『ポルノスター』で監督デビューを果たして以来、トロント、ロッテルダムなど、世界各国の映画祭で高い評価を受け、日本のみならず、世界でも新作を熱望される監督、豊田利晃。デビュー作から一貫して、閉塞状態からの解放と人間の絆、破壊から再生というテーマを描いてきた豊田利晃が、『空中庭園』から4年ぶりにメガホンをとった。

豊田監督の新作『蘇りの血』は日本伝統の歌舞伎や浄瑠璃の演目にもなっている説話“小栗判官”をモチーフにした寓話の世界である。豊田自身が、紀州・熊野に旅をしていた道中に出会った『蘇生の湯』と伝えられるつぼ湯。その温泉につかって不治の病を治したという小栗判官の説話にインスピレーションを受け、あの世とこの世を往来する人間の「蘇り」の物語が誕生した。人間のもつ生命力の強さ、存在意義を雄弁にスクリーンに焼き付けている。またスタイリッシュでインパクトの強いTWIN TAILの音楽もその崇高さを更なる極みに到達させた。キャストには中村達也、草刈麻有、新井浩文、板尾創路など個性的な面々が揃い、その独特な世界観を見事に体現している。

今回は、本作のメガホンをとった豊田利晃監督にインタビューを行った。



Q:4年ぶりの映画ですね。

「映画としては久しぶりですね。映画の現場に戻らないと分からないこともありますから。僕としてはずっと映画を作りたいと思っていました」

Q:タイトルの「蘇り」という言葉が象徴的です。

「2008年に熊野の壷湯に入った時に、壁に小栗判官のいわれが書いてあって。それを読んでいたら蘇りの伝説が書いてあったんですよ。その蘇りという言葉が面白いなと思って。それでよくよく考えてみたら、自分はどのような作品で蘇るか考えていたと思うんです。
 小栗判官の物語も生と死の物語なんですが、昔の人の物語が僕にはすごく力になるような気がしたんで、それをやろうと思ったんです。人が蘇るという言葉は使うんだけど、人が蘇るシーンなんて観たことがなくて、自分の目で見たいなと思って、蘇りのシーンを作ったんですけどね。あのシーンが一番グッときますね」

Q:豊田作品の常連俳優である板尾創路さんやマメ山田さんなどは、この作品世界の中でいつもより一層浮世離れした感じですね。

「浮き世離れしてる変な人は好きですね。彼らは現代劇でも浮き世離れした感じはあるんですが、この世界観の中でかなりハマってましたね」

Q:テルテ姫役の草刈麻有さんはどのようにして?

「オーディションで今どきの若い女性の方に会わせてもらいました。芝居のうまい娘はいたんだけども、麻有さんは独特のオーラというか、凛としたものがあって。ご両親が草刈正雄さんと大塚悦子さんというのもあったんでしょうが、この映画の姫という設定にはピッタリだなと思ったんですよ。彼女は現場でも、宿に泊まってる男たちはほとんど入れ墨が入っていましたからね。あの入れ墨の男たちの間で嫌な顔ひとつせず、よく頑張ったなと思いますよ。大物だと思いますね。だから、彼女に出会えた僕の方がラッキーだったと思います。これから上がっていく女優さんに出会えたのは、この映画にとってもすごくラッキーでしたね」

Q:スローモーション映像や、バックに流れるドラムのリズムなどが絶妙に絡み合って、うねるような感覚があったんですが、画面と音との相乗効果ということはどうやって考えているんですか?

「それは作ろうと思って作れないんですよ。日常のあり方だと思うんです。(中村とは)3、4年ほど一緒にライブをやってきて、きっちりとコミュニケーションをとってきたので、僕の中にはあの音楽が血のように流れているんですよ。だからあれを意図的にやろうと思っても出来ないですね。今回はずっと観ていたいという気分が強かったですね」

Q:やはりあのドラムの話を聞いておきたいんですが、中村さんとはどのようなやりとりが?

「こういうようにして欲しいとは伝えているんですけど、でも彼は言うことを聞かないですから(笑)。でかいモニターをドラムの前に置いて、ベースがいて、バイオリンがいて。ここからここまで映像に合わせて、せーの、という感じですね。あっという間に半日で終わっちゃいましたけどね」

Q:そこらへんは慣れですか?

「慣れているのと、集中力が勝負なので、そんなにテイクが録れないんですよ。1回目でほとんど決まる。2回目になると、自分のやることをなぞることになるから嫌だとおっしゃられてですね(笑)。でも思ったよりもすごくいい音が出ていて良かったですね」

Q:今回、新しくチャレンジした部分は?

「今まで都市生活者の話をやってきたので、エコロジーとは違う、自然の荒々しい秘境の自然に入っていったのは新しい挑戦でしたね。それを捕まえることが出来るのかどうかが、僕自身に試されていたと思うんです。捕まえられたのか、巻き込まれたのかは分かりませんが、何かは写ってるとは思います。
 今まで都市生活者の閉息的な暮らしだったり、人のつながりだったりといったものを描いてきて、そこから抜け出すというか、突破する物語だったのが、今回は180度変わって、自然の中での本当に荒々しいエネルギーだったり、人間の心の奥に潜む力だったりを描いていますからね。そういうものが、渋谷という街に対しての、コインの裏表みたいに真逆にあると思うんですよ。それで、自然の世界と人間の世界では、閉息的な世界からの突破口になるヒントがあるんじゃないかとずっと思っていたんですよ。実はコインの裏表で、テーマとしては何も変わってないですね」

Q:自然に向かうのは必然的だったと思いますか?

「映画界から離れることがなかったら、この映画を撮ることもなかったですからね。そういう意味では必然的だったのかもしれないですね。離れている間に山の中で暮らすという体験がなかったら、こういう映画を作ってなかったかもしれないですからね。それはきっとこれから、現代ものをやると思うんですけど、今までとはまた違う風景を見せられるんじゃないかなと思います」

Q:次の展開は?

「まだ何も考えていないんですが、やはり現代劇をやりたいですね」

Q:また4年も待たされるということはないですよね。

「そうですね(笑)。もう4年も休んだんで、ここ5年くらいは数を撮っていきたいですね。モチベーションはいっぱいありますから」

執筆者

壬生 智裕

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