今年のゆうばりファンタの大きな話題の一つは、日活が立ち上げた海外配給専門レーベル・スシタイフーン作品が3本揃って登場したこと。その中からまずご登場いただいたのは、『AVN/エイリアンVSニンジャ』の千葉誠治監督だ。

『AVN』は、『伊賀の乱』シリーズの千葉監督がお得意の忍者アクションでアメリカ市場に切り込んだ意欲作だ。
三元雅芸、柏原収史、肘井美佳、島津健太郎といった千葉監督作品ではおなじみのキャストが、忍者VSエイリアンという大枠の中、フィールドに囚われない5つの要素のアクションに挑戦!

昨年7月にニューヨーク・アジアンフルムフェスティバルJapan Cutsでのワールドプレミアを皮切りに、ボルティモア、サンディエゴ、ニューヨークのコミックコンペ、シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭、今年5月にはブリュッセル国際ファンタスティック映画祭でも観客に熱狂的に受け入れられた。

5月15日には『ブラック・スワン』の大手映画製作会社Phoenix Picturesによるアメリカ版リメイクが決定!というビッグニュースも発表され、更にスシタイフーン作品3本が7月23日〜8月19日の日程で、銀座シネパトスを皮切りに、全国で順次公開予定となっている。

とにかくバカコメが大好きで、観客を乗せることにどこまでも貪欲な千葉監督にお話を伺った。



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■■アメリカでウケるにはコメディの要素が不可欠■■
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——海外の映画祭で現地の方々の反応はいかがでしたか。

千葉:作品の仕上げがあったりで同行できなったんですが、プロデューサーの千葉善紀さんや主演の三元雅芸さんから話を聞いたのと、ユーストリームで観たんですが、相当盛り上がったみたいですね。

アメリカ留学時によく劇場でコメディ映画を観ていたんですよ。劇場で拍手している黒人やヒスパニック系の人々は、B級テイストのロジャー・コーマン系の映画やコメディ映画が大好きですから。
日本でコメディ映画は当たらないですよね。昔『ビルとテッドの地獄旅行』(91)って映画があって、当時有楽町マリオンで観たんですけど、僕の他観客が2人くらいで。僕は大爆笑でホント大好きなんですけど。アメリカでは大ヒットだったんですけどね。

アメリカでどんなものが受けるか肌で感じていましたので、今回はアクションだけでなくコメディの要素を入れるのが大切だなぁと思っていました。お陰様でモントリオールとサンディエゴの会場は満員で、ドーン!ドーン!って笑いが耐えない感じだったそうです。

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■■千葉監督が語る、ヒロイン・肘井美佳の魅力■■
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——スシタイフーン作品というブランド名のせいかもしれませんが、『AVN』を拝見して連想したのがドラゴンロールです。元々は日本独自の寿司が、アメリカ人が苦手な生魚を使わず、馴染みのない海苔を内側にして巻く。メインは鰻やアボカドというアイディアで人気の定番メニューになっています。『AVN』は忍者映画でありながら、今までこのジャンルで見られなかった様々なアクションを取り入れることで、新たな忍者映画を美味しく料理されていました。
そんなドラゴンロール的シーンとして、真っ先に挙げたいのが、肘井さんのアクションシーンです。『抜け忍』(09)でも起用されてましたが、今回はセクシーなレザーの忍者コスチュームで。エイリアンのセクハラに立ち向かう姿が、お色気もありながらアイディアに富んだ爆笑アクションシーンになっていて、一番力が入っているように見えました。

千葉:そうなんですよ!彼女はアクションができてデリケートな芝居ができる数少ない女優の一人なんです。ドラマができないとアクションやコメディってスカスカなイベント映画になりますから。元々、お芝居もコメディも上手い方だなぁって注目していて、物凄く彼女のことが好きだったんで『抜け忍』でオファーしたらやっぱりその通りで。

——元々アクション女優さんではないんですよね。

千葉:身体能力が高いというより、芝居の延長でどう体を動かすと上手に見せられるか、理解して体現するのが得意っていう類まれな女優さんなんです。今回はアクションありお色気もありで少し複雑なので、彼女の新しい面を引き出せるんではないかと思いまして。事務所的にはどうかなと思ったんですが(笑)エロティックというより“お色気”という感じですしね。僕はコメディの延長上ってことで力が入りましたね!

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■■『AVN』はテイストの違う5つのアクションで構成されている■■
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——そして忘れられないのが、三元さんVSエイリアンで一世風靡セピアの『前略、道の上より』のカバーがかかるシーン。三元さんの力強いアクションが決まっているだけに、このタイミングでこの曲を持ってくる外しのセンス…!なんとも美味しくいただきました。

千葉:この曲は、別のピップホップグループの新しいアレンジになってるんです。日本の面白い側面を日本の古風な楽器を生かして、ふんどしで太鼓叩いてるみたいな(笑)。「素意や!素意や!」をバックにエイリアンと忍者が闘っているとバカっぽくていいでしょ(笑)。ノリはいいし、アクションにぴったりなんで、プロデューサーの千葉さんがタイアップで持って来てくれた曲の中から選びました。

——『AVN』のアクションは、プロレス、ボクシング、殴り合い、ガンアクション、ソードアクション、空中戦と、とにかく色々な要素が含まれていましたね。これはやはり海外でウケることを第一に構成されたんでしょうか。

千葉:日本ではソードアクションならソードアクションって限定されがちで、銃撃戦まであるソードアクションって見たことないんですよね。
まずアクション映画として捉えて欲しいというのがありましたので、アクション監督の下村勇二さんと相談して、5つのアクションで構成することにしたんです。1つ目は主人公のヒロイックなアクション。2つ目はエイリアンのホラーテイストなアクション。3つ目はリアルなエイリアン対複数の忍者とのバトル。4つ目はゾンビ忍者対忍者のアクション。そして5つ目は1対1の表題どおりのエイリアン対忍者です。この5つのアクションを全部違うテイストで作ることにして、これでもかっていうものを海外の人々に見せようと思ったんです。

——今回のエイリアンのデザインは●●●に見えますね。

千葉:デザインにあたっては、見てエイリアンと分かる。あまり毒々しいものよりコミカルでユニーク、愛着が持てるエイリアンであること。かといって、観る人はエイリアンを期待しているんで、本家のエイリアンとあまりかけ離れてしまう訳にもいかない。アメリカ人が何を望んでいるのか踏まえたうえでエイリアンにするということで●●●っぽいデザインになりました。

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■■下村さん、鹿角さんや梅沢さんといったエキスパートが
本来の仕事以外のこともやってくれたから、ここまで出来た■■
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——見る方は盛り沢山であればあるほど嬉しいんですが、制作する側としてはご苦労が多かったのでは。

千葉:ホント大変でしたよ!(笑)僕がドラマを撮っている最中に、下村さんがアクションチームを連れて重機で穴掘ったり、縦横無尽にサポートしてくれまして。VFXを担当してくれた鹿角剛司さんも、実際に現地に行って「隕石が落ちるところ、ここがいいね!」って、手の空いてるスタッフ連れて自分でザクザク地面を掘ってくれました。

——パソコン上の作業だけでなく実際に。

千葉:そうなんですよ。あと、造形の梅沢壮一さんが、メインで使うエイリアン3体の他にバリエーションをつけたものを作ってくれて。低予算なんですけど、みんなで協力していろんな要素を入れるために裏で準備したり。
いつも一緒にやっているスタッフだけではこの映画は撮れなかったんです。下村さん、鹿角さん、梅沢さんっていうエキスパートの方々に入ってもらって、彼らが本来の仕事以外のこともやってくれたからここまで出来たんです。千葉プロデューサーのお題は5分に1回なんかしろって(笑)。そんな命題を少ない予算と時間の中で成立させるのは、最高に難しかったですね。

——今回予算はどのくらいだったんですか。差し支えなければ…。

千葉:正確にはお話できないんですけどかなり厳しかったですよ。アクションって1日最大で100カットくらいしか撮れないんです。全体で1000カットくらいありますので、約3週間の撮影で、半分がアクションでしたね。静岡での撮影中に台風が来たので、250キロ移動して宇都宮にある洞窟で撮影して。台風が通り過ぎたら静岡に戻って撮影して、と大変でした。

——千葉監督の映画でいつも登場する洞窟ですか!スシタイフーンの映画が台風から逃げながら(笑)。

千葉:そうなんですよ!スシタイフーンなのにね(笑)。時代劇って建物の中の撮影をしたくてもなかなか入れないんですよ。日光江戸村ばかり使う訳にもいかないし。ワープステーションもあるんですけど、結構高くて。予算の面からどうしても外での撮影になっちゃう。その点洞窟なら天気も気にしなくていいし、夜も撮影できるんで毎回使ってます。後、なるべく下村さんたちアクションチームに時間をあげたいんです。ドラマなら長廻しとかリハーサルをまとめてやることもできるんですけど、アクションは撮れても1時間に10カットくらいで、物理的に難しいんです。今時アクションを長廻しでやるのは厳しいですね。

『巌流島』(03)では、主演の本木雅弘さんが手を全部覚えたので長廻しで行こうって話になったんですが、足場の悪い砂浜でやるのは無理ってことで、結局カットを割っていくことになりました。
『オールドボーイ』(03)でチェ・ミンシクさんが金槌を武器にした長廻しの乱闘シーンがありますよね。あれは長廻しで横移動していくのが効果的なんですけど、時代劇で横移動だけで見せるっていうのも…。やっぱり現代的なアクションは尺が長くなる分、カット割でスピード感を出して、手裏剣や刀のCGを入れることで見せるようにしています。

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■■虐げられる存在の下忍には様々なドラマがある!■■
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——千葉監督はずっと忍者映画を撮って来られて、伊賀忍者の特に“下忍”を繰り返し描いていらっしゃいますが、下忍にひかれる訳は…?

千葉:僕が生まれ育ったのは昭和40年代なんですが、白戸三平先生の『カムイ外伝』(65)とか、『ウルトラセブン』(67)『妖怪人間ベム』(68)もそうでしたが、差別を描いたもの、弱者を描くドラマって多かったと思うんです。下忍は忍者の中でも最下層で弱者の極みのような存在で、恵まれない環境に生きることを運命付けられているんです。忍者と言えば、刀とか手裏剣といった魅力的な武器があるんですが、それだけでなく描く要素やキャラクターがたくさんあると思うんです。だからなるべく上忍層ではなく下忍層や忍びの里の農民たちを描いていければと思っています。

——『伊賀の乱』シリーズの後、昨年は『忍邪』(10)でバイオテロを描かれてましたね。その後がエイリアンで(笑)。

千葉:ハードな作品の次はコミカルな作品と、交互にやりたいという気持ちが常にありますので(笑)。それでも僕の中では“差別”っていうテーマがあって、『AVN』ではそんなに明確に描いている訳ではないんですが、三元さんのヤマタが育った環境や肘井さんは父親に男として育てられているところに少し盛り込んでいます。
3月から順次公開になる『女忍 KUNOICHI』()は、武田梨奈さん主演で“女衒忍び”による“拉致”を題材にしたシナリオを書きました。『AVN』は完全にアメリカ向けのエンターテイメントだったので、こちらはシリアスな作品になってます。

——忍者映画は千葉監督にとってライフワークのようなものでしょうか。

千葉:そういう訳でもないんですけどね(笑)。現代モノの企画も出しても通るのは忍者モノばかりなんです。多分海外で売りやすいということと、国内マーケットでもある程度の固定ファンがいるからなんでしょうね。ホントは山口雄大監督や井口昇監督がやってるようなナンセンスなコメディも凄くやりたいんです。でも中々売りどころが難しいのと、僕がこのジャンルで実績を積んできたというのがありますからね。

)『女忍 KUNOICHI』:5月21日(土)〜6月3日(金)
大阪/シネ・ヌーヴォXにて公開。
5月21日(土)13:30の回、千葉誠治監督、三元雅芸さんによる舞台挨拶予定

執筆者

デューイ松田

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