イラクから帰還したばかりの若い兵士が失踪直後に焼死体で発見された。父親自身が真相を捜索し、3小隊の戦闘員が殺人罪で告発されるという悲惨な記録……。
これは、米プレイボーイ誌の記事“Death and Dishonor”に書かれた、実際に起こった事件である。

日本人を観察する宇宙人のキャラクターで大人気の缶コーヒーBOSSのCMの続投も決まり、本年度アカデミー賞の主演男優賞にもノミネートされた映画『告発のとき』の公開(6月28日より有楽座ほか全国ロードショー)を待つトミー・リー・ジョーンズ。
戦争・愛国心・正義など様々なテーマが深く描かれている本作に感銘を受け、即出演を決めたという彼が、地元テキサスでインタビューに答えてくれた。



——この映画に出演したきっかけを教えて下さい。
この映画の監督で脚本家のポール・ハギスが、僕に主演のハンクの役をやってくれないかと誘ってきたんだ。でも僕はポールの事を良く知らなかったから彼の映画『クラッシュ』を観たんだよ。あの映画はとてもよく出来ていたし、脚本もしっかり読んでみてただ出演しようと決めたんだよ。題材がとても魅力的だったし、僕はこの映画のロケ地になったニューメキシコがとても好きだったんだ。

——オスカーにノミネートされた時の心境について教えて下さい。
どう感じたか・・・よくわからないんだ。発表があったのは早い時間帯だったからまだ寝ていたんだよ。妻が起こしてくれて、ノミネートされた事を教えてくれたんだけど、僕はまた眠ってしまったんだ。だから、その時の僕の心境は“眠い”だったね。でも、認められることはいいことだね。でもその興奮もあまり長くは続かないけどね。

——この映画は、実際に起こった事件を基にしているのですが、あなたが主演男優賞にノミネートされたハンクという人物像を教えて下さい。
この映画の準備をしているときに、この実話に関わった人達と話したり、帰還兵たちのドキュメンタリーを見たりしたよ。それからとにかく台本を読んで、彼の置かれた環境や他の役者との関係をみて、監督が何を求めているかを考えながら気をつけて演じたね。ハンクは働き者の元軍人で、とても愛国心が強いんだ。不透明な愛国心なんだけどね。でも彼は国が彼や彼の息子をどこに送るかや何のためにそこに送られるかはあまり深く考えていないんだ。彼はまじめな一方でヒスパニック系の人達に偏見をもっていた。そういった要素が、彼も危険な人物になりうるという意味をもったと思う。

——実力派が集結したと言われているキャストですが、共演者はどうでしたか?
シャーリーズ・セロンは一緒に仕事をするには最高の人だよ。楽しいし、いつもハッピーだし、一緒に居てとても楽しい存在。それにとても美しい。彼女は、美しくても落ち着いているんだ。スーザン・サランドンとはとてもいい友達だよ。彼女とは以前に一緒に仕事をしたことがある仲だから、気心が知れていて、彼女と居るときもとても楽しいんだよ。彼女もとても美しいしね。

——イラク戦争の帰還兵が心を病み、事件を起こす。そして家族が深い悲しみにつつまれる。戦争が人々の心に何を与えるかという『告発のとき』が描いているテーマについては、どう思いますか?
この映画のテーマはすべてのアメリカ人に何らかの影響を与えていると思うよ。みんな疑問に思っている事がある。でもそれより、その疑問に答えられないという結果のほうが影響深いと思うんだ。しっかりとした基礎の部分がないまま戦争をしてしまっているから、みんな不透明な愛国心を持ってしまっていた。どう表現していいのか分からないけど、沢山の人はサダム・フセインが沢山の武器を持って大規模な破壊をしようとしていたとか、アルカイダが僕たちのオフィスを破壊しようとしていたと思っていたから戦争をしないといけないと確信していたんだ。僕たちはそう信じて良かったし、そう信じるようになっていたんだよ。そんなくすんだ考え方の結果がこの映画なんだ。戦争は人を狂わせたりしないと思うよ。人が戦争に行く理由なんて説明できない。たぶんまだ解明されていないと思う。もしかしたら、戦争に行くいい理由を知っている人はいるかもしれない。自分自身の中だけで本当の理由をとどめておくのが良いことだと思うよ。人を戦争に送った人達が、アルカイダやサダム・フセインが大規模な破壊を考えていたと思っていたとは思えないよ。

——映画撮影中に大変だったことはありますか?
ロケ地のアルバカーキは、とてもうるさい町だというのが一番だね。でも、サンタフェの北にあるタスーキーという小さな村でいい家を見つけた。僕と妻がニューメキシコで何度か使った家で、僕たちがとても気に入った家だったんだけど、タスーキーからアルバカーキは、車で約1時間はかかるんだ。毎日撮影で働いたからね。行き帰りを自分で2時間運転して通ったわけだ。でもその価値はあったよ。その車通勤が一つのチャレンジだったね。大変だった事はそれくらいだった。

——お茶の間で大人気のBOSSのCMについて・・・
僕はサントリーととてもいい関係を築いているんだよ。僕はこの関係が長くずっと続けばいいと思っているよ。サントリーやあのCMを作っている人達と働くのはとても楽しいよ。人気のあるCMだと聞いたこともあるし。いくつかのヴァージョンの中で、悪い映画でサムライを演じるシーンがあったんだけどあれは楽しかったな。BOSSのCMは日本でもアメリカでも撮影をしてるんだよ。

——日本の印象は・・・
日本は好きだよ。映画のプロモーションやCMの撮影の為に行くんだけど、いつも1週間長くいて、京都に行ったりするんだよ。劇場に行って歌舞伎や能を見たりするのが好きなんだ。劇場なんかもよく造られているしね。

——『告発のとき』を観てほしい観客にメッセージをお願いします。
映画を観ていくうちに段々と登場人物達との共通点を見つけるようになっていくと思うので、できれば2回以上観てほしいね。2度目はもっともっと良くなっていくと思うよ。登場人物達が感じている事は、アメリカ人がみんな感じている事なんだ。映画を観て、こういう問題について一度は考えてほしいと思います。

執筆者

Naomi Kanno

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