人生も半ばを過ぎて、ある日、ふと自分が孤独であることに気付いたふたりの男。
彼らは偶然の出逢いから、不器用な友情を育んでゆく。果たして、ふたりは本物の友になれるのだろうか。

フランス映画界の巨匠、パトリス・ルコント監督の最新作『ぼくの大切なともだち』はふありの中年男の友情を丹念に綴った感動作。フランスをはじめ、ヨーロッパ、アメリカでロングランヒットを記録した。

名優ダニエル・オートゥイユとコミック界のスターであり自ら映画監督も務めるダニー・ブーンという本格初共演のふたりを起用し、友情の本音を自然にリアリティ豊かに表現した。

映画の中で親友を語るルコント監督はきっぱりと「自分に親友はいない。信頼できる友人がいればいい」と話した。本当に親友は必要なのか?心に刺さるセリフの数々が私たちに疑問を投げかけてくる。






——大人真面目に友だちとは何かを考える話が新鮮で面白いのですが、撮影にあたって気を使った点は?
脚本はジェローム・トネールと書いているが、彼には親友がいて自分にはいない。その時に二人で親友や友情に関して色々な話をして、「自分はいないけど平気だよ。」そんなやりとりから生まれたのがこの映画なんだ。あと、やっぱり多くの観ている人が感情移入できる人物を作ることが重要だった。改めて周囲を見てみると、仲間はたくさんいるけど、親友はいるのかと自問する人は多いと思う。特にフランソワに関しては感情移入できる人物を心がけた。

——脚本は具体的に俳優をイメージして作ったんでしょうか?
俳優を念頭に置きながらシナリオを描くことは結構あるが、今回の映画に関してはシナリオでキャラクターを書き上げ、誰が適しているかを決めていった。最初にダニエル・オートゥイユが決まって、その後にブリュノ役のダニーが決まった。

——中年の男性同志のバディムービーとして2人の役者の相性が必要だと思うんですが、二人の役者を組み合わせた時に何か発見はありましたか?
ほとんどの自分の作品では、知らない者同士がストーリーの中で知り合い、二人の関係性が変化していく。まるで化学者が一滴、二滴溶液をたらして反応を見るようにね。二人は非常に適していた。ダニエルは素晴らしい役者であるが、ダメな男をうまく演じきったと思うし、彼の力が300%くらい発揮されたと思う。フランソワは嫌な奴ではあるんだけど、どこか持っている子供っぽさを含めてキャラクターを作り上げたと思う。ダニー・ブーンに関しては、ちょっと違うアプローチだった。彼は喜劇のワンマンショーをたくさんやっている人で知名度が高いが、今回彼に求められる演技は実際に存在するようなごく普通の自然な人なんだ。日常生活の中で醸し出される感情が演技に要求されたが、そのために彼が持っているコミカルな部分を完全に消して自然な普通の男を非常に上手に演じた。だから、コミカルな演技が得意な人は自然な感情を自由に表現できるんだなと思った。

——笑えるシーンがたくさんありますが、監督自身が一番楽しんで撮影したシーンはどこですか?
フランソワのアパルトマンで娘と出会うシーンがあって、何が原因か分からないけどみんな笑い転げちゃって、25、6テイクは撮ったと思う。それが一番楽しかった。ほとんどの撮影は自分が住んでいる近所での撮影だった。いつもよく行くレストランや家電量販店での撮影はそういう意味では楽しかった。

——キャラクターとして、古物商とクイズが大好きなタクシー運転手をからめることでどんなことが生まれると思ったんでしょうか?
自分の映画で描かれる出会いは日常の中で出会いそうにない人達の出会いで、今回はタクシーの運転手が出てくるが、色々な出会いがある職種でよくありそうな出会いを可能にしている。でも出会い自体はありえないような出会いになってしまう。一般的な部分とあり得ない部分を作るのが今回の最大の目的だった。

——監督は俳優たちに快適な環境を与えていると思いますが、俳優たちの演技を引き出すために大切にしている雰囲気作りについて教えてください。
苦痛を感じさせないことが重要で、映画そのものは楽しめる仕事だと思うんだ。彼らが楽しいと思うこと、信頼しあっている環境を作ることが俳優のいい演技を引き出すコツだと思う。

——俳優に対してどのような演出をしているんでしょうか?
そんなに細かく話をしたりすることはない。もちろんざっくりと説明はするが、基本的には役者が持っている感性を重視する。大まかな方向性、こういう風な感じでという言い方はするが、具体的には言わない。役者はマリオネットじゃないんだから。

——演出する上で絶対に妥協できない部分はどこですか?
いかにも演出したという痕跡を残さないことが重要だと思っていて、もちろん演出スタイルがあるが、見ている人に明らかに感じさせないこと。これはコメディーだし大衆的な映画だと思うんだ。ちゃんとした方向性があって、カメラや照明にも気を使っている。でも見ている人にまざまざと分かる方法はとらない方がいいと思う。

——あと3本撮ったら引退すると言った理由は?
引退すると言った覚えはないが、長編はあと3本で辞めると宣言した。それはもっと穏やかな生活をしたいという気持ちもあるし、映画を一本撮るというのは重いものがあるし、色々な責任がある。作れば作るほど撮りやすくなる環境はあるんだけれども、一方で負荷は大きくなってくる。そこから開放されて少し荷を軽くしたいという気持ちはある。

——残りの3本を撮った後にチャレンジをしたいことは?
シナリオを書いたり、舞台の演出やドキュメンタリーやメイキングフィルムを作っていきたいと思っている。

——悲劇を撮らないと思った一番のきっかけは?
人生そのものはそんなに楽しいおもしろいことばかりじゃないと思うんだ。だからあえて悲しい映画を作って観た人の気持ちを盛り下げるよりもポジティブな映画を作って盛り上げる方向性がいいかなと思うし、年齢のせいかもしれないんだけど、今は穏やかなものを欲する方向に向かっているのかなとも思うよ。

——次回作でブノワ・ポールヴールドを起用した理由は?
もともとブノワは好きな俳優でいつかやりたいと思っていて、彼と仕事をしたいがために起こした企画ともいえる。最初にブリュノの役をブノワにオファーしたんだけどスケジュールが合わずに実現できなかったんだ。

——この作品の魅力について
作った本人として語るのは難しいが、フランスでの観客たちの反応によると非常に理解しやすいコメディーだったと聞くことがある。友情や親友とは何かと自問しやすいという声があった。分かりやすいだけでなく心に痕跡が残るものを重要としているので、その部分を見て欲しいと思う。

執筆者

Miwako NIBE

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