現在発売中のアカデミー賞主演女優賞ほか数々の映画賞に輝いた『ブラック・スワン』で、ナタリー・ポートマンにバレエのレッスンを施したバレリーナ、メアリー・ヘレン・バウアーズがインタビューで当時を振り返った。主演ナタリーの身を削るほどの過酷なトレーニング、彼女が持っていたバレエの才能や、バレリーナから観た『ブラック・スワン』の印象などを語った。
 



Q:映画『ブラック・スワン』のためのナタリー・ポートマンのトレーニングはどのようにされたのですか?

「ナタリーは準備のために、ハードなトレーニングに取り組みました。映画のための準備だけでなく、毎日トレーニングを欠かさなかったのです。映画撮影の始まる1年前から一緒にトレーニングを始めました。2008年の10月からです。週5〜6日、一日2時間のトレーニングでした。朝早く5時半か6時からのスタートです。30分のストレッチとエキササイズから始まって、そのあとはバレエのレッスン、テクニックを教えました。そして振り付け。彼女が強く躍れるようにしたかったのです。いい筋肉をつけるため。つまり1年前から力をいれたのはベーシックなテクニックでした。そして撮影まで、あと半年となったときから、徹底的に強烈なトレーニング・プログラムに切りかえました。1日5時間。週6日。やはりストレッチとエキササイズ。毎日、長いバレエのクラス。振り付け。それに毎日、1マイルの水泳です。それはスタミナをつけるためです。なぜかというと、ナタリーの役柄はとても強烈だから。撮影現場に彼女が現れるときに、彼女が強くて自信に溢れていて良いテクニックを保持している状態でいてほしかったの。そうしたなら、彼女は現場でのパフォーマンスを楽しめるでしょう。いざ撮影となったときには、エンジョイしながら臨めると思ったの。テクニカルなことを心配する代わりにね。それにそれは彼女がヘルシーでいられるということでもあるし」

Q:ナタリーはバレエの素質があったと聞いていますが、それは本当ですか?

「ええ。それは真実よ。彼女は本当に才能に恵まれている。彼女はもっと若かった頃、ダンスに真剣に取り組んでいたの。それもあって、この映画に惹かれたのではないかしら。この役柄に興奮して挑戦できたのは、そのせいかもしれないと思います。彼女はビューティフルなダンサー。彼女は子供の頃、ダンスが大好きだった。そのアートに対して、敬意を抱いている。彼女はトレーニングを積んでいたけれど、12か13歳のときにバレエをやめた。彼女の映画のキャリアが伸びていったからよ。でも、またその頃のスピードを持ちかえして前進させていったわけです」

Q:とても良い生徒だったわけですね?

「ええ、彼女はとても良い生徒だった。彼女は本当に素晴らしい驚異的な人。彼女からはインスピレーションを受けるわ。彼女はあまりにも自分のクラフトに献身的なんですもの。毎朝5時に起きるのよ。そして3時間もワークアウトをしたあとに、違う映画の撮影に出かけるのです。彼女は違う作品の撮影中で、一日12時間の労働をしていたのです。そして、その撮影後、夜にはジムに行って水泳をしていた。彼女のトレーニングは苛酷だった。勤勉な彼女は役柄、トレーニング、そのための準備に身を捧げていたのよ。だから、いったん撮影が始まったら、撮影時間は長かったけれど準備完了の状態で臨めた。彼女は役柄に没頭することができたんです」

Q:監督のダーレン・アロノフスキーから何か注文はあったのですか?

「彼女の上半身をどのように動かせるかとか、そういう細かいことの指示とかはあったけれど、だけど大抵はただ彼女を観ているだけだった。彼はナタリーが躍ることに興奮していた。そしてその準備に彼女が頑張っていることに」

Q:トレーニング中に、なにかこうしてくれとか、こういうふうになれるようにとか、彼からは特別な指示はなかったのですか?

「そのときはまだ振り付けが決まっていなくて、なかったから、指示はなかったんです。だから『白鳥の湖』とかのクラシックのバレエの振り付けをやっていました。ホワイト・スワンやブラック・スワンなどのバリエーションです。映画プロダクションが始まってからは、振り付けも始まって刺激的でした。そのプリプロダクションのリハーサルの期間に振り付けをやりました」

Q:動きだけでなく、バレリーナの生活自体に独特なものがあると思うのですが、そういう内面的な生活の上で、なにか彼がナタリーにアドバイスをすることはありましたか。ナタリーがその点で、あなたにアドバイスを求めたことはありましたか?

「ナタリーのワークアウトの仕方自体が、バレリーナとしての人生にシフトしていったのです。夜遅くまで友達と出かけることもできない。そんなことをしたら翌朝、疲れ果ててしまって、クラスの間、気分もすぐれない。だから彼女のトレーニングへの姿勢のおかげで、そのシフトはスムーズに自然に起きていったことでした。それに最初からナタリーは、それに相応しいキャラクターを持ち合わせている。決意の固い断固とした側面があるし、厳しく統制できる。それはバレリーナに必要な特性だと思う。それを彼女は自然に持ち合わせているの。彼女には集中力があるのです」

Q:バレリーナは、独特な歩き方をしますが‥‥。その歩き方をナタリーに教えたのですか。

「アハハハハハ! アヒルのような歩き方ね。トレーニングをしているうちに、それも自然にそういう歩き方になっていくのよ。いつも足をオープンに広げている体勢だから、歩きもそうなるの。ええ、ナタリーは自然にマスターしたわ。その歩きの様子が少し映画の中でも披露されたと思います。彼女はとても賢くて、彼女の体は順応しやすい。それは彼女の役作りの一部だった。だから、それは彼女にとっては容易なことだったと思います。彼女の腰も自然にオープンに広げられる。それはダンサーにとって、とても重要な点です」

Q:映画『ブラック・スワン』を観て、バレリーナとして共感を得られることはありましたか?

「私はこの映画をとっても気に入ってます。大好きな映画です。最初に観たのはロサンジェルスで開催されたプレミアでした。チャイニーズ・シアターでの試写で、それはエキサイティングだった。だってそれは長い間、とてもハードに映画のために働いてきたんですもの。彼女が準備万端になるように、毎日、撮影所でも時間を過ごしてきた。どのシーンも重要だから、ハードに働くことはとても重要なことだった。ナタリーはほぼ、どのシーンに登場するんですもの。だから私は映画を観たときは、ただ興奮していて、彼女をとても誇りに思ったの。映画も素晴らしいと思ったわ。ダーレンは瞬間を捉えることに、見事な腕前を発揮したと思います。普通、バレエ鑑賞をするときは、そこには隔たりがある。見た目にはきれいだけど、ダンサーたちは舞台にいて、あなたたちは観客席に座っている。でも映画『ブラック・スワン』ではとても近くでバレリーナの生活を間近に見られる。キャラクターがどれだけハードに注ぎ込んでいるのかを目撃できるのです。靴を縫ったり柔らかくしたりして準備する一コマとか、ストレッチをする行程とか、筋肉をほぐす運動とか、そういう瞬間にも、踊り子のプロセスが映し出されたと思いました。朝はレッスンがあり、リハーサルがあり、夜には公演がある。それは厳しい職業です。それをダーレンは、うまく捉えたと思います。つぶれてしまった爪を映したりすることで。ステージで見る美しいパフォーマンスの裏ではどれだけの努力が注ぎ込まれているのかが映し出されたのです。それは多くの人々が知らないことだと思う。そんな側面の描かれ方が大好きでした。彼は素晴らしい仕事ぶりを発揮したと思います」

Q:でも、あなたはバレリーナとして映画に共感できたのでしょうか。現実的なものとして実際のバレリーナと共通するものを感じましたか。

「私は映画をとても気に入ったのです。もちろん、これは映画であり、ホラーであり、現実と違う面があることは当たり前のこと。羽だとか翼とか、クレイジーで怖いことが起きたりするんですものね。だけど、彼女が母親にバスルームから電話するシーンとか、私は大好き。あの彼女が『白鳥の湖』での役を射止めたときに母親に電話で報告するシーンは、私がもっとも気に入っているシーンです。それは、私自身が“ニューヨーク・シティ・バレエ団”に招かれたときのことを思い出させるのです。私は2階に駆け上がって、バスルームへと向かったわ。そこがいちばん静かで、他の女の子たちに構うことなくゆっくり話せる場所だから。そこで、私も泣きながら父親に電話したのよ。だから、あのシーンは本当にビューティフルな1コマだと共感しました。そんなふうに、これこそバレリーナの人生だと思わせる部分が、映画には含まれているのです」

Q:逆にバレリーナから観て、これはないでしょう、と思ったシーンはありましたか。ホラーの部分は抜きとして。

「ハハハハハ。私は、この映画は詳細をちゃんと描いたと思います。ダーレンは細かいところまで、しっかり描いたと。ただただ、この映画が大好きな私です。この世界は体力的にいかにハードで、競争率も怖いほど激しい、ということを感じてもらえたと思います。これは映画で、現実とは違うものであっても、ダンサーとして、プロのバレリーナとして、私は真実味を感じました」

執筆者

Yasuhiro Togawa

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