一瞬の恋が、一生の愛へとつづく——
一生に一度の燃えるような愛を綴り、多くの男女の心を震わせた辻仁成によるベストセラー「サヨナライツカ」。その25年にわたる壮大なラブストーリーを、日本でも興収30億円を超える大ヒットを記録した『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督が待望の映画化。
タイ、日本、韓国での1年以上におよぶ撮影を経て完成した美しくもせつない究極のラブストーリーだ。
イ・ジェハン監督の熱烈なラブコールを受け、12年ぶりのスクリーン復帰を果たす中山美穂が演じるのは、自由奔放で欲望に忠実な女性、沓子。沓子と運命の恋に落ちる豊に西島秀俊、豊の婚約者 光子に石田ゆり子。
伝えたかった想い、胸の奥にしまっていた秘密、どうしても言って欲しかったあのひとこと……それぞれの想いを胸に過ごす歳月を見事なアンサンブルが紡いでいく。
バンコク、東京、ニューヨーク—— 一瞬の熱情が、25年の時を超え、一生の愛になる。離れていても時がたっても、そこまで人を愛することができるのだろうか。

ラブストーリーの旗手であるイ・ジェハン監督にインタビューを行った。




ーー最初に、原作を読んだ時の感想は?また、それを映像化するにあたりどのように生かそうと思いましたか?

「成熟した視点で愛を描いていると思い、とても衝撃を受けました。
小説を読むと岐路”という言葉が出てくるのですが、私はそれをイメージのひとつとして大変重要視しました。この”岐路”という人生の選択をどうにか描けないかという事を考えました。
また、小説の中に沓子の詩が登場するのですが、最初読んだ時は凄く平凡な詩に感じました。しかし、
小説を読んでいき、読み終わる頃には、人生のすべてのものが詩に集約されているという、アイロニー的なものを感じ、深い意味を持っていると思いました。
この小説は独白なのですが、それを変えないと映画にはできないと感じました。
アメリカの詩人、ロバート・フロストの詩と、原作の内容がとても重複する部分が多く、それをイメージして新しいものを作り出しました。」

ーー豊という人物は、好青年かつエリートでありながら、心に空虚さを抱いています。そうしたキャラクター作りについて、豊役の西島秀俊さんとはどのようなやり取りをしましたか?
また、監督にとって豊はどのような存在ですか?

「豊という人物は、色々な事の象徴的なキャラクターだと思います。
女性ももちろんですが、男性は社会に対して様々なプレッシャーを感じています。それは何故かというと、自分の理想としているものと現実と差が生じ、自分の頭で考えている事と体で考えている事が違う事への焦燥感や、喜びといった面を、豊を通して皆さんに見せたかったのです。
いつも人間は夢や理想などを選択する訳ですが、豊はその代表という事です。
彼は外見は凄く好青年ですが、中身は燃えるような欲望を抱えています。
西島さんとは、そこをどう演じるかという事について話し合いました。」

ーー監督ご自身が中山美穂さんにラブコールを送ったそうですが、実際どのような印象を持たれていたのでしょうか?また、実際に撮影するにあたって、印象はどのように変化しましたか?

「中山美穂さんを初めて知ったのは、『ラブレター』でした。あの作品を観て、私は彼女に汚れのないものを感じました。
今回、一緒に仕事をする事になりましたが、彼女は大変人間的に魅力を持った人でした。ただ、本心をなかなか見せてくれないというミステリアスな部分もあり、色々な意味で魅力的な人です。
透明感のある強さとでも言いますか、ずっと見てしまうような、よそ見をできないものを持った方です。
一番大変だったのは、彼女のアイメイクでした。目をどう生かすかという事が難しく、手こずってしまったのです。
また、演技に入るとあまりに表現が繊細なので驚いてしまいました。」

ーー原作「サヨナライツカ」の著者である辻仁成さんとは、映画化にあたり、どのようなお話をされたのでしょうか?

「パリに住んでいらっしゃる辻さんに、脚本の初稿をお送りしてからは、辻さん自身から“こうして欲しい”といった事はありませんでした。ただ、初稿をお送りした時に、直筆で“おめでとうございます。映画はあなたのものですから、あなたが自由に作って下さい”という内容の手紙を頂きました。」

ーーシナリオ自体は3年前にできていたと伺っていますが、そこから大きく変化した点はありますか?

「初稿をお送りしたのが2007年の5月でした。私はシナリオを書いている時もどんどん変化していきますし、撮影している時も、シナリオ通りには撮らずに進化させていくので、最初に出来上がったシナリオからは随分違うものになっています。」

ーー 沓子と光子が直接対面するシーンは原作にはないものでしたが、映画に取り入れたのは何故ですか?

「独白形式の小説を映画化するという事は容易な事ではなく、この二人の対面シーンを取り入れる事により、より小説との違いを出すという狙いがありました。
豊、沓子、光子の三人が、愛や夢や欲望の為に一生懸命努力したという事を表現したかったのです。」

ーー原作者や出演者は日本人であり、監督自身は韓国人であり、ロケ地はタイというグローバルな撮影状況ですが、作品作りにはどのような影響がありましたか?

「参考までに、私は韓国系のアメリカ人なので、二つの文化の間で育っており、他の文化に触れる事に、あまり不安や恐怖は感じませんでした。他の国の人と仕事をするのが嫌だと言う排他主義的な事がない限りは、今後このような形が映画を作る上でのトレンドになってくると思います。」

ーーロケーションについてのこだわりを教えて下さい

「ロケーション選びをする際には、自分を刺激する何かがないと駄目なのです。
言い表しにくいのですが、何かしらの刺激、それは幅であったり、深さであったり、色であったり、香りであったりもします。体を虜にしてしまうような魅惑的なものがないといけないのです。」

ーー豊、沓子、光子の三人が、愛や夢や欲望の為に一生懸命努力したという事ですが、彼らの中でもっとも努力したのは誰だと思われますか?

「三人三要の努力の仕方があるので、誰が一番という事は言えないのですが、豊は夢の為に、 沓子は愛の為に、光子に関しては色々な事を完成させる為に努力していたと思います。
その中には、家族、社会といったものも入っていたと思います。」

執筆者

池田祐里枝

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