健気なOLの泉(井上和香)と、病気を理由に仕事をしないヒモ男のヒロミ(西川貴教)。
2人は同棲中のカップル。ある日、泉が会社をリストラされるが、それを知らないヒロミは「高級メロンが食べたい」と言い出す。
泉はメロンを手に入れようと奔走するのだったが・・・!?
本作は、映像と音楽のカタチを創造するcinemusica(シネムジカ)第5弾の最新作。
監督は『タナカヒロシのすべて』『うた魂♪』などで知られる田中誠監督を迎え、2人のカップルを取り巻く人々として、小嶺麗奈、鳥肌実、広澤草など個性的なキャストが揃う。
さまざまな出来事が降りかかるカップルを繊細かつシュールに演じ、本作が映画初主演となる井上和香と西川貴教に、お話を聞いた。





——初めて脚本を読んだ時の感想は?

西川貴教(以下、西川):「まず、台本を頂く前に監督から“こういうものを作りたい”というプロットのようなものを頂きました。その時から、僕の演じる役というのはヒモ男で、甲斐性なしで、病気持ち、という難しい役だったんですけれども(笑)
観て頂いた方には、最終的に自分がそこから一歩踏み出すきっかけになってくれる作品になってくれるんじゃないかと思いました。ワードだけ聞くと、すごく引っかかる感じがすると思うんですけど、伝えたい事はすごく前向きな気がしましたね。」

井上和香(以下、井上):「台本を最初に見た時に、全体的にセリフが少なかったので、表情だったり動きが表現を占めていて伝えるのが難しいなと思いました。
読んでいく中で、すごくあったかくて、2人の気持ちが純粋でかわいらしい、無邪気な子供のように感じられたので、泉像を作り上げることはそれほど難しくはなかったですね。」

——井上さんは元々西川さんのファンだったそうですが、実際に共演してみていかがでしたか?

井上:「3年まえに初めてお会いした時は感動して泣いてしまって、今回もやっぱり初めは緊張してしまったんですが、西川さんは普通に接して下さったし、ムードメーカー的存在だったので、楽しく撮影できました。」

西川:「泉というのは、人から見ると無邪気でピュアなところもあり、それ以上に危うさを持っている役。井上さん自身は、TVなどで見ているとしっかりしているイメージがあったのですが、実は少女っぽいところも、逆に大人っぽいところも兼ね備えているんです。」

——お互いの相手の役柄について、実際には好感を持てますか?

井上:「一切持てませんね(笑)」

西川:「(笑)」
井上:「表向きのヒロミには、好感は持てないですね。ヒモ状態であると同時に、泉という彼女がありながら、女医という浮気相手も家に呼んでしまったりと、本当にやりたい放題の人なので、女から見たら敵にしか見えないですね。
でも、作品をよく見ていくと、ヒロミの本当の気持ちや、泉への思いというのが出てきて好感が持てるようになってきます。けど、やっぱりもうちょっと頑張ろうよってアドバイスをしたくなってしまいますね(笑)」

西川:「もしかしたら、ヒロミは泉が本当に好きなだけにやっかまれたり、わざと裏腹な事をして気を引こうといしているような気がするんですよね。
ぱっと見は泉を裏切っているように見えるかもしれないけれど、2人っきりの時には精一杯の愛情を泉に見せるんです。
そういう、やればできるところを引き出せる泉の魅力っていうのは感じますね。
他にも言い寄ってくる女性がいるんだったら、そっちに行けばいいけれど、ヒロミは行かない。やっぱり何だかんだ泉の事が好きなんですよね。
それは、泉はヒロミの事が好きというだけではなく、ヒロミも実はすごく泉の事を愛しているという事なんでしょうね。」

——泉は、同級生が登場するなど過去の話も触れられていますが、対してヒロミは謎が多い人物ですよね。監督とは、どのような話し合いで役作りをしていったのでしょうか

西川:「場面場面ではただのヒモであったり、途中で鼻歌を歌うシーンもあったり、もしかしたら過去に、音楽なのか何か自分でやっていた事があるのかもしれませんね。
ヒモになる前に、ヒロミが色々と思うところもあったんじゃないかなという、自分なりの解釈を監督に伝えました。
どういう経緯で結核になったのかなど、問い正していくと気になるところは沢山あるんですけれども、もしかしたらそんな細かい話も泉にはしていないんじゃないかという感じですね。自分の気持ちを言ったり表現するのが下手な人だと思います。」

井上:「本当に謎なんですよね。過去っていうのは、泉とラーメン屋で知り合ったところしか描かれてませんしね。」

——鼻歌を歌うシーンでは、「プカプカ」という曲を歌ってらっしゃいますが、あれは誰のアイディアなんでしょうか

西川:「あれは監督ですね。同時に、心がポッとなるようなシーンが絡まっていたりします。」

井上:「私はそのシーンには撮影に参加していないので全然知らないんですよ。まだ完成した作品を観ていないので。」

——映画の中で歌うというのは、歌手として歌うという事とはまた違うと思うのですが、何か気をつけた事はありましたか?

西川:「今回重要だったのは、2人ともいかにお芝居にならないかというところだったんです。いきなり現場で監督から“歌ってくれ”と言われてたんですよ。本読みの時にはまだ資料を貰っていなくて、本番になってから聞きました(笑)
その場で聞いて、その場で聴いたメロディーを、詞を見ながらなんとなく歌ったんです。
「プカプカ」は、監督がすごく思い入れのある曲らしくて、70年代にヒットしたフォークソングなんですよね。
劇中で歌ってはいるんですけど、つい本当に歌ってしまうので、歌っちゃいけないというのは難しかったですね。」

——撮影中、印象的だった出来事は?

井上:「2日目に泣くシーンの撮影があったっていうのはすごく大変でしたね。
前の日からそれが大問題で、まだ始まったばかりでどんな空気かもわからない中で、どうしようと思ったのですが、台本を読み込んで、現場で色々話していく中で、自分の中で泉像ができていったので。」

西川:「僕は、撮影初日のファーストカットが、浮気相手の女医の方も交えて3人で食卓を囲むというシーンだったので、普通だったらありえない状態ですから、どんな顔をしていればいいのかというのはすごく難しかったですね。」

井上:「ハローワークの看板のシーンが原宿のロケで、ちょうどその時代々木体育館で春高バレーをやっていたので、尋常じゃない数の高校生たちに囲まれて撮影が困難になったんです。アイドルになったんじゃないかと思いました(笑)」

西川:「オールアップの日がそれぞれ2人とも違う日で、僕が最後のカットを撮影する日は井上さんは先に終わっていたんです。でも、最後の撮影が終わった時に井上さんから花束を頂いたのがすごく嬉しかったんです。そのお返しをしようと、彼女の最後の撮影の日に僕も待っていようと思って、お祝いをしようと思って撮影現場の近くで待っていたら、その前を撮影が終わった井上さんが車に乗って通り過ぎていったんですよ(笑)」

井上:「“あ、あれ西川さんじゃない?”って私たちも気付いて、車の中でマネージャーさんと見てましたよ(笑)」

西川:「何のサプライズにもならなかったんですよね。レコーディングの合間を抜けて言ったのに・・・。」

——では最後に、この作品が持つメッセージをお願いします

井上:「この作品は、本当に面白くて笑えますし、純粋な2人の思いというのがかわいく描けていると思うんですよね。恋愛していると、相手の事が信じられなくなったりとつらい事もあるのではないかと思います。でも、ヒロミは泉が知らないところで彼女の事を思ったり、考えながら行動を取っているというように、もしかしたら見えないところで相手のために頑張っているかもしれないって観ていただいた方たちが、相手を信じられるようになったら嬉しいなと思います。」

西川:「人それぞれに色んな人間模様というのがありますが、お隣の家を覗き見しているような、近くで起きているような出来事の感覚でこの映画を観て頂けると、周りの人や、カップルの関係性を見直していける機会になるんじゃないかと思います。」

執筆者

池田祐里枝

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