事な作品に仕上がったと思っているよ。
Q: イギリス映画とハリウッド映画の違いを感じますか?
いわゆるハリウッド映画はほとんど経験したことがないから、何とも言えないな。『ハリー・ポッター』シリーズにしても、みんなハリウッド映画だと勘違いしているけれど、あれは撮影も含めて純英国産だからね!(笑) だから僕自身、ハリウッド大作に出ているというような実感はまるでなかったし、むしろ遠い存在に感じていたんだ。でも撮影の進め方やスタッフといった点では、あまり違いはないと思うよ。イギリス映画だろうが、ハリウッド映画だろうが、スタッフは皆すごく熱心かつ楽しみながら仕事をしているように見えるしね。ただ1つ客観的な視点で言えるのは、他の映画に比べてハリウッド映画はストーリーやキャラクターの設定などをやたら説明しがちだって言う点かな。観客が何も考えずに楽しめるように、ってことなんだろうけど、裏を返せば観客の知性を信用していないとも言えるし・・・。僕が気がついたのは、そのくらいかな。映画作りに関して違いはないけれど、作る映画のタイプが少し違うってことだね。
Q: 監督が日本のホラー映画の影響を受けたとお話しをしていましたが、ダニエルさん自身は日本のホラー映画に対してどの様な印象をお持ちですか?
僕は監督ほどホラー映画に精通していないんだけど、彼と脚本のジェーン・ゴールドマンは2人ともJホラーの大ファンで、撮影前に色々と教えてもらったよ。でも僕自身は日本のホラー映画を見たこともないし、実を言うとそもそも、ホラー映画は大の苦手なんだ。すごい怖がりだから、この映画にしても、自分が出ていなければ観に行かなかったかもしれないな(笑)
Q: 終始シリアスな作品ですが、撮影現場はどの様な雰囲気でしたか?
映画の内容とは裏腹に、すごく楽しい撮影現場だったよ。監督のジェームズと撮影監督のティム・モーリス=ジョーンズをはじめ、すばらしいスタッフが揃っていたし、その2人と共に現場の中心となる助監督が、『ハリー・ポッター』シリーズで一緒に仕事をしたことのある気心知れたドミニク・フィッシュだったから、リラックスして演じることが出来た。3カ月におよぶ長い撮影だったけれど、終始和やかなムードで本当に楽しかったよ。
Q: 撮影現場で実際に超常現象は起きましたか?また、超常現象は信じますか?
正直なところ、超常現象とかお化けとかって信じてないんだよ。だから残念ながら、そういった怪奇現象にも遭遇しなかった。もしそんなことの1つでもあれば、より緊迫したムードが出て、映画ももっと盛り上がったかもしれないのにね!(笑)
Q: 本作を通じて歴史あるハマーフィルムの看板を背負うことについていかがですか?
このレーベルならではのこだわりを感じた点があれば教えてください。
また過去のハマーフィルム作品でご覧になったもの、好きな作品はありますか?
さっきこの作品について言ったのと同じように、ハマーフィルムも英国が誇る伝統として、この国の映画産業に大きなインパクトを与えた老舗レーベルだし、その一部になれて心から誇りに思っているよ。ハマーが映画を作り始めた当時、初期の作品群が世界中で大ヒットしたおかげで「ホラー映画と言えばイギリス」といった評判が定着し、イギリスの映画界にそれまで欠けていた自信と誇り、名声をもたらす結果になったという点でも、とても偉大なレーベルだと思うし、その大切なレガシーを未来に受け継ぐ一旦を担えるのは、本当に光栄なこと。ちょっと愛国心に火がついたって感じもするしね(笑)
ハマーフィルムならではのこだわりという点に関して特に感じたことはなかったな。レーベルの冠のもと、誇りをもって作品に臨むという姿勢は全員に共通してあったものの、完成した映画そのものは、ホラー映画の鉄則を踏まえた独自の描き方も含めて、100%ジェームズのヴィジョンだからね。とは言え彼自身、ハマーホラーをたくさん観て影響を受けているのは確かだし、よそ者に冷たい目を向ける村人たちや、周囲から隔絶された場所にひっそりと佇むおどろおどろしい屋敷、といった“お決まり事”はハマーホラーならではと言えるかもしれないね。
それから、好きなハマーフィルム作品についてだけど、この映画のプロモーションで最初にこの質問をされた時、『ドラキュラ』って答えたら、「どのドラキュラですか?」って聞き返されたんだ。「え?1本だけじゃなかったの!?」なんて言って、笑われちゃったよ(笑)。だから定かじゃないんだけど、僕が言っているのは多分『吸血鬼ドラキュラ』(58)のことだと思う。それ以外には、『恐怖』(61)って映画がお気に入りだね。最近初めて観たんだけど、斬新で奇妙で意外性のある、最高にクールな映画なんだ!
Q: 今後、役者としてどのような役を演じていきたいですか。
具体的に“こういった役”と言ったものはないけれど、色々な役柄に挑戦して行きたいと思っているよ。今撮り始めた新作で演じるのも、頭から角が生えて来て、悪魔に変身する男という、かなりダークな今までにはなかった役柄だし、これからもそういった挑戦しがいのある、興味深いキャラクターを模索して行きたいね。
執筆者
Yasuhiro Togawa