主演は、香港芸能界で「四天王」の1人として長年に渡って活躍し、06年『父子』で台湾金馬奨最優秀主演男優賞を受賞した人気トップスターのアーロン・クォック。アイドルから脱却して、本作品では鬼気迫る演技を見せている。
製作は『グリーン・デスティニー』(00)『HERO』(02)と世界的なヒット作を手がけたアジアを代表するプロデューサーのビル・コンが手がけ、『ラスト、コーション』(07)等でアン・リーに付いて学んだ期待の新人ロイ・チョウが本作品で鮮烈な監督デビューを飾った。
また音楽を『ハンニバル・ライジング』(07)や『花様年華』(00)など世界で活躍する日本の作曲家・梅林茂が手がけ、アジア圏の優秀なスタッフ、キャストが集結している。
オープニングの衝撃的な映像に始まり、観客が主人公と同様に“犯人は主人公ではないか”と疑わざるを得ない展開。
そして全てが解明されていくうちに登場する予想外の真実!!サスペンス・スリラーとして未だかつてない内容が露わとなる。


●この映画を撮ろうと思ったきっかけは?
2004年のことですが、新聞を読んでいたら、ある病気になっている人の記事があったんです。それにすごく興味を持ってすぐに構想を練りました。そして脚本家(のトー・チーロン)と脚本を書き始めました。

●この作品のテーマは?
人間の心の中にある悪の部分を撮りたいと思いました。非常に優秀な主人公が、心に秘めていた憎悪が次第に表れていくという、人間の二面性を描きたかったのです。追い詰められた人間がどんな行動を起すか。その様変わりを主人公を通して変化させていったわけです。

●アイドルスターとして人気のあるアーロン・クォックは、よくこの役を引き受けましたね。
映画の脚本を書く時に、俳優をイメージしながら書いていくんですが、この作品ではアーロン・クォックをイメージしていました。そして彼にこの脚本を見せたところ、ぜひ演じたいと言ってくれたんです。アイドルのトップスターであったアーロンは今までとは違う役を演じたいという気持ちがあって、この役を引き受けてくれたわけです。

●ポスターのアーロンの顔が怖くて、インパクトありますが?
この時のアーロンは、三日三晩徹夜続きでその直後に写真撮影をしたんですよ(笑)。だからより怖さが出てインパクトのあるものが撮れたんです。でも、手は他人ですけどね(笑)
これは合成しました。

●新人監督としてデビューしたわけですが、撮影での苦労は?
いちばん大変だったのは子役の指導でした。年齢がまだ4歳ぐらいで、台詞の内容を理解しているわけではないので、その場で一言ずつ指導しました。それからアーロンと一緒に泳ぐシーンも大変でした。なにせまったく泳げないので、演技する前から泳ぐことを教えなければいけなかったからです。

●香港での撮影だったということで、これまで見たことのない場所がたくさん出てきますが?
この作品に登場する場所はこれまで香港映画のロケで出てきてない場所を中心に探しました。なぜなら、香港自体が狭いエリアなので、これまでの香港映画で同じ場所がいろんな映画で登場しています。香港の観客が映画を観ている中で、潜在意識の中で何を感じるのか、もし知っている場所が出てくると恐怖を感じなくなるからです。知らない場所だと観客の心理を誘導することができるからです。その心理的な効果を使っているのが『シャッター・アイランド』も同様ですね。

●スタッフもキャストもベテランの方が多かったと思いますが、現場ではどうでしたか?
確かに、子役のタム・チュンヤッの次に若いのが僕でした(笑)。私は新人監督なので、経験のある人たちの中でスムーズに行くために、クランクイン前からかなりの準備をしました。そのおかげでスムーズに撮影を進めることができました。

●監督にとって印象的なシーンはありますか?
クランクインに撮ったシーンですね。アーロン扮するレン警部が警察から家に戻る途中、車を運転しながら何かを思い出そうとするシーンだったのですが、私も(商業映画)デビュー作としての最初の演出シーンだったので、印象に残っています。

●たくさんの鳥が飛んでいるカットが印象的に使われていますが?
あの映像は意図して撮ったわけではありませんでした。ロケの移動中に、たまたま見かけて撮ったものです。実はあの鳥はすごく大きくて、大群が順列なく飛び回っているんですが、この作品のテーマに意味を持たせられるものとして、象徴的に挿入したのです。

●アーロンとチョン・シウファイが対峙するシーンも印象的でしたが?
あそこは20階建ての高さがあるくらいの崖になっています。本当に落ちたら死んでしまいますので、あそこはセットで3階建てぐらいの高さのものを作り、CGとの合成で落ちるシーンを作りました。それでも撮影はかなり大変でした。

●この作品は中国大陸ではエンディングを替えていると聞いているのですが?
最初この映画を作る時は残酷なシーンも含めて自分の思うような作品に作りあげました。香港ではそれでもよかったのですが、完成した後に投資会社から、中国大陸でも公開することを考えなければいけないとのことで、編集をし直しました。なぜなら香港では映倫がありますが、中国ではそういった規制制度がなく、子供の目にも触れてしまう可能性が高かったので、暴力シーンの全てをカットし、そしてエンディングも違うものにしたのです。同じ作品で二つの映画が存在してしまうことになりますが、私は納得して編集をしていますし、こうゆう経験はなかなかないと思います。

●これまで影響を受けた映画監督は?
これまでもたくさんの映画を観ているので、好きな監督はたくさんいますが、スタンリー・キューブリック、黒澤明、小津安二郎、アン・リーですね。

●アン・リーといえば、ロイ監督は『ラスト、コーション』では助監督をされていたとか。
はい、そうです。『ラスト、コーション』では、彼のアシスタントだけでなく、資料集めなど、ありとあらゆる仕事をして経験を積みました。そして彼からいろんなことを学びました。それは映画を作ることに対しての情熱、ひるまず妥協をしないことなどです。彼は、これまでもいろんな作品にチャレンジしていますが、撮りたいものを実現させることを考え、そのうえにしっかりとした脚本を作り、そして信念を持って監督をやり遂げるということです。そして彼がすごいと思ったのは、できあがった作品に対しての第三者の声に対して、平常心でいられることです。

●アン・リー監督は作品をご覧になられましたか?
実はこの映画を作り終えた後、作品の主人公同様に精神的に参っていたのですが、リー監督はこの作品を観た後に、「出来については何もいわない。テクニカルな部分は多少あるが、君の健康状態が心配だ。」と言ってくれました。彼の一言で映画の状況をわかってくれたと感じ、泣きそうになりました。以心伝心ですね。

●最後に日本の観客へメッセージをお願いします。
日本で皆さんにこの作品をご覧頂けることを、とても光栄に思います。ホラー映画とは言われていますが、実はいろいろな角度からこの映画は楽しんで頂けると思います。主人公の複雑な心理や人間関係など、どの観客の方でも自分なりの楽しみ方がこの映画を通して見つかると思います。ぜひ、楽しんで下さい。

執筆者

Yasuhiro Togawa

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