‘きっと出口はある’映画『今夜、列車は走る』のニコラス・トゥオッツォ監督来日インタビュー
アルゼンチンのニコラス・トゥオッツォ監督が、34歳にして撮った初の長編映画『今夜、列車は走る』が2008年4月12日より渋谷ユーロスペースにて公開される。今、第二のニューシネマブームと言われているアルゼンチンでは、若手監督たちが、自らの経験と想像力を元に脚本を書き、低予算で独立系作品を作りだしている。そのニューシネマの旗手たちと同年代でありながら、初めて監督する作品に社会的なテーマで挑戦し、ダリオ・グランディネッティを初めとするアルゼンチンの硬派ベテラン俳優を起用したことから、トゥオッツオ監督は、アルゼンチンはもとより、欧米でも注目を集めている。
90年代のアルゼンチンでは、鉄道の民営化によって6万人もが失業した。突然の路線廃止の決定により、最後まで労使交渉を続けた組合代表は自らの命を絶つ。5人の鉄道員たちもまた人生の決断を迫られることになる。明日からの生活のために仕事を探さなければならなくなった大人たちは、現実の厳しさに直面する。抵抗を続ける者、職探しする者、何をしていいのかわからず途方に暮れる者、犯罪に走る者。失意のどん底に落ちていく大人たちを見守っている子どもたちは、「次の出口」へと向かって戦い続けることを宣言し、ある行動に出るのだった。
監督自身のアルゼンチン人としての体験を基に、実際に起きた出来事を絡め描いたこの作品は、2004年のロッテルダム映画祭へと出品され、2004年フランス・アミアン映画祭の観客賞、審査員特別賞、SIGNIS賞など、その他にも数多くの映画祭で入賞を収めた。
公開に先立ち、ニコラス・トゥオッツォ監督のインタビューをお届けしよう。
日本公開に関して何かコメントをいただけますか?
本当に日本での公開については驚いています、同時にとても光栄に思っています。これまで欧米各国でもこの映画は上映されてきましたが、アルゼンチンとは地球の裏側に位置する日本で上映されることは、制作当時考えてもみなかったことだからです。この映画のおかげで世界中のいろいろな国に行くことができました。おかげで、世界中のどの国でも社会問題がそれぞれにあるということわかりました。それが先進国であろうが、発展途上国であろうが。
この映画はサン・ルイスの脚本コンクールで優勝し、サン・ルイスの人を俳優、技術者に起用することを条件として資金援助を受け制作したと聞きました。サン・ルイスの俳優は演技するのも初めてだったということですが、演技指導などで難しかったことは何でしょうか?
サン・ルイスからの出演者も技術者もまったくの素人でしたので、細かく気を使って演出しなければいけなかったです。その中で彼らが一流の俳優に見劣りしないようにしなければならなかった。けれど彼らの演技には新鮮さがあって、逆にそこはいいところだったと思います。
スペイン語のタイトル「Proxima Salida」は「次の出口」という意味ですが、このタイトルに込められた思いはどのようなものでしょうか?
スペイン語の言葉遊びで2つの意味があります。「次に発車する列車」という意味、「次の目的地」という意味です。映画の終わりに子供たちが行動を起こすことも、次のアクションを取るという意味で、タイトルに反映しているでしょうね。
この映画を希望の持てる終わりにしたのはなぜでしょうか?
実際の生活が厳しいからこそ失望や悲しい状況で終わらせるのではなく、観客たちが希望を持てて、明日からも頑張ろうと思えるような映画を作ることがアルゼンチンの状況では大事だからです。
脚本の中でカルロスが職探しをせず、トイレの配管工事に夢中になったのはどのような理由からなのでしょうか?
これは遊びの部分でした。カルロスは配管工事においては全くの素人。失業してしまって、何となく工事を始めたら、最後は配管自体を壊してしまう。カルロスはずっと機関士だったのですが、15歳から50歳までずっとその職業を生業にしてきた。それが失業によって、職業を奪われて、どうしていいかわからなくなってしまった。彼は機関士しか彼の人生でやったことがないのですよ。職探しのために、紹介所に並んでみたけれど、彼より若い人たちばかりそこには並んでいる。だから家に戻って知りもしない配管工事を暇つぶしにやったとも考えられます。
女性たちの強さが描かれていると思ったのですが、絶望的な環境では女性はやはり強いと思いますか?
女性たちは強いと思います。映画の中では失業した男たちは、経済的な問題だけじゃなく、自尊心も失ってしまって弱ってしまう。そんな時に、働いてお金を稼いで帰り、また旦那の尻をたたいて頑張りなさいと励ます彼女たちは強いですよね。
社会派の映画監督というイメージをたくさんの人が持っていると思うのですが、今後も社会的な問題を扱っていく予定でしょうか?
その時々で自分が語りたい物語を語るのが私にとって一番なので、社会的な映画を毎回作るわけではないです。
次回作の映画はどのような内容ですか?
アルゼンチンでは10月に公開するのですが、これは全く社会派の映画ではないです。7つのストーリーが同じアパートのそれぞれの部屋で起こる映画です。同じ場所に住んでいても、こんなに人生は違うんだということを表現したかったので。
執筆者
近藤野里