エロモラスの原点『お姉ちゃん、弟といく』吉田 浩太監督インタビュー
比類なき女優・江口のりこ、エロモラス・ムービーの生みの親・吉田浩太、二人の感性がコラボした中編映画。
『月とチェリー』の江口のりこと本作品で初脚本・監督を務めた吉田浩太監督が初めてコンビを組み、2008年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター部門審査員特別賞を受賞。しかし吉田監督が授賞式直前に若年性脳梗塞で倒れ、生死の境をさまよう。それから4年の歳月を経て今回ようやく念願の劇場公開が決定した。
弟の行動を心配しながらも次第に惹かれていく姉を演じた、個性派女優江口のりこは、本作品でC02フィルム・エキシビジョン主演女優賞を受賞。自分の恋心を素直に表現できない不安定な弟を『隼』の中村邦晃がリアルに演じている。また、なおを友情以上の想いで見つめるルームメイトの沙希を演じたのは、『片腕マシンガール』の菜葉菜。姉弟、女同士など、それぞれが胸に秘めたいびつな愛情が痛々しくすれ違う、若者たちの衝撃作!
最新作『ユリ子のアロマ』に続き、原点である『お姉ちゃん、弟といく』について監督に聞いてみた。
■エロモラスの原点『お姉ちゃん、弟といく』を撮ろうと思ったきっかけを教えて下さい。
助監督時代。道をボーっと歩いていたらヒラヒラとミニスカートで歩く若い女性がいました。
その女性を見て、ハッと「あの子がノーパンだったらいいな…」と思ったんです。
さらに何故かノーパンでボーリングしたらさぞかしハラハラするだろう…と思考が発展していきました。
怒られてしまうかもしれないけど、そこがアイデアの根本です。
ノーパンでボウリングをしようと思ったそのアイデアを脚本化する際に、心がけようと思ったのがエロスとスリルでした。エロくてハラハラする。そんな気持ちを登場人物たちにも持たせたい。そこから姉弟の物語を構築していきました。姉弟という視点で物語を構築していった先に行き着いたテーマ(というかいつもそこにいってしまうのだけど…)は、関係性の崩壊と再生というテーマでした。
■2008年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター部門
審査員特別賞の受賞が決定し、その受賞式直前に若年性脳梗塞で倒られ、
その後動脈瘤で大手術をされたとのことですが、その時のお気持ちを教えてください。
ちょうどゆうばりで入選が決まって、「よし、これからやってやるぞ!」というポジティブな中だったので、正直こたえました。
自主映画をやっている身からもゆうばり映画祭は憧れの映画祭でしたが、映画祭開催中も自宅に篭りインターネットなどで情報を得るしかない自分が情けなかったです。
何とか早く社会復帰したいと思いつつも、今まで感じたことの無い病気の症状に苛まされ、映画は無理だろうな…とへこむ毎日でした。
脳梗塞だけでも中々辛い中、さらに脳動脈瘤が発見されたときはまさに泣きっ面に蜂状態でした。
ゆうばり映画祭入選など人生を謳歌するはずが一気に転落した気持ちになりまし。
しかしこうなったのも自分の普段の行いが悪いからだ、と無理に意味不明な精神状態に持っていったのを覚えています。
何かしら自分が置かれた状況に理由付けでもしなければ納得がいかない気持ちだったのだと思います。
■復帰するまでには、どのようなご苦労がお有りでしたか。
吐き気や、痺れ、耳鳴り、頭がボーっとして気絶しそうになる…といった今まで感じたことが無い症状に苛まされ続けました。
一番苦労したのが他人とのコミュニケーションでした。
約一年間の間自宅に篭りっぱなしということもあって、他人とコミュニケーションをとることがあまり出来なくなっていて、他人が怖いと思うことすらありました。
そんな状況の中、映画を作るということはおそらく無理なことのように思われました。
しかし、一方、映画を作りたいという気持ちが純化されていたのを感じました。
映画を作りたい、その純粋な気持ちだけで復帰するまでの気持ちを支えていたと思います。
■闘病されてからは、映画作りへの想いはどのように変わりましたか。
今までは、少なからず「監督になりたい」という気持ちがあったと思います。
けど今は「映画を作りたい」という気持ちしかありません。
「監督」なんていうものは肩書きに過ぎなく、自分を着飾っているものでしかない。
そういった着飾るもの一切が、病気を経て無意味なものだと気づかされました。
■復帰作の『ユリ子のアロマ』でも江口のりこさんを起用され、
処女作の本作でも主演に起用されていますが、そのこだわりは何でしょうか。
江口のりこさんは非常に独自な女優です。
自分の映画は性的なものがテーマとなり、演じる女優さんが誰であるかによって作品のテイストが決定的に決まります。
江口さんに演じてもらうと、エロティックさがありながら嫌なエロさにならない。
これはおそらく江口さんも計算しているものではなく、肩肘張らずにやっている結果、そうなってしまう。それが江口さんの魅力であり凄いところだと思います。
また江口さんファンの女性が意外に多いことも知りました。江口さんの誰にも媚びない凛とした姿が、現代的女性の理想像に近いのではないかと推測しています。
■観客の皆さんへのメッセージ
僕はこの「お姉ちゃん、弟といく」をより多くの方々に観てもらいたく劇場公開することを夢見続け、四年間悶々とし続けてきました。
この四年間は病気のことなども含め、色々とありました。
僕の新作「ユリ子のアロマ」も、この「お姉ちゃん、弟といく」をより多くの人に見せたいという気持ちから始まったといっても過言ではありません。
僕はいつも映画は映画館で見て初めて完成すると思っています。
そういった視点から考えると、四年間もの間「お姉ちゃん、弟といく」は未完成のままだったと言えます。
より多くの方々に見られることで、映画はより有機的なより芳醇なものへと変化していきます。
是非皆さんの力で、「お姉ちゃん、弟といく」を完成させて欲しいと思います。
執筆者
Yasuhiro Togawa