あらゆるメディアに取り上げられ、流行語大賞TOP10入りを果たした『蟹工船』。80年前のプロレタリア文学の名作が、その構造は残しながらも、大胆な現代的アレンジを施し映画となって現代に蘇る! 主演の虐げられる労働者役に松田龍平、労働者たちを酷使する鬼監督役には西島秀俊、そのほか一躍注目を集める若手俳優、高良健吾、新井宏文、柄本時生、そして本作が映画初出演のTKOを迎えた超話題作だ。

今回は、本作で脚本・監督を担当し、各国の映画祭で注目を集める異才SABU監督にインタビューを敢行した。


−−SABU監督と「蟹工船」という組み合わせが意外に感じました。

「でも実は原作を読んだことがなくて。『蟹光線』? と思ってたんですよ(笑)」

−−今まで疾走する人たちを描いてきたイメージがあったので、逆に密室劇にしてみたらどうなるのかというところも狙ったんでしょうか?

「そういうのもあったかもしれないですね」

−−密室劇ということでのやりにくさは?

「それはあるだろうなと思ったんで、どこから撮っても面白く見えるようなセットを作ってもらったんです。廃墟のようなセットにしたかったんですよ。蒸気がプシューッと出るのがカッコいいかなと思ってて。ほとんど美術が主役という感じでしたね。まずみんなセットに入ると圧倒されるんですよ。すごい映画だと。
 照明も、特別にキャッチライトを誰かに当てるのではなくて、暗い人はずっと暗いといった感じでしたね。たまたま隙間から光が当たってるような空間を作ってもらったんです。だから俳優にもフードとかもずっとかぶってくれと言ってました。カメラマンも撮りながらこれはまずいでしょ、とか言ってたくらいですからね。
 でもそれがリアリティが出たりするかなと思っていたので。そこに立った人が当たりみたいな。それでも(松田)龍平君なんかは、いい場所に立つんですよ。偶然なんですが、すごいと思いますね」

−−ところで本作は足利で撮影したそうですが、海のない場所で海の話を撮るというのが面白いですね。

「確かにそうですね。僕は船酔いをしてしまうので、最初から海には行かないと言ってたんです(笑)。もちろんお金がかかるから出来なかったとうのもありますけど。
 毎回、ボランティアでいろんな人が来てくれるんですけど、いつも来てくれる人が違うんですよ。しかも同じ衣装を着てもらうんですけど、昨日来たハゲた人いないじゃんといったことが起きるんですよ(笑)。後から聞いたらその人、住職だったらしいんですけど、エキストラに喜んで来てくれまして。でも毎回来る人が違うんで、大変だったんですよね」

−−それでは、よく見たら違う人が写っているという。

「そうなんですよ。全然違う人が写ってますね。今回のロケ地は住宅地の真ん中にあるところなんですけど、外に駐車場があって。そこにデッキの部分を作ってもらって。前の部分だけを作って。先っちょはCGで足したんで。そこも西島(秀俊)さんが『日本帝国万歳!』とか叫んでいるシーンがあるんですが、そこでみんなで大合唱してましたね。しかも昼間に。面白かったんで、ずっとカットをかけずに見てたんですが(笑)」

−−ところでSABU監督といえば、もともと役者の出身でしたが、最近はどうなんでしょうか?

「話があったらやるんですけどね。プロデューサーはオッケーしてくれるんですけど、監督が嫌がるんですよ。自分の現場を見られるのが嫌なんでしょうね。三池(崇史)さんくらいですね。平気なのは」

−−役者としてのSABU監督も存在感があるので、もったいない気もします。

「でも今は監督の方が面白いですからね。責任をちゃんと持って、全部自分で決められるというのが面白いんですよ」

執筆者

壬生智裕

関連作品

http://data.cinematopics.com/?p=47472