さて問題です。ヤクザが指を詰めるようになったのは明治17年以降。それまではどうしていたでしょう?

答えは本編をご覧いただくとして、映画開始47秒後から画面は血飛沫にまみれ、タイトルが出るまでの数分間で殺伐とした日常に地獄の門が全開になる『女子高生のはらわた』。小学生でも「CG使わないの?」と当たり前に聞いてくるご時勢に、人体破壊職人ルチオ・フルチ愛に溢れた作品を送り出したのは24歳の田代尚也監督だ。

“特殊造形物で観客を楽しませる”という明確かつ強固な意志の元に制作された本作。フリーの造形師・土肥良成の協力による特殊造形物で彩られた入魂の殺戮アクションを総括するのが、宮田愛理(ちぇんちぇん)演じるホラーマニア女子高生の台詞。
「映画でくらい人を殺したっていいじゃん。
 夢見せてくれたっていいじゃん」
地獄の状況を楽しむ彼女の美しくも安らかな寝顔に全てが凝縮されている。

関東女子高生倫理矯正施設に送り込まれる女子高生役に、グラビアアイドルの保坂沙織、高橋こずえ、内野未来。井口昇監督作品のミューズ・亜紗美が狂気の支配者を演じる他、WAHAHA本舗のジジ・ぶぅがキーパーソンとして登場する。

『女子高生のはらわた』は、学生残酷映画祭2010では審査員特別賞を受賞。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭ではフォアキャスト部門に出品され、好評を博した。
また、9/9(金)から開催される福岡インディペンデント映画祭では、FIDFF2011コンペティション優秀作品に入選。9/9(金)、10(土)、12(月)の日程で上映があり、9/9(金)、10(土)は田代監督が舞台挨拶に立つ予定とのこと。

現在フリーのADとしてTVや自主映画制作に携わっている田代監督。近々自身の新作スプラッター映画『人喰いメイドと殺人ナース』の撮影に入り、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2012への出品を目指している。
























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■■ゆうばりファンタ
・夏のワークショップでの西村喜廣監督との出会い■■
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——プロフィールを拝見すると立教大学現代心理学部映像身体学科卒とありますが、どういったことを勉強する学科なんでしょうか。

田代:僕らが一期生の新しい学科なんですけど、映画やTVといった“映像”を学ぶ人達と、“身体”の方はダンスや舞台を学ぶ人達が一緒になって総合的な芸術を学ぶ学科です。ちなみに篠崎誠さんも教授です。

——そう言えば篠崎監督が『怪談新耳袋 怪奇 ツキモノ/ノゾミ』のDVDオーディオコメンタリーで大学の話をされてました。田代監督は元々映画を撮りたいということでこの学部に入られたんですか。

田代:元々小さいときから映画は好きで、撮ってみようと思ったのは高校くらいからです。友達何人かを無理やり巻き込んで作ったんですけど、やってみて面白いなって思って。やっぱり人は死ぬんですけど、血はあまり出ない作品でした。

——卒業制作で『女子高生のはらわた』を撮られた訳ですが、スプラッターのどんなところに惹かれますか。

田代:元々観ていて楽しいものが好きで、首やパーツの造形物が飛んだりする方が楽しいじゃないですか。現実ではあり得ない出来事を、CGのような架空の世界じゃなくて、存在する造形物で再現する世界に惹かれるんです。好きな映画はたくさんあります。『死霊のはらわた2』『バタリアン』『ビヨンド』とか。予算や技術的な映画の制約の中で最大限ここまでできるんだ、やらなきゃいけないんだってってスタンスが素晴らしい。作ってる人に憧れますね。

——西村喜廣監督とゆうばりファンタの<特撮シネマワークショップ合宿>で交流があったと伺ったんですが、『女子高生のはらわた』を撮る前のお話ですか。

田代:はい。2008年の夏です。僕ら何にも分からない人間に一から教えてくださって。それでご飯を食べてる方なんで、企業秘密というか、本当は教えちゃいけないことまでどんどん教えてくださるサービス精神旺盛な方でしたね。顔爆発もやったんですよ。爆薬をダミーヘッドに仕込んで爆発させたり楽しかったですね。自分の映画ではそこまでやったことがなくて。

——ワークショップに参加しようと思われたのは、映画にそういったシーンを取り入れたいなって思いがあったんですか。

田代:そうですね。ホラーを観る中で、どうなってるんだろうって不思議なことがたくさんあって。ルチオ・フルチの『ビヨンド』で、手首に釘を打ち込まれるシーンがあるんですけど、でも手先は動いてるんですよ。色々学んだ後に観てみたら、壁の中から本当の手が出ていてホント、素晴らしいなって(笑)。

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■■撮影道・残酷物語■■
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——好きな映画の仕掛けも分かって、いよいよ『女子高生のはらわた』を撮った訳ですね。この脚本に詰め込んだこだわりを教えてください。

田代:前に学生残酷映画祭に出たときに、高橋ヨシキさんに言われたんですけど「好きなものを詰めすぎだ」って(笑)。頭の中に浮かんだ、これを造形物にしたら面白いだろうなってところから発想して、山ほど入れました。最初にプロットを書いたんですけど、20人の女の子たちがただ殺し合うだけで、何のカルマもない。篠崎さんに「つまんない」って言われて(笑)。それよりは物語に深みを出そうという事で、主人公を20人から4人に減らして書き込んでいきました」

——出演者はアイドルの方が多かったんですが、キャスティングはどうやって決まったんですか。

田代:オーディションに来ていただいた方が多いですね。主演の保坂沙織さんはアクションが上手い方で、元々アクション道場に通われていたのもあってお願いしました。

——劇中で「さそり?」って言われるシーンもありましたが、保坂さん演じる“高橋”は、殺人上等、クールなキャラクターで黒い笑顔が決まってましたね。後、面白かったのが、宮田愛理(ちぇんちぇん)さんのホラーおたくキャラ。

田代:彼女自身も結構そういうキャラだし、僕自身もそういうタイプなんで。

——宮田さん演じる“名取”の台詞は全部監督自身の台詞なのかなと(笑)。

田代:知り合いに聞くと、あのキャラは田代くんだねって(笑)。

——亜紗美さんとジジ・ぶぅさんはどうやってキャスティングされたんですか?

田代:アクションチームのPASSGUARDに協力していただいてたんですが、亜紗美さんは、その道場に通っておられたんです。たまたまPASS GUARDの道場に打ち合わせで行ったときにお会いして。亜紗美さんから「私もぜひ!」と言ってくださったので「ぜひお願いいたします!」ということで。

ジジ・ぶぅさんはWAHAHA本舗にお願いして出ていただきました。篠崎さんと話していて、亜紗美さんの役にもうちょっと奥行きが欲しいよねってことになって。父親はサイコな人がよくて、ジジ・ぶぅさんがぴったりだったんです。特に面識もなかったんですけど、いきなりお願いしたのに快く引き受けてくださいました。

——それでブリーフ姿に(笑)。亜紗美さんも白衣にブリーフを履いているように見えるんですけど、それはやはり。

田代:親子なので(笑)。

——撮影現場はいかがでしたか。

田代:いやー、過酷でしたね。自主映画の中でも結構なくらい少人数で、コアなメンバーは3人ぐらい。友達に泣きながら頼んで、毎日代わる代わる2、3人に来てもらって、なんとか回しました。現場に行くのに、僕がずっと運転しないといけなくて大変でしたが、最終日に交通事故を起こして田んぼに突っ込んだんですよ。車は廃車ですね。

——予算は250万円くらいとのことですが、高くなったのはそのせいですか(笑)!

田代:車も結構かかってますね(笑)。友達も一台潰してるんで。

——呪われた映画のニオイがしますね(笑)。撮影はどれくらいの日数ですか。

田代:20日くらいで日中から夜まで撮影して、間に1日くらい撮休が入ったと思うんですけど、ほぼぶっ通しで。段々僕の顔が痩せ細っていったらしいですから(笑)。

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■■規制の中で頑張る面白さ■■
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——亜紗美さんやジジ・ぶぅさんといったプロの役者さんはいかがでしたか。

田代:やっぱり緊張しましたね。亜紗美さんやジジ・ぶぅさんは憧れの存在なんで。やって欲しいことはもちろんある訳ですが、僕の望んでいること以上に返してくださるんでやりやすかったんですが、もっと考えたかったって反省はありましたね。

——チェーンソーで首を切るシーンはどう撮られたんでしょうか。

田代:商業的な監督は造形物をそんなに見せなくても表現できると思うんですけど、僕は造形物が好きなんで、どうなっているか見せたいんですよ。最初、首をスパッと切るのを10体でってお願いしたんです。担当してくださったのが気のいい方で、西村映造で知り合ったフリーの造形師の土肥良成さん。10体は無理だって話になって。じゃあ、せめて4体でってことで。4体でも結構凄いことなんですけど、人がいない中で、1体目を動かしてる人がカメラに写らないように移動して3体動かして。中にちょっと映り込んでるカットがあって、1カットだけ差し込んでるんですけど、本当はワンカットで4人切るっていう見せ場。土肥さんがいなければ成立しなかったシーンです。

——田代監督が自信を持っているシーンはどの辺ですか。

田代:赤ん坊のシーンですけど、あれも動かすのは相当大変なんですね。ワイヤーを見えない角度にして、ライティングとカメラと特に造形物の操作が大変で。もちろん女優さんにも手の角度に気を使ってもらって、僕以外の人にとっては「やらない方がいい」ってシーンでしたね。例えば篠崎さんの『死ね!死ね!シネマ』での赤ん坊の使い方。ああいった揺らすようなやり方でもいい訳ですよ。でも、どうしても動かしたい!っていうこだわりがありました。あのシーンはそれなりに見ていただけると思います。

——やはりコントロールには時間がかかるものですか。

西村さんから聞いているのは、どうしてもそういうシーンは時間がかかるんで、普通の映画だと特殊効果は後回しにされちゃうって。ただ僕は特殊効果が撮りたいので、むしろドラマを巻きで撮るみたいな(笑)。

——『女子高生のはらわた』は53分でしたが、1本で劇場公開も考えてらっしゃるんでしょうか。

田代:できたらやってみたいですね。通常この尺で1本公開するのはあまりないと思いますが、篠崎さんの『殺しのはらわた』は40何分で、毎日ゲストを呼んでその人の映画も流すことでトータル90分くらいのイベントにして毎日やってましたから、そんなやり方もあるんだなって思ってます。

——今は卒業して働いてらっしゃるんですよね。今後は映画に対してどう係っていかれますか。

田代:今はTVのADです。これからも面白い映画を作って行きたいです。自主映画だと僕がやりたい放題やったように規制がないですよね。思いついたことをやるのは楽しいんですが、TVをやらせてもらって、規制って枠の中でどれだできるか頑張ることも面白いなって。いずれ商業映画に係って、ゆくゆくは撮っていけるようになりたいですし、商業映画の中でこの経験が何かしら生かせればと思っています。

執筆者

デューイ松田

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