『精武風雲・陳真』の主人公・チェン・ジェン(陳真)とは、名作『ドラゴン怒りの鉄拳』(精武門)”The Fist of Fury” (1971)でブルース・リーが演じた架空のマーシャル・アーツ・ヒーローである。実在した武術家フォ・ユァンジャの弟子という設定で、ブルース・リーの死後も、ジャッキー・チェンの『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』(1976)、ジェット・リーの『フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳』(1994)などのリメイク版など、この架空のヒーローを軸にした映画やTVが数多く作られてきた。1995年に香港で放映され、重厚なストーリーとキャラクターの細かい心理描写、迫力のあるアクション・シーンで人気を博した、ドニー・イェン主演のTVシリーズ『精武門』もそのひとつ。本作は、そのドラマシリーズから生まれた映画であり、ブルース・リーが生んだ世界を魅了するカンフー・アクションの正統な継承者であるドニー・イェンによる、チェン・ジェン作品の決定版だといえる。

本作で主人公チェン・ジェンを演じるのは、ブルース・リー、ジャッキー・チェン、ジェット・リーに次ぐ第4のアクションスターとして注目され、ブルース・リーの師である葉門(イップ・マン)を描いた『イップ・マン序章』(2008)で第28回香港電影金像奨最優秀男優賞に輝いたドニー・イェン。チェン・ジェンが想いを寄せる魅惑の女性キキを演じるのは、『百年恋歌』(2005)で第42回金馬奨最優秀主演女優賞を受賞し、台湾・香港映画界を代表する国際派女優として活躍するスー・チー。ナイトクラブ「カサブランカ」のオーナー・リウ・ユティエンに扮したのは香港の個性派俳優アンソニー・ウォン。そのほか、喜劇役者として人気を博すホアン・ボー、若手人気俳優ショーン・ユーなど、豪華キャストが脇を固める。

監督を務めたのは、『インファナル・アフェア』(2002)が香港の興行史に残る大ヒットを記録したアンドリュー・ラウ。リチャード・ギア主演『消えた天使』(2007)でハリウッドデビューを果たし、世界で活躍するラウ監督が、伝説のヒーロー“チェン・ジェン”の物語を愛と哀しみに葛藤するひとりの男のドラマとして描ききった。さらにドニー・イェン本人がアクション監督を務めた気迫みなぎる武闘シーンにより、迫力満点のカンフー・アクション・エンターテイメントに仕上がっている。

日本人キャストとしては、力石大佐の父である武道家に倉田保昭。そして、外国映画初出演となるEXILEのAKIRAがドニー・イェンとの見事な対決シーンを披露している。今回はドニー・イェン最後の対決相手となる力石大佐役を演じた木幡竜にお話を伺った。



−−この映画に出演することになったきっかけは?

僕の出演した『南京!南京!』という映画の評価がよく、先方から指名いただきました。
ドニー・イェンと対等にアクションができる日本人俳優ということも決め手の一つだったようです。気持ちの上でも対等にできる人間ということで、僕しかいないといわれてとても嬉しかったです」

−−今は中国が拠点なんですか?

「そうですね。中国での仕事が多いので」

ーークライマックスなんてドニー・イェンとガチで対決しているわけですよね。撮り方もかっこいいですね。

「中国のアクションは時間とお金と技術をかけていますから。また、アンドリュー・ラウという本当に一流の監督ですらドニー・イェンのアクション指導にはノータッチなんです。ドニーのアクションのときは現場からいなくなるほど。中国では、アクションというのはアクション監督が撮るものだという考え方みたいです。日本では、監督がいて、アクション指導の方がそばにいれば撮れるという考えですよね。でも実はアクションシーンはそんなに簡単なものではなくて、ものすごい角度や技術、小回りなどが必要なんですね。それをアンドリュー・ラウは知っていて、基本はアクションにはタッチしないでドニーに任せているんです。
ただ、面白いのが、その後の芝居があると、次の日に『お前、何でこんな芝居をしているんだ』と言われて、『ドニーの指導だった』と答えても、『そんなことやらなくていい、撮り直し!』ということが何回かありました。それで監督にアクションシーンになってもいなくならないでくれと頼んだんです(笑)。
ドニーはアクションのときにぼくの芝居に関しても、こういう顔で、こういう芝居だと演出をします。そんな表現をするのかなと思って、ちらっと監督の方を見ると、こっそりとやらなくていいと(笑)。その関係性がとても面白かったです」

−−でもドニーさんとしては納得いかないのでは?

「もちろん最終的な判断を下すのは監督ですから。だから撮り直しになるんです」

−−アンソニー・ウォンにスー・チーとすごいキャスティングなんですが、彼ら一人一人と木幡さんとの見せ場がそれぞれにありますよね。

「向こうの映画はキャラクターがしっかりしていますからね。だから不自然なことなく見られるんだと思うんです。それは監督の力だと思います」

−−役者と役者との対決といった感じがありますね。

「アンドリュー・ラウはそういうのが好きなのかもしれません。とにかく彼のプロフェッショナルさには感心しました」

−−プロフェッショナルというのは具体的にどのような部分で? 

「もともとウォン・カーウァイのカメラマンをやっていた人ということもあって、カメラマン的な視点で画が見えているんだと思います。
とにかく早い。いっぺんにカメラを4つくらい回して撮りだすんですよ。俳優としてはどこを撮っているのか分からないんですけど、とにかくやれと。びっくりしました。シーン55、56、57を連動してやって、という感じでしたから。で、いつの間にか撮り終わっているんです。それくらいに、いっぺんにカメラを回しても画角とかが自分の中に計算ができていて。とにかくセットが早い。撮ってからが早いんです」

−−じゃ、撮影時間が短いんですか?

「ただアクションに関しては亀に戻るんです。アクションは彼が撮るわけではないので、本当にパズルのピースを一個一個作っていく様な感じなんです」

−−本作はブルース・リーにオマージュをささげた映画となるわけですが。

「ドニーはブルース・リーのマニアなんです。チャウ・シンチーとドニーとでファンクラブを作ろうということになったんですけど、どちらが会長になるかということで喧嘩になって破談になったくらい。(笑)だからブルース・リーの生誕70周年ということで
どうしてもこれがやりたかったんだと思います」

−−50歳近い人の身体ではないですよね。

「2週間くらいかけて作り上げたらしいです。それを撮り終わった瞬間にラーメンを食べて(笑)。そのときに言ったのが『ハングリー』と。相当お腹がすいてたんだろうなと思って。ほとんど何も食べてなかったと言ってましたから。ドニーは本当にプロフェッショナルな人です」

執筆者

壬生智裕

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