写真に写った不気味な白いモヤ。ファインダー越しに目に飛び込んでくる女性。物言わぬ“彼女”の存在は現実なのか、幻なのか?  “彼女”は、いったい何を伝えようとしているのか!?

 全米で公開されるや初登場でトップ3にランクインするスマッシュ・ヒットを記録。“スピリチュアル・スリラー”というかつてないタイプの作品として注目を集めた『シャッター』が、いよいよ日本上陸! アメリカが驚愕・戦慄した衝撃の事実が、ついにここに明かされる。

 心霊写真の身も凍るほどの不気味さ。得体の知れないものへの恐怖。意外な過去が明らかになる謎解きミステリー。そして復讐という形でしか体現できなかった身を裂かれるほど切なく悲劇的なロマンス。多彩なエッセンスが絡まり合ってスリリングなドラマは進行する。サスペンスフルな展開と、スタイリッシュかつショッキングなビジュアルの融合。緊張感が目を釘づけにし、心の闇が見えてくる意外な結末まで目が離せない。人間の内面に深く切り込んだストーリーは、まさにスピリチュアル・スリラー。

 また、オール日本ロケを行なったハリウッド作品という点も、特筆すべきポイント。東京や箱根などの日本的な風景により、そこでしか醸し出せないムードが活かされ、なおかつハリウッド映画ならではの歯切れのよいリズムが保たれている点こそが、この映画しか出せないオリジナリティとなっている。わかりやすいショック・ビジュアルが先立つアメリカン・ホラーや、怪談的な要素が優先されるジャパニーズ・ホラーとはひと味違うハイブリッドな魅力が、そこには確かに息づいているのだ。

 俳優陣は日米からキャスティング。注目は奥菜恵の熱演。物語のキーパーソン、メグミに扮した彼女はセリフが少ないながらも、謎や情念、切なさを見事に体現し、全米の観客を震え上がらせ、また共感を誘った。その圧倒的な存在感は、堂々たるハリウッド・デビューといえる。一方、ハリウッドからはTVシリーズ「ドーソンズ・クリーク」のジョシュア・ジャクソン、『トランスフォーマー』の注目女優レイチェル・テイラーの若手コンビが、不条理な事件に見舞われる新婚夫婦ベンとジェーン役で出演。恐怖や焦燥、探究心を体現してみせる彼らの好演は観客の心を引きつけ、未知の世界へと誘う。この他、日本からは宮崎美子や山本圭といった演技派が出演。ドラマに独特の空気を与えている。

さらに製作総指揮に『ジャンパー』等を手がけた大物プロデューサー、アーノン・ミルチャン。そして製作には『リング』『呪怨』の大ヒットにより、ハリウッドが最も注目する日本人のひとりである一瀬隆重と、リメイク版『ザ・リング』を手がけたロイ・リーという、まさしく鉄壁の布陣。気鋭のジャパニーズ・クリエイターたちを中心とした一流のスタッフ、キャストが挑戦することを恐れず、一丸となった結果、言葉の壁を超え、これまでにない斬新な作品を生み出した。

 監督はテレビ界で辣腕ぶりを発揮し、『パラサイト・イヴ』で映画に進出した落合正幸。日本でも大きな話題となった『感染』がアメリカでも公開、ハリウッドでも注目を浴びていた彼が、本作でも現代性を敏感にとらえたドラマ作りの手腕を遺憾なく発揮した。今回はその落合正幸監督にお話を伺った。





本作のプロデューサーが一瀬隆重さんということで、日本で撮影したハリウッド映画『THE JUON/呪怨』のスタイルを踏襲しているように思うのですが、このスタイルのやりやすさ、やりにくさはどんなところにあるのでしょうか?

「日本の監督は恵まれていて、個人の感性で作れるというのがあります。必ずしも全部がそうだとは言いませんが。それに比べてアメリカの場合は合議制で進めるので、ひとつひとつ評価を受けながら作業を進めるわけなんです。
 仕上げのときに向こうではテスト試写なんかをやるわけです。それに対してのリポートもあがってきます。そういうのも専門の会社が仕切ってやっているんです。映画に対する見られ方、見え方なんかもデータをとってるんです。それは良し悪しがあるでしょうが、少なくともテストスクリーニングをするということは、生のお客さんに見てもらうということだから、劇場の空気だけでも分かります。そういうところを嗅ぎとったところで、また編集をやり直すことができます。日本の場合は完成したら、いきなり試写会ですからね。
 これはロードショーという言葉の成り立ちからしてそうですよね。地方を巡業して見せていって、最終的に大都市でダビングしたものを公開するという。だからアメリカのシステムはより産業的であるということですよね」

ハリウッド映画はお客の反応によって、ラストシーンまで変わることもあるそうですが、この映画で内容が変わった部分は?

「数え切れないほどありました(笑)。具体的に1個や2個だけというものじゃなかったですね。大きく言うと、心霊写真の捉え方の違いですね。日本人が慣れ親しんでいる心霊写真というのは被写体の奥の方に立っていますよね。アメリカではそういう幽霊は気が弱くて、何もしない幽霊だと思われてしまうんですよ。
 アメリカの幽霊というものは家や建物にとり憑いているものであり、そこに進入した人間と対決するものなんです。人間にとり憑くという概念がありません。人間にとり憑くのは悪魔ですからね。仮に人間にとり憑くことがあったとしても、それは戦いの一部であって、自分をあやめた人間にとり憑いて、恨めしやというのとはまったく違うものなんです。
 アメリカ人─いわば、狩猟民族が怖いと思う幽霊に近づかないと、製作側の真意が伝わらない可能性が強い。そういう懸念から内容を変えたり、作り直したりもしましたね。そういうことなんかもみんなで話し合えるところが合議制のメリットなんですが、ハリウッド映画の何が違うかといえば、そういうところから作り出している作品だということですよね。そういう意味では、誰にでも分かる映画になっているということです」

劇中にはいろいろな心霊写真が登場してきましたが、本物の心霊写真は混ざってるんですか?

「本物だと言われているものを複製して使っているものが一部あります。ただ、そういうのは3つの染みがあれば人間の顔に見えてしまうものですからね。
 僕の好きな考え方で言えば、そういうのは人間の脳が見せているものだと思うんですよ。人間というのは何かしらの殺生をして生きているわけですから、心霊写真のようなものに無意識のうちに不安感や恐れのようなものがあると思うんですよね」

心霊写真を題材にしているということで、お払いはされたのでしょうか?

「どんな映画でも、撮影が滞りなく進むように、事故が起こらないようにお払いはするんですよ。スタジオにも神様がいますからね。しておかないと、後で気になりますからね」

今回はアメリカ人のスタッフが多かったと思うんですが、アメリカではそういうお払いの習慣はないんでしょうか? 

「ないですね。実は撮影のときにはアメリカ人スタッフはそれほど多くなかったんですよ。ハリウッドの役者には、ハリウッドの組合の人間しか触ってはいけないという規則があるので、メークアップアーティストくらいですかね。それと助監督やプロデューサーとか。でもほとんどが日本人スタッフでした。
 ハリウッド映画ということで、スケジュールの管理やお金の流れなどがあちらの人に分かるように、ということはありましたが、それ以外は日本映画とほとんど変わりはないですね」

アメリカ人にとっては、『リング』の貞子の存在というのが大きいように思うのですが。

「僕たちにとっては、髪が黒くて白い服をきた女性は怖いという概念があるんだけど、そういう概念はアメリカ人にとっては初めてだったわけでね。あれは貞子のキャラクターという認識しかないわけですよ。だからまたそれをやるとパロディをやっているように思われる。だからそれからなるべく離れたものにして欲しいと、プロデューサに最初に言われましたね」

そういう意味では奥菜(恵)さんのビジュアルはどうだったんでしょうか?

「こちらからもいろいろ案を出したわけです。それで何度も衣裳が変わりましたね。髪が長くなったり、やっぱりやめようとなったり、いろいろですよね。怖いものというのは日本人には生理的に決まってるわけですからね。
 それと日本の幽霊には通常足がなく描かれてきたので、幽霊に履き物を履かせるかどうかがとても重要になる。だから、最初に路上に立っているときに、素足で立っているのと、靴を履いて立っているのでは、意味あいとしてはまったく違ってくるわけです。
 ただ、細かい文化論を戦わせても不毛なので、大まかなところで話を合わせていくしかないんですよね。この映画にとっては、ショッキングな部分も大切なんだけども、それよりも夫婦の絆が様々な事件によって2転3転していく、まずはそこを大切に描きました」

監督は一瀬隆重プロデューサーとよく組んでいらっしゃいますが、お互いどういう存在なんでしょうか?

「世代が近いんですよ。『ウルトラQ』や『ウルトラマン』『トワイライトゾーン』なんかを見て育っているから、その辺の生理感覚とか、闇の部分なんかは似ていますよね。(脚本家の)君塚良一なんかは中学生の同級生なんですけど、『世にも奇妙な物語』の時がそうだったんですよ。大まかなことを決めてしまえば、あとはすぐにわかるという幸福な状態でした。しかも数も多かったですからね。そうでないとあの番組はできなかったでしょうね。
 有言実行なプロデューサーがなかなかいない中、『感染』という作品は一瀬プロデューサーがいたからこそ出来上がった作品だと思います。DVDでは出来たかもしれませんが、あれだけ大きな規模で公開出来たのは彼の力でしょうね。
 今回はストーリーや編集をどうするか決める、そんな細かいところを1から交渉しないといけない中で、よく彼がハリウッドでやっていけるなと思いましたね。僕だったら、胃が痛くなってしまって、胃に穴が開いちゃいますよ(笑)」

執筆者

壬生智裕

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