映画・TV・CM・オペラ演出・文筆業など様々な分野で活躍し惜しまれつつ逝った鬼才・実相寺昭雄が1970年代に発表し問題になった短編小説を、さとう珠緒を主演に迎え、映画化されることとなった。

 一見幸せそうな夫婦達が抱える問題。それは誰もが感じている夫婦間のタブー。お互いに愛し合い求めあっていてもすれ違っていく夫婦。二人には明かすことの出来ない秘密があった。

 夫は仕事のストレスからEDにおかされ、妻の愛情と向き合う事が出来なくなってくる。彼は近隣の夫達と共に秘密クラブに入り、「男の自立」として自慰の世界を追求し始める。一方で、夫の愛を取り戻そうとする妻はその美しい肉体をもてあましてしまっていた。男と女の思惑はすれ違い、交わることもないまま、二人に暗い影がしのびよるのだった……。

やがて、それは悲劇の幕開けとなっていく。

『帝都物語』『ウルトラマン』の監督としても知られる実相寺だが、ATGでの『無常』『曼陀羅』等の文藝エロス作品も得意とし、いくつかの官能小説も出版している。その才能は今読み返しても、社会を風刺し、滑稽で巧妙なストーリーで読む者を魅了する。本作以外にも、『東京デカメロン』、『いろかぶれ枕草紙』など、タイトル的な面白さも加味した作品群が存在し、コアな人気を誇っている。79年に日活ロマンポルノで一度映画化された本作だが、現代的な切り口とニュアンスをもって描き出し、より衝撃的な倒錯した性の世界を提示する。

主演はバラエティ番組等、テレビや映画などで活躍中のさとう珠緒。大人の女性として、EDの夫の叱咤激励に奔走する。夫役は名作『家族ゲーム』の主演を始め、ドラマ、映画では貴重なバイプレーヤーとして活躍する宮川一朗太。他に、伊藤克信、イジリー岡田、桜 金造ら個性的な俳優が脇を固める。女性陣も川村亜紀、範田紗々らが新たな実相寺ワールドの創成に彩りを添える。今回、監督の高橋巖を始めとした実相寺門下の若いスタッフが集結し、実相寺昭雄の意志を引き継ぎここに新たな『希望ヶ丘夫婦戦争』を完成させた。

今回は主演のさとう珠緒さんにインタビューを行った。



−−かつてロマンポルノで映画化されたこともあり、片桐夕子さんが出演していた実相寺昭雄監督の同名小説が原作です。今回そのリメイク版に出演されるということで、さとう珠緒さんと実相寺作品との接点が意外な感じもしたんですが。

「実相寺監督ですが、実は以前に『ウルトラQ』にゲストで出たことがあるんです。シュールな話で、今でも思い出に残っている作品なんですよね。リアルじゃないはずなのに哲学的で、人間の本質を突いているんですよ。そういうところが好きでした」

−−今回は実相寺監督に師事していた高橋監督がメガホンをとり、スタッフも実相寺組が集結したわけですが、高橋監督はどんな方なんですか?

「ほんわかした感じの人ですね。だから私のほんわかしたところを引き出してもらったという感じですね。物知りで知的な方なんですけど、普段はそういうのをまったく見せない方で。
 実相寺組は温かくて、やりやすかったですね。時間がなくてタイトになると険悪なムードになりがちなんですけど、そういうのがまったくなくて」

−−高橋監督とのやりとりはどうだったんですか?

「私の中ではもっとポップな感じにいくのかなと思ってたんですけど、監督はナチュラルな感じがいいと。役作りについてはあまり言われてないですね。そのままでいい、と言われました」

−−悩める若妻という役まわりでしたが、自分と重なる部分はありましたか?

「重なりますね。人の意見に流されやすいというか。私にもそういう部分はあると思います」

−−さとうさんがエロティックな作品に出演するということで、ある種の驚きがあったんですが、こういう作品に出演することに抵抗はなかったんですか?

「まったくないです。むしろもっと日本にもこういう映画があってもいいんじゃないかなと思うくらいで。テレビだったら規制はあるでしょうけど映画ですからね。『セックス・アンド・ザ・シティ』みたいな作品はもっとあってもいいと思うんですけどね」

−−この作品もエロティックというよりは可愛らしい感じの映画でしたもんね。ところでバラエティでも活躍されているさとうさんにとって、お芝居はどのような位置を占めているんですか?

「お芝居は好きですね。役つくりでキャラクターをどのようにしようかと考えるのも好きですし、こういうナチュラルに芝居をするような作品も好きですしね。映画でもテレビドラマでも、脚本を読んで面白いなと思えるような作品に出たいですよね」

−−話は変わりますが、さとうさんは映画とかはよく観るんですか?

「高校生の頃はユーロスペースの会員でした。キューブリックの作品とかを観てましたね。その頃は意外にそういうのが好きだったんですよね。最近は映画をあまり観ていないんですけどね。
 でも最近はギョーム・ドパルデューの映画(『ベルサイユの子』)を観る前に彼の出演作をまとめてDVDで観たりもしましたし、『ムーン』とかも観に行きました」

執筆者

壬生智裕

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