【ポーラーサークル】とは、映画監督・蔭山周監督が発起人となって、映画の枠にとらわれない人選で注目の監督を招集した映画のユニットだ。ポーラーサークルとしては2009年以来2度目の登場となる今回は、<未知なる生物>をお題に、実にバラエティ豊かな監督と作品が出揃った。

『未知なるヒカリ』
:昨年のゆうばりファンタにて『おばけのマリコローズ』でファンタランド大賞受賞の小林でび監督の笑いで彩どる洒脱さ。

『へんげ』
:『大拳銃』でゆうばりオフシアター部門とPFFの審査員特別賞受賞の大畑創監督の鉛のよな緊迫感。

『ソクラテスエクセルサ』『島』
:和田浩之監督水戸短編映像祭でグランプリ受賞の和田浩之監督の静謐な法螺話。

『おまめ-united colors of beans』
:全国のアニメーションコンペにて6つもの賞を受賞したあさいやすし監督の示唆に富んだポップさ。

『卵の殻、縦に割るか?横から割るか?』
:『童貞をプロデュース』の主演として知られる加賀賢三監督の未知数のセンス。

『ウィーウィルの蜜のジュース』
:ゆうばりオフシアター審査員特別賞の蔭山周監督&千木良悠子監督の苦いノスタルジック。

そして、見逃せないのが特技監督として参加した『長髪大怪獣 ゲハラ』の 田口清隆、造形作家の寒河江弘の大いなる仕事ぶり。
思いがけず“未知なる生物”ならぬ“未知なる才能”に出会えるのもオムニバスの醍醐味だ。

インタビューにご登場いただいたのは、ポーラーサークル代表の蔭山周監督と“マリコローズ”こと小林でび監督。
インタビューの前半は、ポーラーサークル結成の話から今回のお題について。更にでび監督謹製・謎の“ヒゲ女子”、驚きのキャラクター造形に迫る!

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ゆうばりファンタでの好評を受けて、9/24(土)24時より<ゆうばりロックフェスティバル・イン・トーキョー>『ポーラーサークル〜未知なる生物オムニバス&ゆうばりロックフェスティバルin東京』が開催される。
興味はあってもなかなかゆうばりまで足を運べない方は必見。ぜひゆうばりファンタならではのコラボと、参加しなければ分からないオールナイトの高揚感を存分に味わっていただきたい。
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エンターテインメントコラボ・ポーラーサークル誕生
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——まず、ポーラーサークル結成の経緯を教えてください。

蔭山:映画のジャンルだけでやるのは嫌で、音楽や様々なジャンルから引っ張ってきたエンターテインメントコラボをやる団体を作りたかったんです。それが<ゆうばりロックフェスティバル>で、一番最初は2009年、前田弘二監督、福居ショウジン監督といった方々と一緒に立ち上げました。

——今回はがらっとメンバーが変わったんですね。

蔭山:皆さん忙しくなったりして、新たなメンバーになったんですけど、結成の時の基準を元にいろんなジャンルの方と一緒にやれたら面白いなって。

大畑創監督は映画の王道のような作品ですよね。2009年にゆうばりで出会って、『大拳銃』を観て“天才だー!”と思って声を掛けました。

和田浩之監督は1本目に水戸短編映画祭でグランプリを取った方で、面白いのが全部1人で撮っちゃうんですよ。大畑監督が大勢のスタッフで撮っているのと対照的。スタッフワークでやっていかない人って面白い作品を撮っても中々知られないというのがあって、個人的にファンでもあるし、監督の才能をもっと世に出したいなって思いがあったんです。

加賀賢三監督は『童貞をプロデュース』の主演。ギャンブルなんですよ。彼を使うのは。

——どういう所がギャンブルなんですか?

蔭山:現場でアイディアを聞くと天才性を感じるんですけど、お客さんがどう感じるかって客観性がない。そこが鍛えられたら凄い奴になると思うんです。

あさいやすし監督は、元々映画監督ではなくてリニアモーターってバンドのミュージシャンなんですけど、自分のプロモーションビデオをって時に、できるもんだから自分でアニメを作っちゃった方で、そしたらバンドよりアニメの方が評価されて賞取ったんです。

——でび監督に声をかけたのは何故ですか。

蔭山:昔ニッポン放送が地下で<ファンタスティックシアター>っていう上映会をやっていて、プログラマーとして誘われたんですね。そこで紹介されて、でび監督の『ムーの男』を上映したんです。

でび:2006年のゆうばりのオフシアターのコンペに入った僕のバカな映画がありまして。超能力好きのヤクザの話です。

蔭山:面白かったんですけど、それからしばらくはあまり付き合いがなくて(笑)。ゆうばりで再会するくらいだったんですけど、決定的だったのが『おばけのマリコローズ』を観て。あからさまに観客視点でモノを見ているのがズバズバ来て、「小林でびさんの新作を観たい!」ってことでオファーしました。

——最後にもうお一方。

蔭山:誰だっけ。

でび:蔭山さんでしょ。(一同爆笑)

蔭山:2002年にゆうばり国際ファンタスティック映画祭でオフシアター部門審査員特別賞受賞をいただいた『ナッツ』って映画があるんですけど、千木良悠子さんとはその時からの共同監督です。小説家でバンドや演劇もやっていた人で、映画だけやってなかったんですよ。今回大林宣彦監督が『HOUSE』のインタビューでおっしゃってたんですけど、「新しいことをやるには子供の発想が必要だから、12歳の自分の娘にアイディアを考えさせた」。それと同じことで、僕は19歳で小説家だった大学生の千木良さんに面白いことを書いてもらって、僕が客観性を持たせて映画にするって流れで。そのコンビが10年続いている訳です。普段はまったく会わないんですけどね。

——当時、千木良さんの発想のどんなところに惹かれたんでしょうか。

蔭山:当時、Jホラーが流行っていて若い監督たちは流行に沿ったものとか、人から評価されやすいものをやろうとしてたんですけど、千木良さんにはまったくそんな発想がない(笑)。彼女が読んだり見たものからの発想というオリジナリティに惹かれました。映画の常識にとらわれず、脚本ではなく物語として書くんです。
僕自身も流行に乗っかりたくはなくて、戦争映画の『モロヘイヤWAR』を撮ったり。元々バンドをやっていたこともあって音楽の使い方にはこだわってます。
千木良さんと共同監督することで、男性的な視点だけでなく、女性のストレートな感情を描いていて、男目線の勝手な思い込みで撮っていないというのはありますね。

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「未知なる生物」ブーム到来か?
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——ポーラーサークルの今回のお題『未知なる生物』これはどうやって決められたんですか。

蔭山:21世紀になって物理学的なことよりバイオの方が面白いと思ったんですね。タイムマシーンも出来ないし、コンピューターが発達しても木星まで行けないし。

だけど生物って探れば探るだけ色んなものが発見されて、ハエの遺伝子と人間の遺伝子の数って全然違うと思っていたら、そんなに違っていなかったり。ニュース見るとワクワクするんですよ。元々じいちゃんが医者だったからそういう生物モノが大好きだったんですね。それと、若い子がそういうモノに興味を持つんじゃないかって。

2年前に提案した時は誰も乗らなくて、あさいさんにも「それってどういう客をターゲットにしてるのとか言われて(笑)。今でもみんな半信半疑かもしれないけど。長々しゃべってたった一言、“勘”です!(笑)

でび:それは個人的興味ですか、プロデューサー的興味ですか。

蔭山:プロデューサー的興味ですね。日常生活で謎の生物が凄い好きかと言うと、全然。58位くらい(笑)。

でび:蔭山さんに言われたのは、“2011年は「未知なる生物」のブームが来る!”って(笑)。

蔭山:映画って愛がどうとか人か死ぬとかあるんですけど、もっと肩の力を抜いて楽しめるような…僕は<総合エンターテインメント>ってよく言うんですけど。遊べるものがいいなって。昔、水曜スペシャルが流行りましたけど。あとSFがやりたいっていうのもありましたね。そもそも福居ショウジンさんがポーラーサークルの立ち上げにいたんですけど、僕は福居さんに憧れて映画業界に入ったっていうのもありますから。

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「ヒゲ女子」ブーム到来か?
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——でびさんはオファーされていかがでしたか。

でび:忙しかったんで、最初はお断りしよーかなーって(一同爆笑)。

蔭山:最初「無理です」って言われたんですよね。

でび:なんですけど、“未知なる生物”ってなんだろうって考えていたら、いろんなことが浮かんで撮りたくなって(笑)。やっぱり“未知なる生物”って、凄いイマジネーションを誘う言葉だったんですね。凄く楽しい気分になったんですよ。

蔭山:そう言ってもらうと嬉しいですね。

——『未知なるヒカリ』のストーリーはどうやって組み立てて行かれたんでしょうか。

でび:僕の友達に、自分を宇宙人と思っている女の子が何人もいるんですよ(一同爆笑)。それは特殊なことじゃなくて、世の中の人の考え方と自分の考え方があまりに違うんで、自分が違う種類の人間だと思ったんでしょうね。自分はもしかしたら宇宙人で、間違ってここに来て帰れなくなったけど、そのうちUFOが来て連れて帰ってくれるんじゃないかって、妄想みたいな思考回路になっている。まったく同じことを考えている人が、バラバラに3人くらいいるんです。

蔭山:そう考えることで初めてぴたっと来るんでしょうね。

でび:自分がオカシイ子だって簡単に思いたくない。自分には大切にしていることがあるのに、世の中的には「バカな子」とか「くだらないことばかり考えて」って言われることに対しての防御反応が、違う生き物なんだって考えに向かわせるんじゃないかと。そういう子も、結婚してお母さんになったりしていく訳ですよね。映画はプロポーズされるところから始まるんですけど、相手はそんなにイケてない男で(笑)。でも自分に見合った男かなー、結婚しようかな、なんて時にUFOを見てしまって追っかけて行くって話です。

——突き詰めると深いお話ですね。予告を拝見して気になったのが、可愛らしいおヒゲが…(笑)。

でび:短編なので、変わった女の子っていうのをビジュアル的に瞬時に理解してもらうために考えたんです。ヒゲ女子!(笑)
(後半略〜何故おヒゲかは本編を見てのお楽しみに!)

でび:ヒゲ女子を思いついた時にtwitterにちょっと書いたんですよ。そしたら女の子から「あー!その映画みたい!」ってモノ凄い反応がワーっと来て。女の子が興味を示したっていうのが不思議だったんですよね。
後、UFO待ってるっていうのも男の人からは一度も聞いたことがないんですね。女の人特有のものみたいで。ヒゲとUFOの反応に共通点みたいなものを感じて。この映画に絶対ありの設定だなって思いました。オーディションの時は女の子が100人くらい来てくれて。

——やはりおヒゲの似合う方を(笑)。

でび:この子はこういうヒゲだったら似合う、とかね。フサフサしたヒゲでもいいし、色々選択肢はあったんですけど、片倉わきさんの顔だとあのヒゲが可愛いだろうなと。

——でびさんの作品の魅力はキャラクター造形にあると思うんですが、それは漫画家の経験が生きてるんでしょうか。

でび:僕はマンガ家時代、小池一夫先生の劇画村塾の流派の出身でして、キャラクターに3つの目的を持たせる、3つのアイテムを持たせるみたいな劇画村塾の掟があるんです(笑)。それらを全て守ってるわけではないんですけど身に染み付いていて、『未知なるヒカリ』で言えば、人間2人の衣装のディテールを造りこんだり、女の子にヒゲをつけたり、キャラクター化してしまう。ビジュアル的に荒唐無稽なキャラクターにして、役者の演技で逆の方向に振ってリアリティを持たせるんです。“あ、こういう人間がいるな”“私にもこういうところがある”って方向に。

演劇で言うと、菅田俊さんのアングラ舞台演技のように内面をガツンと表現しちゃうみたいなことをやりつつ、僕、浅野忠信さんが大好きなんですけど、浅野さん的なリアリティを役者さんに求めるんです。
キャリアの長い俳優さんであればある程、“それはキャラクターとして成り立たないよ”ってよく言われるんですけど。“いや成り立ちますよ”って僕がやって見せることでワークショップみたいにしてキャラクターを作っていくんです。役者対役者でぶつかっていきますね。

僕は脚本の書き方が根本的に変わってるっていうか、間違ってまして(笑)。

——どういう風に間違っているんですか。

でび:ほとんどのキャラクターが嘘をついてるんです。役者さんって台本をもらったら台詞を頼りにキャラクターを作るんですけど、僕のキャラクターは<こう見られたいからこう言う>、みたいに自分を偽る形で語ることが多いんです。僕はそこにリアリティを感じるんです。
悪い人であれば格好良く見せようとしたり、いい人であれば思いやりからそんな言葉が出てくる。台詞を頼りに作ると、キャラクター作りが絶対間違うんですね。

——でびさんは感情の捉え方が豊かと言いますか、人の受け入れ方が寛容ですが、それは性格から来るものでしょうか。それともお仕事の経験からですか。

でび:何でしょうね(笑)。性善説みたいなものを思ってるところがあって。どんな人間でも、仕事上でどんなにひどいことをしている人でも、家に帰れば家族や好きな人には優しくしてるに違いないと思ってるところがあるんです。

執筆者

デューイ松田

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ポーラーサークル公式HP
小林でび監督公式HP