唯一無二の石橋ワールドがさく裂!! 『ミロクローゼ』石橋義正監督インタビュー
神秘的な美女に恋をする子どものような外見の会社員、草食系男子の悩みを一刀両断する恋愛相談員、何者かにさらわれた恋人を探す片目の浪人。「ミロクローゼ(=太陽)」のタイトルが示すように彼らはみんな、自分だけの「愛の象徴」を持つ。一見、曖昧に結びついているだけの三者三様のラブストーリー。だが3人は同じ時空を生き、愛に惑い、溺れ、一人の愛する女になりふり構わず突き進む愚かな男だ。果たして男たちは「ミロクローゼ」をその手につかむことができるのか。
いまもっとも熱視線を注がれる俳優・山田孝之が扮するのは、愛に突き動かされる3人の男たち。『マグノリア』(99)のトム・クルーズを彷彿とさせる怪演で見せ切る恋愛相談員・熊谷ベッソン。現代劇、西部劇、時代劇をわたり歩く浪人・タモン。絵本のような世界に生きるチャーミングなキャラクター、オブレネリ ブレネリギャー。そのカラフルな演じ分けは、固定のイメージを持たない山田孝之の「真骨頂」と言えるだろう。その他、マイコ、奥田瑛二、石橋杏奈、岩佐真悠子、武藤敬司、原田美枝子といった個性派が顔を揃える。また『ツィゴイネルワイゼン』(80)で知られる名匠で、石橋監督に多大な影響を浴びせた鈴木清順監督が、伝説の刺青師をコミカルに演じているところも注目だ。
思想や概念を飛び越えた、型にまったくはまらない本作を手がけたのは石橋義正監督。インスタレーションや映像作品、あるいはメディアを駆使したパフォーマンスを国内外の美術館や劇場で発表し続けているほか、『狂わせたいの』(97)、テレビ番組『バミリオン・プレジャー・ナイト』(00)などを製作。なかでも『バミリオン・プレジャー・ナイト』のワンコンテンツであるショートドラマ『オー!マイキー』は、登場人物がすべてマネキンというシュールな構図とブラックな笑いが話題を呼び独立展開。02年には『オー!マイキー』の英語吹替え版「ザ・フーコンズ」がベルリン映画祭に出品、現在も国内のコマーシャル、海外のテレビ放映など、シリーズとして根強い人気を誇る。
コンテンポラリーでファッション性に優れた映像、リズミカルなカット割り、グルーヴィーなミュージック、異国情緒あふれる緻密な美術装置、ラストの絵巻を思わせる長回しなど、新たな映画の可能性を模索している石橋監督にインタビューを敢行した。
ーー「オー!マイキー」や『狂わせたいの』など、石橋監督の作風はユニークで、変わった作品が多いように思うのですが。
石橋:変わっているというよりは、これはやったらダメだろうというところをやるのが面白いんですよね。笑いは恐怖と表裏一体だったりしますから。たまにやりすぎて、クレームも来たりするんですが(笑)。
ーー映像、パフォーマンス、アートなど様々なジャンルを手掛けられていますが、石橋監督にとって映画という媒体はどのような位置づけになるんですか?
石橋:映画は昔から好きでした。小学生のときから映画監督になりたいと思っていたので自分のベースとなっているメディアですね。映画は、たくさんの人が集まって、大きなことをやるという夢があるじゃないですか。打ち上げ花火を飛ばすような華やかな感じは、なかなかほかのメディアではないことなので、昔から憧れがありました。
ーー石橋監督の映画はインパクトの強いシーンが多いですよね。
石橋:自分の作品を作る場合、物語やストーリーよりも、こういうシーンが作りたかった、こういう絵作りがしたかったというような頭に浮かんだものを最優先にして作っているんです。だから自分の作りたいものを素直に作っているという感じですね。
ーーそれはよく分かります。鈴木清順映画の影響があるのかなと思いながら映画を観ていたら、突如劇中に本物の清順監督が出てきて驚きました。清順監督の影響はあるんですか?
石橋:若いころに清順さんの映画を観て、大きなインパクトが受けました。ストーリーはほとんど覚えていないんですが、やはりビジュアルですね。視覚に焼き付いたものはおそらく一生ついてまわるものなんでしょうね。そういう作品作りをしたいなと思いますね。たとえばスタンリー・キューブリックやブライアン・デ・パルマの映画なども、ひとつのシーンに命をかけているなというのが分かります。
ーー石橋監督の作風は、「オー!マイキー」などの洋風のテイストがある一方で、花魁や芸者のような、日本的なものもよく登場します。本作ではそれが顕著だと思うのですが、和と洋、両方のバランスをとろう、という意識はあるんですか?
石橋:ただいろんなものに興味があって、それを具体化していくといろんなテイストになるということなんでしょうね。実家が京都なんで、日本画や京友禅など、和の伝統的な文化に触れる機会が多かったんです。その影響はあると思います。
ーーそれと今回は特に色っぽいシーンが多かったですね。
石橋:どの作品を作るときにもそうなんですが、色っぽさというものを大事にしたいんですよ。たとえば山田孝之という俳優は、男性ですけど色っぽいですよね。
ーー確かに。今回は、今までの作品以上に男性の色気という要素が出ていたように思います。
石橋:今回は女性よりも男性の色気を重要視しました。
ーー本作の上映時間は90分。よく映画は90分くらいがいいなんて言いますが、そのあたりは意識したんですか?
石橋:今回は偶然90分だったんですが、僕としては当初70分くらいでもいいなと思ってたんですよ。
ーー短い作品が好みなんですか?
石橋:性格なんでしょうね。いろいろ詰め込んで、短い尺にしたくなるんですよ。「オー!マイキー」なんか3分くらいで情報を詰め込んでますからね。
ーー削ることが苦痛な人もいると思いますが、それは苦にならないんですか?
石橋:人にカットされたら嫌ですけど、自分でカットするのは問題ないです。映画って、最初にシナリオを書いているときに頭に思い描いている100%が再現できているか、という挑戦になるわけですよね。もちろん100%やりきれたところはいいんですが、天候など現場の条件があまり良くなくて想像の100%に達していなことは必ずあります。映画ってどうしても条件がいろいろありますから、やりきれてなかった部分は出来ればカットしたいんです。でも後から(CGなどで)加工・調整できるような部分は、最大限に力を入れて、イメージに近づけていきます。
ーーだから石橋監督の映像はスピーディなんですね。それでは最後に本作の見どころを教えてください。
石橋:この映画は3D映画ではありませんが、視覚的な仕掛けを楽しめるようなアトラクション的な構成になっています。映画を鑑賞するというよりも、お祭りに行くような感覚で観に来てもらえたら嬉しいです。
執筆者
壬生智裕