“私も魔女になれるようがんばっているんです”『西の魔女が死んだ』サチ・パーカー インタビュー
梨木香歩原作100万部の大ベストセラー「西の魔女が死んだ」が待望の映画化を果たした。
中学に進んでまもない夏の初めに、突然学校に行けなくなってしまった主人公<まい>が、森でひとり暮らす“西の魔女”=<おばあちゃん>のもとをたずねるところから物語は展開する。
人より物事に敏感に反応してしまい、ちょっとのことで傷ついてしまう繊細な<まゆ>を、独自の“魔女修行”によって優しく導く<おばあちゃん>を演じ、日本映画デビューを飾ったサチ・パーカー。母に女優シャーリー・マクレーンを持つ彼女に、親子の関係性、そして本作に参加してみての今の率直な気持ちを聞いてみた。
役になりきるために気を使った点は? また、おばあちゃんに共感した部分はどこでしょうか?
共感した部分は、私もこの<おばあちゃん>と同じく、慈悲深い性格のところですかね。友達に原作を読んでもらったんですけれど、独特な世界観を深く感じました。
<おばあちゃん>像は、自分でアイデアを出しながら作っていった感じです。それこそ、歩き方、座り方、話し方いろいろですね。この<おばあちゃん>はすごく丁寧な日本語を話すでしょう? 敬語もね。学校の先生という設定だったのでマナーも良いし、私とはかけ離れた人なんですよ(苦笑)。でもやっと撮影現場の山梨県清里に着いて<おばあちゃん>の家のセットを見たとき、<おばあちゃん>のキャラクターとすぐに溶け込めたんです。それからはもう何も考えなくても大丈夫でしたね。私の体に<おばあちゃん>が入りこんできたし、私も<おばあちゃん>の中に入りこむことができたので……。そのときの経験は本当にすばらしいものでした。
今までも何かによって、とても自然に役に入り込めた経験というのはありましたか?
そのとき、そのときによって違いますね。今回、私はたまたまセットの家を見たときに“ここが私のふるさとなのね”とすぐ<おばあちゃん>の気持ちになることができたけれど、衣裳で役に入り込めるときもありますからね。なかなか役に入り込めずに悩んでしまうこともありますけれど、最後には必ず答えは出てくるんです。
何がきっかけになるかわかりませんけれどね。
この物語は<おばあちゃん>と孫の<まい>の話であると同時に、<おばあちゃん><お母さん><まい>という親子三代の話でもあると思います。ご自身の人生と照らし合わせて何か感じたことはありますか?
おばあちゃんと孫というのは比較的距離のある関係ですから、その分話しやすいんですよね。おばあちゃんとしてもメッセージや直感など、孫にいろいろ教えてあげたいですから。お母さんと娘という親子関係は、どこか複雑なところがありますよね。みんながみんなそうではないけれど、多いと思います。
アメリカでもそうですけれど、お年寄りが老人ホームなどに追いやられてしまうことを私は本当に気の毒に思います。お年寄りは長く生きている分、いろいろなことも知っていますから、それを良い方向に活かせたらいいなと思うんです。
ラストの方で<おばあちゃん>が「私の生き方はオールドファッションなのかもしれませんね」と言いますが、サチさんはあのような生き方をオールドファッションだと思いますか? ご自身の理想の生き方、暮らし方と比べてお話ください。
たしかに<おばあちゃん>のような生き方は、オールドファッションに思われるかもしれませんけれど、私の生き方もいい意味でオールドファッションなんですよ。電子レンジも持っていませんしね(笑)。ファーストフードのように様々な過程を排除したようなやり方は好きではないんです。ちょっと時間がかかったとしても、料理は一からやります。それがすごく大事だと思うんですよね、楽しいですし。子供たちと一緒にそういうことをするのもいいし、旦那さんもその様子を見ながらとてもあたたかい気持ちになるのよね。
でも、今の時代はなかなかそうやって生きていくことはむずかしいかもしれません。周囲はざわざわうるさいし、アクティビティもすごくあるし、何だかいつもどこかに向かって走っているみたいで落ち着かないの。だから自分で落ち着ける時間を作ることはとても大切です。
サチさんから<まい>役の高橋真悠ちゃんに、お芝居についてアドバイス等はされましたか?
あのときはただ毎日毎日、柘植プロデューサーと一緒にかわいがっていました。ロケ先ではお母さんもいないし、ホームシックにもなったでしょうしね。でも、すごく強い人なのね。彼女はこれから先、絶対に立派な女優さんになれると思いますよ。真悠ちゃんは素直ないい子だから、いずれ結婚して子供を産んでも、家庭と女優業とのバランスもうまくとれるんじゃないかしら。がんばってほしいですね。
鑑賞中、<まい>と一緒に<おばあちゃん>から魔女修行を受けているような気分になりました。サチさんはこの作品に出演して、改めて考えさせられたことたことはありましたか? また、出演前と出演後では気持ちにどのような変化がありましたか?
本作に関わる前までは、私はわりと興奮しやすい人間だったんです。感情的で、心配性で、ドラマチックで、いろいろと忙しくてね……(笑)。でも、撮影が終わってアメリカに帰ったときは大分落ち着いていましたね。この<おばあちゃん>から、とにかくいろいろなことを学びましたので。今は本当に幸せですけれど、迷うときもあります。そんなときは、<おばあちゃん>の言葉を思い出すとまた落ち着くんです。<おばあちゃん>の優しさや、物事の割り切り方、そして何事も強引にコントロールしようとしない人だから、そういった部分はとても勉強になりました。
サチさんの実際のおばあちゃんとの思い出は? また、12歳まで日本に住んでいたということで、印象的な風景や覚えている場所があれば教えてください。
私の祖母はけっこう忙しい人で、一緒に過ごす時間も残念ながら少なかったんです。だから、本作に出てくるようなおばあちゃんはうらやましいですね。
日本での1番いい思い出は、父と一緒によく奥日光の方にある加仁湯温泉というところに行ったんですけれど、ハイキング行ったり、露天風呂に入ったり、とてもいい時間を過ごせて楽しかったことです。
<おばあちゃん>は自然を通して<まい>にいろいろなことを教えましたけれど、そういう自然のすばらしさを私も父から教わったんです。
本作を観た方は“魔女”というイメージがずいぶん変わるんじゃないかと思いますが、サチさん自身が抱く魔女のイメージは変わりましたか?
ここで出てくる魔女というのは、<まい>が想像したような、ほうきに乗って空を飛ぶ魔女ではないんです。<おばあちゃん>は<まい>に“自分の直感をよく聞きなさい”という一番大切なメッセージを伝えたいのよね。でも、まだ12歳だからおもしろくわかりやすく教えてあげたかったんだと思います。“魔女修行”という名目で。「魔女修行の第一歩は規則正しい生活をすること!」なんて言っていたけれど、そういう規則正しい生活を送っていれば自分の直感も聞けるようになる、そういうことを言いたかったんだと思います。
でも、魔女っているのかしらね? 私もわからない(笑)
サチさんはどんな形でも、何かの魔女になれると思いますか?
いつかにはなれると思います。今、がんばってるんです、一生懸命(笑)。今すぐには無理だけれど、私がおばあさんになるときにはなれているといいなぁって思いますよ。
本作にはキッシュ、ワイルドストロベリーで作ったジャム、クッキーなど、とてもおいしそうな食べ物がたくさん登場しますが、実際に皆さんで食べたりはしましたか?
ジャムは食べたけれど、キッシュはスタッフが全部食べちゃったんです。あー、うらやましい!!(笑)。ジャムもクッキーもどれも最高な味でした。
日本の撮影とアメリカの撮影とで違いがあると思いますが、日本の撮影の良かった点をあげるとしたらどこですか?
撮影の仕方は大体同じでしたね。カメラマンの眞さんがよくハリウッドでやっている方なので、スタイルはほぼ同じだったんです。一番私が女優として感謝したのは、やっぱり長崎監督の撮影スタイルです。それは長崎監督独自のスタイルなのか、日本独自のスタイルなのかわかりませんけれど、本当に長崎監督はお上手。あの方は、直感でやるタイプなんですよね。アメリカでは自分が感じたものを演技で見せると大抵褒められるんですけれど、長崎監督は「抑えたほうがいい」と。そういった違いはありましたけれど、結果的にはその方法がすごく良かったんです。見せない方がすばらしくなるときもあるのよね。観る側が自分でもっと深くまで想像できますから。
執筆者
Naomi Kanno