第21回東京国際映画祭・単独インタビュー:『がんばればいいこともある』最優秀女優賞受賞;女優フェリシテ・ウワシーインタビュー
本作『がんばればいいことがある』の監督は、1950年フランスのランド県に生まれたデュペイロン。監督・脚本家としての主な作品には89年のセザール賞最優秀新人監督賞を受賞した『夜のめぐり逢い』『うつくしい人生』『将校たちの部屋』。そして2003年のヴェネチア映画祭で観客賞を受賞した、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』などがある。
本作『がんばればいいことがある』で力強く生きる主人公の女性を演じ、第21回東京国際映画祭にて「最優秀女優賞」をフェリシテ・ウワシー受賞した、女優フェリシテ・ウワシーさん。この日着用していたのは、クリスチャン・ラクロワの素敵なピンクのお洋服。
彼女の演じた主人公のソニアは、既婚で4人の子持ち。在宅サポートをする仕事をしている。そんな彼女の娘の結婚式の日に驚きの出来事が起こる!次から次へと引き起こされるさまざまな問題。その問題にぶち当たるたびに、主人公のソニアはこのようなことを自分自身に言い聞かせる。「解決策は必ずある」と。本作には、パリの通りでよくみかける若い黒人やアラビアの女性に伴われた白人の老人たちの社会的現象もおりこまれており、多くのことを考えさせられる作品となっている。
本作の役とは一味違う、話の節々に力強さのあるコメントをして下さった、女優フェリシテ・ウワシーさんからお話を伺った。
Q:主人公のソニアという女性は、様々な女性としての顔を持つ役柄だったと思います。既婚の4人の子供たちの母親のソニア、仕事をするソニア、時には、恋する女性としてのソニア。本作では、女性として様々な面を演じ、大変だったかと思いますが、役を演じるにあたっての苦悩はあったでしょうか?
A:難しかったのは、ヌードのシーンよ。実際に撮影スタッフが50人もいて大変だったわ。大勢のスタッフからじろじろみられながら、撮影をする気持ちはわかるでしょ?(笑) あの2人のシーンは、50人のスタッフがいないつもりになり、「今は二人きり」と思いながら、じっと相手の目を見つめながら演技したわ。実際に、私には14歳の息子がいるの。私の息子がどのような気持ちになるのかを最も考えたわ。だって、もし息子の学校で、映画が上映されて、息子の友達から、「お母さんの胸みちゃったよ」といわれてしまったら、かわいそうでしょう?(笑)でも、そうは思いながらも、やはりこの映画自体に大変な愛情と情熱を持っていたので、このシーンに応じたわ。
Q:主人公ソニアの演じた「母親」の姿というのは、私生活においてのウワシーさん自身の「母親」の姿を参考にして、演じたものでしょうか?
A:私自身と、ソニアという「母親」としてはだいぶ違うの。それは、状況が全く違うからよ。ソニアは「父親」という大事な要を失ったことで、ソニアの家族をバラバラにした原因になったと思うわ。
Q:映画の内容は様々なシリアスな内容もおりこんである作品だったとは思いますが、現場の雰囲気はいかがだったのでしょうか?
A:監督は「いかにもつくられたという映画をつくりたくない」と言っていたの。皆で作っていこうって。だから映画の主人公たちが、どのような人生なのかを皆で考えながら作るという、環境の中で映画に携わることが出来わ。
そして、父親と息子の喧嘩シーンは、毎回本気で喧嘩をしているかのような勢いになり、演技をしているというよりも、実際にその役になってしまっていたわ。それで、私も間に入り止めるのだけれども、思わず私も本気になってしまって、役名ではなく本名をよんでしまったわ。「やめなさい!」「あなたたちクレイジーよ!セットを壊してしまう気なの?」って。それだけ、彼らは本当に素でその役になりきり本気だったというわけ。あの現場の雰囲気はそのシーンに伝わっていると思うわ。それが監督の言うところの、「ただ演技をするのではなく、その人になりきり、その人の人生をやってほしい」というものね。そして私は本当の母親というものになる瞬間を、監督はじわじわ待ちながら、カメラを回していたんだと思うわ。例えば、レオ(息子)の高い屋上の端っこを1人歩いているシーン。ソニアが大きな声を上げて怒るシーンがあったと思うけれども、本来台本にはそのような本気で怒りわめくというものではなかったの。その怒りには、ホッとした部分と「危ないでしょ」と心配して怒るという思いがこもっているのよ。「母親」という気持ちだけは、ソニアも私自身も一緒なのかもね。監督は、レオを怒るシーンに関して「乱暴にやりすぎではないのか?」と言ったのだけれども、私は「母親というものを優しくやっていたら、そんなものは存在しないのよ。それは、ライオンであっても、猫であっても、動物でも、子供を心配する母親というのは、思わず無我夢中に乱暴になってしまうものなのよ」と、と言ったわ。
Q:今後はどのような女優になりたいとおもいますか?
A:悪い、悪い、悪い女の役をやりたいわ(笑)
Q:本作の見所はなんでしょうか?
A:答えは、映画の中にあるソニアが「always solution」=「解決策はあるわ」という台詞。この言葉を信じていれば、何でも立ち向かっていけると思うの。そして、最後のシーンで、映画『風と共に去りぬ』の台詞の中であったように、「明日があるわ。」という言葉もね。それを信じている限り、何でも乗り越えることが出来ると、思い起こしてみてほしいとおもうわ。人生には問題がつきものだってことを認めなくちゃ。でも、その問題に関して必ず解決策はあるの。勿論、なるべく子供たちには多くの問題が起きてほしくないと思っているわ。子供たちには、困難を目の当たりにしてほしくないと思うわ。チャンスを持って生まれたわけだから。今の世代の子供たちは、寝る場所・食べ物など全てのものを手にしていて全く不自由せずに暮らして、その有難さを忘れてしまっていることは問題だとは思うわ。今、フランスでは移民の第3世代。ファーストネーションが移動してきた時は、彼らはものすごく頑張って働いていた。その2世代目も、そんな親の姿をみて頑張って働いていた。だけど、第3世代というのは、親たちが苦労してきたことをすっかり忘れているかのように、夢ばかり見ていて、それを見つけようともしないであぐらをかいて暮らしている。努力が足りないわ。不自由なく暮らせるようにと、働きづめになり懸命に働いていた世代があったことを忘れてしまっている。学校に行けるのも当たり前のように。せっかく教育をうけるというチャンスがあるのに、学校なんてつまらないから行きたくないという態度をとってしまっている。感謝もなく、受け入れてしまっていることに問題があるわ。日本のドキュメンタリーをみたのだけれども、それはきっと日本の子供たちにも同じことがいえると思うわ。問題を乗り越えていくことは大切だと思うわ。人間は、困難をのりこえることで成長できるのだと思うのよ。
執筆者
大倉真理子