ローマ国際映画祭2011に正式出品され、東京で劇場公開。その後、高崎映画祭・名古屋・大阪・広島と公開された伊月肇監督の『−×−(マイナス カケル マイナス)』が、京都シネマにて7/28〜8/10までの日程で公開される。

大阪の郊外。異国で戦争開戦の緊張感が高まるニュースが流れる中、無為に日常を過ごすタクシー運転手と両親の離婚以来ある思いを抱え続ける女子中学生。他者である喪失者たちがすれ違う瞬間、それぞれが向かう先は希望たり得るのか…?
主演は『鬼畜大宴会』(1998)、『空の穴』(2001)、『揮発性の女』(2004)(全て熊切和嘉監督)の澤田俊輔、アニメ『けいおん!!』の琴吹紬役で人気の寿美菜子、『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』(2009/大工原正樹監督)『恐怖』(2009/高橋洋監督)『行旅死亡人』(2009/井土紀州監督)の長宗我部陽子。

浅川周監督の『Blue Bird』は、若手クリエイターの育成と支援を行うCO2(シネアスト・オーガニゼーション・大阪エキシビション)の企画制作部門の第4回助成作品。主演に寿美菜子、大阪を中心に活動してきたミュージシャンの末田光里(2011年より活動休止中)を配し、謎のウイルスが蔓延する世界で、感染した少女と彼女へ思いを寄せる少年が世界を受け入れながら次第に大人へと成長する姿を詩情豊かに描いた作品。2008年、大阪と東京で行われたCO2上映展の後、大阪で劇場公開された。

今年4月13-16日、京都の元・立誠小学校を会場に行われたシマフィルム主催の上映イベント『SPRING FEVER 春の映画嵐』。“関西ゼロ年代×寿美菜子 3部作”という特集が組まれ、『GHOST OF YESTERDAY』(松野泉監督)、『−×−(マイナス カケル マイナス)』、『Blue Bird』が上映された。
その際に行った、関西ゼロ年代として注目され大阪芸術大学の同期でもある伊月監督と浅川監督のインタビューを一挙公開!















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■『−×−(マイナス カケル マイナス)』について
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——伊月監督の『−×−』は、寿美菜子さん演じる中学生・凜のエピソードと澤田俊輔さん演じるタクシー運転手・貴治のエピソードを柱としていますが、これはどういうところから発想されましたか。

伊月:1つの街に様々な人が居て、ゴチャゴチャと行き交っている様が好きで描きたかったんですね。好きな監督は台湾のエドワード・ヤン、アメリカだとロバート・アルトマン、ポール・トーマス・アンダーソンです。
この作品は大阪の郊外を舞台に撮ってるんですが、大阪と言えば求められがちなのがよしもと的なお笑いだったり、大阪イコール通天閣というイメージだったりします。もちろん大阪はそれだけではないんですよね。僕は東京に出るまでは大阪の茨木市に住んでいて、小さい頃は万博公園によく遊びに行ったので、大阪イコール通天閣ではなく太陽の塔だったりするんです。
自分が生まれ育った街の自分が観てきた人々を描くことで、一般のイメージとは違う大阪を見せたかったんですよ。

——2つのエピソードは正面から絡むことはしませんが、こういった構成になったのは何故ですか?

伊月:僕の実家の前に小学校の通学路で道を挟んで今にも潰れそうなアパートがあったんですね。ある時住人だった高齢の男性が死んで、かなり経過した状態で発見されたんです。目の前の道路は毎日大勢の小学生が通っていて、普通の住宅が立ち並んでいる、そんな中で孤独死が起こった断絶感。その人とは道でも時々すれ違っていたし、銭湯で会ったりしていたんです。よく無縁社会って言われますが、一緒の空間にいても実際は断絶している、そのとき感じた自分の感覚を映画に反映して、ズレたまま噛み合わない構成にしました。イラク戦争やニューヨークのテロが起きたときも最初はみんな騒然となったけど、今では天気予報くらいのレベルでしか捉えていない。その感覚を提示して「皆さんどう受け止めますか?」と問いかけたいという思いで作りました。

——寿美菜子さんを主役に選んだ経緯をお聞かせください。

伊月:松野泉の『GHOST OF YESTERDAY』で僕も参加したのがきっかけです。この時の彼女の存在感と演技に対する姿勢、集中力を素晴らしいと思ったんです。元々脚本の段階で彼女をイメージして書きましたが、最終的にもう一度オーディションをした結果、寿さんにお願いしました。決め手になったのは友達役の大島正華さんとの組み合わせですね。2人の立ち姿が良かったのと、この人なら上手くいくという勘でした。

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■『Blue Bird』について
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——浅川監督の『Blue Bird』は、ウイルスが蔓延している世界を舞台に、感染者のつぐみと彼女に思いを寄せるミチルの触れ合いと日常の崩壊を描いています。以前に撮られた『赤を視る』も“死”をめぐるストーリーとなっていますが、“死”を描くことにこだわりを持っておられますか。

浅川:前作はまさに“死”をテーマに十代の人間を描きたかったんです。『Blue Bird』の時は、最初ゾンビ映画をやりたかったんです。

——ゾンビ映画のイメージとは全く違う詩的な雰囲気に仕上がっていますね。

浅川:元々ゾンビ映画は好きで、死が根源的なテーマとして出てきますよね。僕は作品の中で“死”を扱うことは多いので当然意識はしていました。当時はそんなことばかり考えてましたけど、今は以前ほどではないです。自分の思いは入っていますが、エンターテイメント寄りの作品になったと思っています。

——寿さんのどういったところに惹かれて主役に抜擢されましたか?

浅川:『GHOST OF YESTERDAY』と『−×−』はほぼスタッフが同じで、僕も参加してたんですね。『GHOST OF YESTERDAY』の時の寿さんはまだ子供っぽさがあったんですが、『−×−』の撮影は2年後で、16歳になってたんです。その現場での寿さんは、芝居でも芝居以外でも魅力的で、その時すでに『Blue Bird』を撮ることが決まっていたので、出演して欲しいなと考えていました。その後オーディションをやりまして、結局寿さんに決めました。

役者さんは普段と画面に写った時が全く違う人っていますよね。役者さんが映画の画の一部になるから、画面栄えは重要です。寿さんは元々綺麗だしイメージしていた世界にいて欲しい佇まいだった。大人っぽい佇まいだったけど、16歳で不安定さもあった。ありがちな言い方ですけど大人と子供の境界線で瑞々しかったです。
寿さんが演じたミチルは、企画段階では男の役だったんですが、映画はフィクションで、役者が設定された役を演じるんだから、女優が男を演じてもいいと思ったんです。最終的にはミチルの性別はどちらにとって貰ってもいいんです。撮影時も一人称で、性別が分かる要素を省いて演じてもらいました。

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■伊月監督・浅川監督、2人の作品の違い
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——伊月監督の作品は世界の中にある個人を描いていて、浅川監督の作品は個人的なミニマルな目線から“死”について語っているように感じました。

浅川:僕は『−×−』のような群像劇は撮ったことがなくて、個人対個人の関係性を深く描きたいと思っています。『Blue Bird』はファンタジーの世界です。ストーリーももちろん大事ですけど、2人の行動で起こった出来事とその中で動く感情を深く捉えられたら。“死”もその延長にあると思っています。

伊月:僕も浅川が言った様なことを考えています。だからこそ今回の構成もこうなった。単に「2人の物語がそれぞれあってすれ違ったよね」と捉える人も多いでしょう。分かる人には話が広がって見えるだろうし、分からない人には2つの物語と思って追いかけるだろうなと思って作った作品です。僕自身も人と人が真剣にぶつかり合って生まれる感情を撮りたいと思っています。

浅川:同じものを見てるけど内から撮っているか外から撮っているかで、その辺は好みであり、作家性になるんでしょうね。僕も作品によって変わることはあるかもしれないし、企画によるところはあると思います。

伊月:浅川の今までの作品は、日常の些細な人物の感情を深く切り取っていましたが、『Blue Bird』はエンターテイメントしていて、ちょっと引いて撮っている感じがします。

浅川:今まではストーリーより感情の機微を撮りたかったんですが、『Blue Bird』ではストーリーを意識してみました。

——その辺は撮っていくごとに変化しているんですね。それは色々な方と映画を撮る中で触発されてのことですか。

浅川:それもありますし、当然僕らも色々な経験をして年齢を重ねる訳ですから、自分の死生観も変わってきています。若い頃は考え方が極端で、半ば諦めがあって幼かった。今は昔理解出来なかったことも分かるようになって来たし、そういったことが作品に現れていると思います。

——お2人は互いの作品に制作で参加されていますが、互いの作品をどう見ていますか?

伊月:僕は『Blue Bird』の前の作品『とけて、まざる』が素晴らしいと思います。ああいう作品をもっと観たい。何も起こってないように見えるかもしれないけど、そこを突き詰めた映画を観てみたい。

浅川:伊月くらい映画に真摯な奴はいない。尊敬してます。制作体制・内容にしても真似ができないですね。

——お2人がオーディションをするときの選考のポイントを教えてください。

伊月:抽象的ですけど“佇まい”ですね。

浅川:僕は“嘘の感情を出していないか”、ですね。役者は演じるのが仕事なので嘘をつくのが上手いですから。特にオーディションとなると飾ったものが出てくる。自然な感情を出している人を見極めたいですね。

——佇まいも素から出るものですか?

伊月:その人の生き様は、絶対佇まいに反映されます。だからこそオーディションで会って、話をしたときのフィーリングは大切にしたいと思っています。

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■今思うと感慨深い“関西ゼロ年代×寿美菜子 3部作”
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——シマフィルム主催の上映イベント『SPRING FEVER 春の映画嵐』で、“関西ゼロ年代×寿美菜子 3部作”という特集上映が組まれたことについてはどう思われますか?

伊月:シマフィルムさんが特集してくださった3本の作品『GHOST OF YESTERDAY』『−×−』『Blue Bird』は、何もないところから僕らが打って出ようと勝負した、ただのインディーズ映画なんです。撮影当時は寿さんもただの一女優でした。
僕の例で言うと、『−×−』の主演はあくまで澤田俊輔さんと寿さんの2人。2007年に撮影したんですが、去年東京で上映するまで4年掛かりました。海外の映画祭で上映してもらったことをきっかけに、一般公開しようという決心がようやくついたんです。4年の間に寿さんが声優としてアニメ『けいおん!!』の琴吹紬役でブレイクしたことを全然知らなくて、『−×−』の東京上映が『けいおん!!』の劇場公開と重なっていたのも不思議な偶然でした。
20代の後半から、何の後ろ盾もないままみんなで映画を作って来て、それがやっと実を結んだと言えます。元々“寿美菜子押し”で作った映画ではなかったんですが、“関西ゼロ年代×寿美菜子 3部作”として特集を組んでもらえたんだから感慨深いですね。

執筆者

デューイ松田

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