『進化』は、2009年の12月24、25日に撮影された中川究矢監督によるドキュメンタリー。
登場するのは、村上賢司監督(『怪談新耳袋』シリーズ 『ラブホテルコレクション・甘い記憶』)、大西健児監督(『焼星』『シルバーペンシル』)、山下敦弘監督(『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』)、松江哲明監督(『ライブテープ』『DV』)、白石晃士監督(『オカルト』『超・悪人』)、横浜聡子監督(『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』)、寺内康太郎監督(『デメキング』『マリア様がみている』)と、その動向が気になる監督ばかり。
7人の監督を中川監督がインタビューすることで、映画の進化と共に変化する制作方法、制作者の意識の変化を切実に切り取っている。

そしてインサートされるのがポールダンサーで女優の泉CAYさんによる路上パフォーマンスを始め、中川監督自身や園子温監督の元で知り合ったパン生地さんらによる数々のパフォーマンス。さらに街を行く人へのインタビューが、クリスマスに上気した独特な街の空気の中で繰り広げられる。

『進化』は、“ドグマ96”の3つ目のプロジェクトとして制作された。園子温監督作品の助監督を務め、現在は監督・録音・音響効果・プロデュースと幅広く映画制作に携わっている中川監督が、俳優で監督も務める川連廣明さんと共に立ち上げたのが“ドグマ96”だ。

ゆうばりファンタでは、“ドグマ96”のプロジェクトで制作された2本〜『進化』、寺内監督『ぱんいち夫婦』と白石監督『超・暴力人間』を合わせた3本で“ハイパーミニマルムービーズ”としてイベントが行われ、今後は劇場で公開予定だという。

また『進化』は今年4月、ドイツ・フランクフルトで開催の日本映画の祭典「ニッポンコネクション」に参加を果たしている。

一方、泉CAYさんは、4月17日に自らがリーダーを務めるダンスチームtokyo DOLORESのイベント『ELINE The Mermaid』を大反響で終え、度々再演を果たしている。 6月18日にはディナーショーとしてアレンジを加えた再演。夏から秋に掛けては、韓国、NYやフィレンツェでの公演も予定されている。また女優としては、スシタイフーン作品である『極道兵器』『ヘルドライバー』が7月23日の公開を控えている。




















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■■外部の企画によって動くシステムの中で行き詰っていた■■
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——ラース・フォン・トリアーの“ドグマ95”ならぬ”ドグマ96”とはどんなプロジェクトでしょうか。“ドグマ96”を立ち上げたきっかけを教えてください。

中川:きっかけの1つは、仲良くしていた俳優の川連廣明に誘われて行ったワークショップでした。エチュードをやらせてみたら面白くて、これだったらカメラが1台あって役者が数人集まれば映画撮れちゃうじゃん!と思って。もう1つは僕がいろんなことに行き詰っていたんですね。

——それは例えば?

中川:監督の話が何本か来るんですけど動き出そうとして流れたり。脚本を2ヶ月以上かけて書いた作品が流れたりするような時期だったんです。要は誰かや会社の企画によって動くシステムの中で仕事をしていて、丁度行き詰っていた時だったんですね。それで川連と一緒に何か始めようかって思ったときに、凄いインスピレーションが振ってきて。ただ自分一人で始めるんじゃなくて、いろんな人を巻き込んでやったら面白いんじゃないかと思ったんです。それにはルールや企画の名前が必要だってことで、川連くんと案を出し合って“ドグマ96”にしました。

——ルールをこちらに挙げますので簡単に解説をお願いします。

●一日(24時間)で撮影を終える事。
●撮影方法に不確定要素が多分にある事。
●斬新である事。
●ドグマ96作品であるというロゴを作品のどこかに入れる事。
●中川と川連がドグマ96作品であると認めた作品である事。

中川:主なルールとして、「1日で撮影を終えること」があります。脚本通り、コンテ通り、カット割通りでやるのも悪くはないんですが、1日で撮影するってテンションの中で、それを生かした撮影方法を、つまりエチュード的な要素とかドキュメンタリー的な要素を取り入れた撮影の仕方をして欲しいということなんです。

——それでは“ドグマ96”の3本目の作品として、『進化』の内容はどう決めていったんでしょうか。

中川:“ドグマ96”が始まった年は、自分が録音で関わった仕事の中でも面白い企画が中々動かなくなりつつある年で、そんな2009年を清算したいなって。街で暴れるような作品を作ってすっきりさせたいって思いがあったんです。企画を考えていた矢先に知り合いの若い有能な制作部のスタッフが亡くなったんです。撮影現場での事故ではなかったんですが、撮影が終わって帰る途中の居眠り運転だったんです。その知らせを聞いて思うところがあり、僕と同世代の監督たちが今どういう気持ちで映画と向き合っているのか、単純に聞いてみたいと思ったんです。聞いてみたいという願望を年末に撮ろうと思っていた作品に取り込んで、両方をミックスさせて作った作品です。

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■■“ドグマ96”的ライブ感覚の撮影■■
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——各監督に路上でインタビューされてますが、歩く場所は決まったいたんでしょうか。

中川:撮影に関しては事前に決めたことは1つもなかったです。それぞれに相談して、村上監督が1発目になったんですけど、渋谷の路上で立ち止まって撮ってもいいし、歩きながらでもいいし、って言ったんです。村上監督はラブホテル研究家って言っていいくらいで。映画についての話をお願いしたのに、ひたすらラブホテルについて熱く語っているという(笑)。それはそれで面白いですよね。山下さんの時は渋谷のスクランブル交差点で待ち合わせしたら、たまたま岡本太郎の絵が見えたんで、「じゃ、あそこでやりますか」。そんな感じでライブ感覚で決めていきました。

—一般の方へのインタビューはいかがでしたか?

中川:基本的に断られるんですけど、こちらも撮影っていう理由があれば勇気が出るじゃないですか。そうしたら女の子があんなに気軽にインタビューに答えてくれるっていうのが
逆にショックなくらいでしたね(笑)。元々川連くんと始めた企画だったこともあって、深夜にしか来られない川連くんになんとかして出演してもらおうと考えたパートです。「一人で行って来い!」みたいな。

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■■路上のポールでパフォーマンスに挑む■■
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——今回、パフォーマンスパートで出演の泉CAYさんですが、なぜオファーをされたんでしょうか。

中川:『進化』の企画を練りだした時にPVの現場に手伝いに行ったらCAYちゃんがいて、頼んでみると気軽にOKしてくれたんです。元々街を撮りたいというのはあったんで、ダンサーのCAYちゃんだから街でダンスをしてもらえるかなと期待はしてましたが、まさかあそこまで注目を浴びるとは思ってもみなかったですね。

——CAYさんは、路上にあるものをポール代わりにしてのパフォーマンスはいかがでしたか。

CAY:2009年はダンサーのチームを立ち上げた年で、私も色々挑戦してみたい年でもあったんです。だから路上でやるのも初めての経験で面白いなと思ったんです。結構良かったですよ。手が滑ったりしましたけど、大丈夫でした(笑)。クリスマスらしくサンタのバイクがいっぱい通ったり。お祭りっぽい感じがありましたね

中川:軽く拍手が起こってましたもんね。大分疲れていたのに僕が無理を言いまして。「あと1分頑張って!」って。

CAY:結構ゲリラ的な撮影だったから、車を近くに止めて。

中川:警察に怒られることもなかったから、むしろちょっと寂しいくらいでしたね(笑)

CAY:クリスマスだから細かいことに構っていられないというのはあったかもしれませんね。

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■■流れを作るための試行錯誤■■
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——CAYさんご自身について伺いますが、2009年にダンサーのチームを立ち上げた時はどんな思いがあったんでしょうか。

CAY:日本のサブカルチャーの1つのジャンルを分かりやすくかっこよく表現しよう。もっと色々な人に知ってほしい、という気持ちからでした。

——そのジャンルは例えば“ゴスロリ”ですか。

CAY:そうですね。私はゴスロリ経験者だったんですけど、当時はゴスロリのカルチャーって、精神的や内面的なものが大事にされていて、こういう生活をするからこういう生活になる、という必然性があったんです。でも今ではただのコスプレになってるのがイヤで。内面的なものを表現して、みんなに伝わったらいいのにっていう思いがダンスチームに繋がったんです。今までゴスロリのシーンは、ちゃんとしたパフォーマンスや舞台みたいなものがあまりなくて、単なるビジュアル系だったり、中身がない中途半端なものだったり。そういった面では、ポールダンスを選んだことで独自性が出せたと思いますし、本当のゴスロリを求めていたたくさんの人達にアプローチできているんじゃないかと思います。

——CAYさんは2010年から今年にかけて映画では『戦闘少女 血の鉄仮面伝説』『ポール&マヨネーズ』『進化』『極道兵器』、TVドラマでは『古代少女隊ドグーンV』と大変出演作が多かったですが、2009年と比べて状況は変わりましたか。

CAY:大分変わったと思いますね。2009年はハチャメチャにいろんなことをして、2010年は冒険し過ぎた感がありました。

——それはどういったことですか。

CAY:例えばダンスでいうと、踊れる場があれば本当に様々なものに出演していたんですけど、段々疲れて来てしまって。精査して、もう少しクオリティの高いものをちゃんと見せられる環境を選んでショーをして行きたい。映画・映像にしても、自分を磨けるところ、自分に合ったところで力を発揮できるようにしていけたらなと思うようになって。たくさん挑戦したことで、明確になってきたというのも大いにあります(笑)。この経験は無駄ではなかったって思いますね。

——では2011年はいかがですか。

CAY:もうちょっと計画的にやりたいなって(笑)。今年をいくつかに区切って目標を立てているんですけど、今までは目標を立てても結局あまり上手くいかないこともありました。
大きい目標としては、表現をずっと続けて行きたいので、そのためにどうしたらいいのかということを常に考えています。何度かやってみてダメだった場合は一旦距離を置くんです。自分と周りの環境を整えてにもう一度アプローチしてみると、上手くいったり。タイミングって本当に大事で、その時やりたくても実力がなければダメじゃないですか。本当にやりたいことはあきらめないで、時期を狙って、今だ!って喰いつくみたいな(笑)。

——差し支えなければ目標について教えてください。

CAY:3月にポールダンスの日本大会に出場するのと、4月には私が主催するtokyo DOLORESの公演を成功させて、それをステップに地方や海外で公演をやりたいと思っています。できれば5月6月に大きなイベントのツアーをやりたいですね。

——ダンサーとしてどんどんステップアップされているCAYさんですが、映画でも『極道兵器』でCAYさんが演じられた役は、まさにCAYさんでなくてはできない役でしたね。

泉:楽しくやらせていただきましたよ。お兄ちゃんが壊れるきっかけになって、最後は一緒に闘うキャラクターなので、インパクトを残せないと意味がないキャラなのかなと思っています。存在感や映画の中での役割を考えて、お兄ちゃんとのストーリーを自分なりに作って表現をできたかなと思っています。アクションシーンは頑張ったんで、とにかく観て欲しいです!

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■■『進化』を通過点として■■
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——色々な面で閉塞感を感じていらっしゃった中川監督とお二人が『進化』で出会ったのが面白いと思いました。中川監督は同世代の監督へのインタビューを通して、タイトルになっている『進化』が何か見えましたか。

中川:改めて確認できたのは、映画へのみんなの愛ですね。愛の形が7人全然違う。例えば大西健児さん、主に実験映画を撮っている方なんですけど、大西さんの言葉とか面白いですよね。

——「真面目に撮った映画ほどつまらないものはない」とか。

中川:大西さんと横浜さんの言葉は全然違いますよね。バラバラだけどみんなの映画に対する愛情が感じられたんです。多分、いろんな形があっていいんだっていうのを僕が言いたかったのを代弁してもらったんじゃないですかね。確認できて色々なことが聞けたのが一番良かったですね。

——2009年に『進化』を撮られて、その後監督方それぞれも状況が変わりました。“早く映画を撮らないと!”とおっしゃっていた山下監督は『マイバックページ』が公開されましたし、白石晃士監督は『超・悪人』が完成したり、みなさん“進化”なさってます。中川監督ご自身はいかがですか。

中川:まだ新作を撮影したりはしていませんが、気持ちの上で『進化』の時は映画や社会を解体したいという意識が強かったです。でも、今はもっとストレートに愛を伝えたいなって言う想いはあります。そう思えるようになったは『進化』を撮ったからだと思います。『進化』の次を早くお見せしたいと思います。

——最後に“ハイパーニミマムムービーズ”の中川監督『進化』、寺内康太郎監督『ぱんいち夫婦』、白石晃士監督『超・暴力人間』の今後の展開、公開について教えてください。

中川:3本とも僕が関わっていて、企画したプログラムなんですけど、たまたまですが本当にバランスのいい3本だなって。今回ゆうばりには感触を確かめに来たんですが、反応がとても良かったんです。これで自信を得ましたので、上映に向けて本格的に動こうと思っています。今年中にはこの3本を劇場でもお披露目出来ると思いますので楽しみにしていて下さい!

執筆者

デューイ松田

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